東地中海ワインに魅せられた、或るバイヤーの話

嬉しい日には、普段よりも素敵なワインで乾杯しませんか? ストーリーのあるワインは、特別な一日を演出します。今回は、東地中海ワインを輸入するヴァンドリーヴを運営するレバノン出身のエルクーリ・スヘイルさんと、エルクーリ・麻由さん夫妻のエピソードをご紹介します。

目次

日本でワイン輸入を始めたキッカケは?

ヴァンドリーヴ代表のエルクーリ・スヘイルさん。
ヴァンドリーヴ副代表のエルクーリ・麻由さん。

【スヘイル】日本には最初は留学生として来日し、早稲田大学で国際政治を学んでいました。大学卒業後、一度レバノンに帰国し、10カ月後に再来日。そのタイミングで麻由と結婚しました。

【麻由】10代から20代にかけて、ヨーロッパに滞在することが多くありました。移動中の機内で知り合ったトルコ人の友人に大学の新歓パーティーに誘われ、そこでスヘイルさんと出会い、結婚しました。結婚前、私はワインとは無関係の生活でした。

【スヘイル】大学卒業後の仕事を考えたとき、学生時代によく通っていたワインバーにレバノンのワインが置いていないことに疑問を持ちました。自分はワインが好きだし、これはチャンスだと思いました。

【麻由】スヘイルさんが一時帰国中、色々なワイナリーを訪問してきました。日本に戻るとすぐに酒販免許などの準備を整え、2012年1月にヴァンドリーヴを立ち上げました。

どのようなレバノンワインを輸入していますか?

【スヘイル】最初に輸入したのは「ドメーヌ・デ・トゥーレール」の3アイテムです。1868年にフランス人冒険家(フランソワ-ユジェーヌ・ブラン)が創立した、レバノンの一番古い商業ワイナリーです(ブラン家の子孫が途絶えた後、2003年にブラン家と親しいイッサ家とイッサ・エルクーリがワイナリーを購入)。

レバノンに帰国中、雑誌社で勤務中に特集したワインのブラインドテイスティングで、トゥーレールのアイテムが一番良かったことが選定の決め手でした。レバノン内戦の時代(1975~1990年)、ワイン生産者は片手で数えられるほどしかなく、戦後に少し増え、2000年代になってまた増えてきました。

【麻由】2022年、レバノンのワインと戦争をテーマにしたドキュメンタリー映画「戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン」が日本でも上映されました。ドメーヌ・デ・トゥーレールはその中にも選ばれている生産者です。現在扱っているレバノンのワイナリーは、ここと「シャトー・クーリー」の2つだけ。クーリーはオーガニック認証を取得しています。

現在はレバノン以外の国のワインも輸入していますよね?

【スヘイル】ヨーロッパを中心に15カ国のワインを輸入しています。レバノンは東地中海に位置する国なので、最初のテーマは東地中海でした。レバノンの次はギリシャで2014年から。クロアチア、スロベニア、ジョージア、さらにオランダ、ベルギーと、東地中海以外にも広がり、約23生産者、100~150アイテムです。

オランダは、2018年にオレンジワインについて初めて本を書いたイギリス人で、自然派やオレンジワインの専門家でジャーナリストのサイモン・ウルフ氏との縁からです。彼はオランダの最初のオレンジワインを造ったワイナリーで収穫の手伝いをしていたので、そこを紹介してくれました。

【麻由】コロナ明けからスウェーデンなどの北欧も始まりました。

ワイナリー選びの基準は?

【スヘイル】コンセプトとしては、サステナブルかオーガニックのワインを選んでいます。

【麻由】ヴァンドリーヴのセレクションにはスヘイルさんが選ぶ「スヘイリズム」があるとよく言われます。私たちの日々の食事もオーガニックやサステナブルなものが選択のベースです。できるだけケミカルなものや人為的介入を避け、自然の力を活かしたワインを選んでいます。品種や国が違っても、同じような哲学で造られているワインで、味わいの最後の終着点が見えるような選び方をしています。

レバノンワインの産地と味わいは?

【スヘイル】レバノンは海と山が隣接した地形で、首都ベイルートの近くでも車で10分走ると標高600、700メートルくらいの山になります。レバノンは、海、山、高原、また山という地形です。レバノンワインの70~75%を生産するベカー高原は二つの山の間にあり、標高は900mから1800mほど。冬はとても寒く、夏は暑くなりますがドライな気候のため、オーガニック栽培はそれほど難しくありません。レバノンは赤ワインの方が知られています。ポリフェノールが豊富で熟成に向き、抜栓後も持ちが長いのが特徴です。

【麻由】赤ワインは果実味と酸味のバランスが取れ、とてもエレガントなものが多いです。標高が高く、乾燥していて陽射しが強く、絶対にいい場所だと感じました。ワインができた最初の土地の一つと言われている土地で、昔のバッカス神の神殿があり、モザイク壁画にはワインのことが描かれ、そうした歴史を知りながら飲むことにロマンを感じます。

【スヘイル】ブドウはフランス系が多く、たとえば、サンソーはレバノンでは19世紀のはじめから栽培されている南フランスの品種です。戦争後は、ほとんどのサンソーは抜かれ、カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーが植えられました。白ワインは地場品種が多く、シャトー・ミュザールはレバノン土着の白品種を最初に広めたワイナリーですが、樹齢150年のオベイデを収穫しているのはドメーン・デ・トゥレールで、同社のヴィエイユ・ヴィーニュ白およびオレンジワインに使用されています。

【麻由】ジョージアをワインの起源とする説とは別に、レバノンを含むルートを起源とみなすもう一つの仮説があります。これは、ペン博物館(Penn Museum)の考古化学部門サイエンティフィック・ディレクターであるパトリック・マクガヴァン氏が提唱するものです。彼は、三大陸が交わる地点に位置するレバノンを通るルートに古代の醸造文化の起点を見出しています。

おすすめの3本と合わせる料理を教えてください

(左)ヴ二 パナヤ アリーナ(原産国キプロス/3,630円)
(中)ダッセムズ これはオレンジじゃない(原産国オランダ/4,598円)
(右)ドメーヌ デ トゥーレール サンソー ヴィエイユ・ヴィーニュ(原産国レバノン/3,696円)
※すべて税込み価格

【スヘイル】ヴ二 パナヤ アリーナは、キプロスの一番有名な白ぶどうの地場品種クシニステーリを使っています。島国でフィロキセラ(ブドウ根アブラムシという病害虫)がいないため、すべて接木なし栽培され、ミネラリーな味わいの白ワインに仕上がっています。

【麻由】オーガニックのキプロスワインです。キプロスでは古木が多く、樹齢は80年。伝統的なスイートワインが人気ですが、辛口スタイルを紹介したくて選びました。醸造量が少なく、国外にもあまり出ません。さっぱりしてミネラル感が強く、古木のうま味も強く、夏はもちろん、秋冬にもオススメです。料理は、魚介、さっぱりしたもの、何にでも合います。日本食に合うような、うま味と合うワインです。シトラスのニュアンスに合わせて、魚介の天ぷらに柚子塩と、舞茸などのキノコ類も合うと思います。

【スヘイル】ダッセムズ これはオレンジじゃないは、おそらく他のインポーターでは見ない珍しいオランダのビオディナミワインです。オランダの最初のオレンジワインで、菌耐性のPIWI品種をブレンドしています(50%スヴィニエ・グリ、35%ソラリス、15%ムスカリス)。

【麻由】最初にグレープフルーツがパアッと来て、少し苦みとうま味、ベジタルのニュアンスを感じます。日本で大人気になったので、生産者が日本の国旗をラベルデザインに入れました。生産量が少なく、他国からも引き合いが多いそうです。PIWI品種は気候変動の影響で使われる例が増え、品種自体のクオリティも上がってきました。

アルコール度数10%と低いので、ワイン単体で飲んでもいいですが、エキゾチックな料理にも合うと思います。コリアンダーやイタリアンパセリなどのハーブと合わせたアンティパスト、海老とオリーブオイルを和えたものなど。レバノン料理や中東の料理はスパイスやハーブを多用します。イタリアンパセリと穀物が少し入ったサラダ、トマトやイタリアンパセリが入った地中海っぽいサラダなどにも合います。

【スヘイル】ドメーヌ デ トゥーレール サンソー ヴィエイユ・ヴィーニュは、本当のレバノンのテロワールを表現する樹齢80年のヴィエイユ・ヴィーニュ(古木)のぶどうを使ったワインです。今は40代のワインメーカーは、知り合った当時は20代で、レバノンで一番若いワインメーカーでした。造り始めたばかりのサンソーはまったく人気がありませんでしたが、レバノンの気候に合っていると思います。

【麻由】今はレバノンサンソーと呼ばれています。南フランスのサンソーはとてもさっぱりしてニュートラルなものが多いので、ブレンドによく使われます。このサンソーはレバノンの土地で樹齢を重ねてきた古木なので、うま味、ミネラル感がしっかり感じられ、単体で出せる味わいを持っています。

クリスマスに開けたい赤ワインで、七面鳥はもちろん、フレンチスタイルのベリー系ソースをかけた鴨、地中海風を出すのであれば子羊のローストと。ローズマリーのようなハーブでローストした子羊は絶対においしいと思います。

レバノンのクリスマスや新年には特別な料理がありますか?

【麻由】他のヨーロッパの地域と似ていて、ターキー、チキン、羊を食べたりします。クリスマスだから特別に何か、というのはありません。普段から小皿料理が多く、チーズの種類もとても多い国なので、新年も、おつまみやチーズを食べながら飲んで、という感じです。レバノンの国民は多様な背景を持ち、色々な国のモザイクなので、料理も色々です。

【スヘイル】今は特にありませんが、よく調べるとクリスマスの特別な料理が見つかります。100年前に山の中で何かしらの料理があったようです。

今後の夢や目標は?

レバノンのワイン、食文化を伝えたいという情熱を持つ二人の活動は、ますます広がっていきそうです。

【スヘイル】今度初めて日本に来る私の母が料理大好きなので、何か料理のイベントをやってみたいと考えています。

【麻由】レバノン料理はとても複雑で、世界一おいしいと思っています。レバノン料理とワインのしっかりとしたペアリングをしているレストランはレバノンにも世界のどこにもありません。スヘイルさんのお母さんの来日もあるので、レバノン料理とワインのペアリングを、レバノン文化も含め、本格的に提案したいですね。

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お話を聞いたのは●エルクーリ・スヘイルさん/エルクーリ・麻由さん

エルクーリ・スヘイル/ヴァンドリーヴ代表。レバノン共和国出身。世界各国の大学で学んだ後、早稲田大学の留学生として来日。専攻は国際政治。在学中に麻由さんと結婚。卒業後、2012年にワイン輸入会社ヴァンドリーヴ株式会社を設立。

エルクーリ・まゆ/ヴァンドリーヴ副代表。東京都出身。音楽家の家族の影響で音楽系の高校に入学、卒業。青山学院文学部フランス文学科を卒業し、エルクーリ・スヘイルさんと結婚後、エルクーリさんと共に2012年にワイン輸入会社ヴァンドリーヴ株式会社を設立。

Vd'Oヴァンドリーヴ株式会社

聞き手●綿引まゆみ(ワインジャーナリスト) 写真●花井智子

  • 本記事の内容は2025年12月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

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