理想の住まいの選び方 コンテンツ一覧

費用高騰に対抗する策とは?「マンションの大規模修繕金」の実態

物価の高騰でマンションのランニングコスト、特に修繕積立金への不安が高まっています。ベテランの住宅評論家・櫻井幸雄さんが分譲マンションの修繕費用の基本とリアルな実態について解説します。

目次

修繕費用が足りなくなる?

分譲マンションでは、住み続けている間ずっと払い続けなければならないお金がある。それが毎月の「管理費」と「修繕積立金」だ。物価上昇が続くいま、「管理費」と「修繕積立金」に関して不安の声が広がっている。

マンションに住んでいる間のランニングコスト=管理費と修繕積立金が値上がりしたらどうしようという心配。そして、修繕積立金が不足し、一時金として大きな金額が徴収されたら大変、という不安だ。特に心配する声が多いのは「修繕積立金」に関して。建設費全般が値上がりしているため、修繕費用が足りなくなるのでは、と考える人が多いからだ。

毎月の積立金だけでは足りず、数十万円、あるいは100万円を超える一時金を追加徴収されたらどうしよう……。不安が広がる分譲マンションの「修繕費用」について、リアルな状況を解説したい。

分譲マンションでも一戸建てでも、維持費はかかる

分譲マンションに住むと、毎月支払うことになる管理費と修繕積立金。それらは「一戸建てなら払う必要のないお金」ともされる。が、本当にそうだろうか。

たとえば、一戸建てでもセキュリティを固めるために警備会社と契約すれば、毎月の警備費用が発生する。その費用は場所や大きさなどにもよるが、月額で5,000円から1万円程度が一応の目安だ。半年ごと、もしくは1年ごとに庭木の手入れを造園業者などに依頼すれば、その費用も発生する。輪番でごみ集積場の掃除もしなければならない。マンションの管理費に代わる出費や労務が、一戸建てでも発生することになる。

また、一戸建てでも建物を定期的に補修する費用が発生する。修繕の費用を毎月積み立てるケースは少ないので、屋根や外壁の補修を行うと一度にかなりの出費となる。家のまわりに足場を組み、数日間何人かの職人に入ってもらうことを考えれば、数十万円で収まるかどうか。100万円を超える出費もあり得る。

一戸建てに住んでも、マンション同様、管理と修繕の費用が発生する。が、一戸建ての場合は「そのようなことにお金をかけない」という選択もできる。結果として、庭は荒れ放題、建物は傷み放題という事態がまれに生じてしまうわけだ。

しかし、多くの人の共有財産となるマンションで「荒れ放題、傷み放題」は困る。そこで、定期的に建物の補修を行い、そのための費用を毎月積み立てる。それが、マンションにおける修繕積立金の基本である。

新築購入時に預ける「修繕積立基金」が定着

じつは、マンションの修繕費不足が大きな問題となった時期があった。それは昭和の後期、西暦でいえば1990年前後。今から30年以上も前の話だ。

当時、大規模修繕を行おうとしたら、積み立てていたお金が足りない。仕方なく、数十万円に及ぶ一時金を全世帯から徴収する事態がいくつかのマンションで生じたのである。マンション新築時から10年ほどが経ち、多くの世帯は子育ての真っ最中。まとまった額の貯金もない世帯が多く、一時金徴収に困る世帯が続出した。

なぜ、そんな事態が生じたのか。調べてみると、マンションを販売した不動産会社の不備が発覚した。マンションを売りやすくするため、修繕積立金の額を少なくし、「毎月の負担が少ないマンションです」とアピールしたのだ。これは当時の社会問題となり、「マンションなんて、買うものじゃない」という批判も飛び出した。

そこで、不動産業界は対策を講じた。まず、しっかりした計算に基づき、毎月の修繕積立金を算出する。むやみに安くしないようにしたわけだ。それでも不測の事態がありうるので、新築購入時に「修繕積立基金」という名目でまとまった額を預けてもらう方式が定着した。その額は数十万円から数百万円にのぼるが、100万円を超えるケースは少ない。この「修繕積立基金」は、購入時の住宅ローンに組み込むこともできる(すべての住宅ローンで組み込み可能ではない)。

つまり、不安を減らし、負担も少ない方式が確立されたわけだ。加えて、社会情勢の変化(物価上昇など)に合わせ、毎月の修繕積立金を徐々に上げていく方式も生まれた。建物が古くなれば修繕費用も高くなる。それに対応する方式になったのだ。

以上の工夫に加え、近年は新たな策も生まれている。

大規模修繕の周期を延ばす動きも

昭和時代、マンションの大規模修繕は10年に1度行うことを基準にしていた。その間隔が広がり、今は15年程度に1度というケースが増えている。大規模修繕を行う間隔を広げることで、修繕積立金の積み上がりが増え、工事費用の上昇にも対応できるようにしているのだ。

昭和時代、マンションの寿命は40~50年とされた。その後、建設技術や素材が進化したことにより、平成以後、鉄筋コンクリート造のマンションは100年程度の寿命があると考えられるようになった。実際に100年もつかどうかは100年経たないとわからないが、昭和時代より寿命が大幅に延びているのは間違いない。それに合わせ、大規模修繕のスパンも長くなっている。

工事費用を抑える工夫を凝らす

加えて、大規模修繕の施工方法にも工夫が広がっている。

大規模修繕を得意とする建設会社が増え、工事費用をなるべく抑える工法が模索されているし、修繕を補助する管理会社も大規模修繕に対応する部門を拡充。施工会社と協力して、工事費用を抑える工夫を凝らしている。

「大規模修繕の費用が上がる」という状況への対抗策が講じられているわけだ。とはいえ、大規模修繕に際し、銀行から資金の借り入れを行う管理組合は少なくない。そのことから「やっぱり費用が足りないんだ」と勘ぐる向きもある。

しかし、実際は「費用が足りないから借りる」のではない。費用は足りているが、それを使い切ると大規模修繕の直後に災害などが起きたときに困ることがある。建物に損傷が生じても急ぎの対応がしにくいのだ。そのためのお金を残すため、一部費用を銀行から借り入れる……賢い方法といえるだろう。

マンションの大規模修繕で費用の問題は30年以上前から起きている。その対応も進んでいるため、むやみに心配をする必要はないのではないだろうか。それが、マンション大規模修繕のリアルということになる。

  • 本記事の内容は2025年10月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

こちらの記事もご覧ください!

2回目の大規模修繕工事の見逃しポイントと対策
経験者が語る! 2度目の大規模修繕でトラブルになったワケ
後悔しないマンションの大規模修繕の話
防災対策と電気代の節約を可能にする「蓄電リフォーム」のススメ

物件価格と住宅ローンが上昇傾向…2025年のマンショントレンドと...

マンション居住者がリアル証言!「住み替え」か「リフォーム」か? ...

水まわりリフォーム完全ガイド! 費用相場から後悔しない進め方まで