本格的な料理が楽しめる“グルメ列車”が人気
目的地までの単なる交通手段とは異なり、「列車に乗っている時間そのものを楽しむための車両」が、観光列車です。車内で食事が提供されたり、演奏会や途中駅での散策などのイベントが企画されていたりして、出発前からワクワク感を覚える――それが観光列車の醍醐味だと思います。
日本では現在、100を超える観光列車が走っています。海や山、渓谷など四季折々の変化に富んだ自然の景観に加え、地域ごとの文化や食の多様さが、それぞれの列車に個性を与えています。さらに、日本人の細やかなおもてなしの心が、観光列車の人気を支えていると感じます。世界でも、ここまで多彩でサービスレベルの高い観光列車が走る国は、おそらく他にはありません。
近年の観光列車の特徴として挙げられるのが、プライベート空間の重視です。たとえば近畿日本鉄道の「しまかぜ」などは、3~6人のグループで利用できる個室があります。一方で、JR四国の「伊予灘ものがたり」、JR東日本の「HIGH RAIL1375」などでは、窓を向いたカウンター席や1人掛けのリクライニングシートといった座席があり、一人旅でも気兼ねなく楽しめるような工夫が凝らされています。
コンテンツとして目立つのは、食事を楽しめる“グルメ列車”で、地元食材を使ったコース料理を味わいながら走る列車が注目を集めています。たとえば西日本鉄道の「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」は、車内に“窯”を中心とした大型オープンキッチンを備え、沿線地域の新鮮な食材を列車内で調理して提供しています。また、あいの風とやま鉄道の「一万三千尺物語」では、富山湾で水揚げされた新鮮な海の幸を、同乗する寿司職人がその場で握る「富山湾鮨」などのコース料理が堪能できます。
地域と連動した独自性の高いイベントを行う列車も人気を博しています。一例を挙げると、秋田~青森間を走るJR東日本の「リゾートしらかみ」には、津軽三味線の生演奏があり、一つの目玉となっています。
観光列車王国・九州の列車は車窓風景も内装も美しい
地域でいうと、九州地方には15本ほどの個性的な観光列車が走り、注目を集めています。
まず素晴らしいのが、車窓風景です。特に豊肥本線、久大本線という2本のローカル線がよくその名を知られています。豊肥本線は阿蘇山のカルデラの内部を通る、世界でも例を見ない路線です。久大本線は日田や湯布院という温泉地を結び、山深い渓谷や、山麓の高原の絶景を堪能できます。その他に、長崎エリアには大村線や長崎本線といった海沿いをたどる路線もあり、こうした風光明媚な地に観光列車が多く走っています。
また、列車自体にも特徴があります。多くの車両がデザインにこだわり、ホテルやレストランと見まがうばかりの美しさや豪華さを備えているのです。たとえばJR九州では、デザイナーに水戸岡鋭治氏を起用し、「ななつ星in九州」に代表されるような、木目調の内装や白と黒を基調とした上質なデザインの列車を走らせています。「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」は、城島瓦、久留米絣、八女の竹編みなど、地域資源を随所に取り入れたデザインで、家具のまち大川の家具を使用したほっと落ち着く空間となっています。
人気列車のキャンセル待ちは、3~4日前がおすすめ
観光列車を選ぶ際のポイントとしてまず挙げておきたいのが、座席選びです。観光列車は全席指定が多く、ボックス席、カウンター席、個室など、タイプによって景色の見え方が異なります。景色がいい座席を選ぶため、地図を見て左右どちらの窓からどんな景色が見えるのかを確認しておくとよいでしょう。ちなみに日中の旅程なら、北側の座席を選ぶと、太陽の光が背後から差し込むため、まぶしさがなく景色を楽しめます。
座席の購入については、人気列車だと発売直後に満席になることも少なくありません。そうした列車を検討するなら、直接予約だけではなく、旅行会社が販売するプランものぞいてみましょう。一般販売よりも早く予約できる場合があります。
キャンセル待ちを狙うなら、出発の3~4日前がおすすめです。多くの鉄道会社では、出発の2日前からキャンセル料が高くなります。旅行を断念する人たちは、手数料が上がる直前にキャンセルを済ませる傾向があり、そのタイミングで空席がやや出やすくなります。
乗るだけで地域の食や文化に触れられ、日本らしいおもてなしがあり、四季折々の絶景も楽しめる――観光列車には、何度も乗りたくなる魅力が詰まっています。ぜひ一度、体験してみてください。
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- 本記事の内容は2025年11月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。
お話を聞いたのは●谷崎 竜さん
たにざき・りゅう/旅専門ライター&カメラマン。1969年生まれ。千葉大学在学中にJR全線完乗。卒業後に世界50余カ国を放浪し、帰国後、旅専門のフリーライター&カメラマンとして活動する。著書に『上海リスボン街道』(連合出版)、『赤道の万年雪』(亜紀書房)、『のんびり各駅停車』(講談社文庫)など多数。
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