老後資金はいくら必要?
2019年に「老後2,000万円不足問題」が話題になりましたが、実際に必要な老後資金の額は、各家庭の状況により異なります。そのため、まずは自身や家族の老後資金を把握しておくことが重要です。
老後資金の過不足額は、老後の期間を65歳から30年間とした場合、おおよそ次の計算式で算出できます。
(毎月の収入額-毎月の支出額)×12カ月×30年-介護費用440万円(※)- 介護費用は生命保険文化センター「2024年度生命保険に関する全国実態調査」に基づき、世帯のうち1名に介護費用がかかると仮定して筆者が計算
例えば、65歳の夫婦で、毎月の収入(年金)が25万円、支出が30万円の場合、
(25万円-30万円)×12カ月×30年-440万円=▲2,240万円(=不足額)このケースでは2,240万円の蓄えがあれば不足額をカバーできますが、蓄えが足りない場合は、他の手段で資金を確保する必要があります。
このように、まずは各家庭の老後資金を把握した上で、不足している場合は補う方法を検討しましょう。
マイホームを売却して老後資金をつくる
近年、都市部を中心に新築マンションの価格が高騰しており、相対的に割安感のある中古マンションの人気が高まり、価格も上昇しています。こうしたタイミングを活かし、自宅マンションを売却してコンパクトな住まいに住み替えることで、売却による手取り額と新しい住まいの購入費との差額を老後資金として確保するという選択肢があります。
家族構成や生活スタイルの変化も、住み替えのきっかけになります。例えば、子どもが独立した後の夫婦二人の生活では、従来の広さや間取りが必要なくなることもあります。こうしたケースでは、自宅を売却し、これからの生活に必要な広さにダウンサイジングすることで、老後資金を捻出することが可能です。
例えば、3LDKの自宅マンションを6,000万円で売却し、2LDK・4,000万円のマンションに買い替えた場合、諸費用が500万円かかったとしても、1,500万円が手元に残ります。これは老後の生活資金やこれからの人生を楽しむための資金として活用できます。
また、住宅ローンを返済中であっても、自宅を売却してローンを完済し、残った資金で住み替え先の物件を購入できれば、老後の支出を減らすことが可能です。
なお、自宅の売却益(譲渡所得)が3,000万円までは「3,000万円の特別控除の特例」により課税されません。特例の適用条件や計算については、事前に税理士や税務署に確認しましょう。

すべてのマンションで活用ができるわけではない
ただし、自宅売却による資金確保がすべてのマンションで可能とは限りません。一般的に、次のような条件のマンションは売却しづらく、資産価値も下落しやすい傾向があります。
- 立地条件が悪い(駅から遠い、生活利便性が低い、治安が悪いなど)
- 築年数が古く、修繕積立金が不足している
- 管理状態が悪い
- 極端に狭い、間取りが使いづらい
このような物件を安易に売却すると、資金を十分に確保できなかったり、損失が生じたりして、老後の家計が不安定になってしまう恐れがあります。まずは、自宅の現在価値を確認し、活用の可否を判断しましょう。
老後資金をつくるための他の選択肢
自宅の売却以外にも、老後資金を確保する方法があります。
(1)老後も働く
最も実行しやすい方法は、老後も働き続けることです。令和7年版「高齢社会白書」によると、65~69歳の就労率は54.9%、70~74歳でも35.6%と多くの高齢者が働いています。
老後も働くことで家計が改善されるほか、年金の繰り下げ受給という選択肢も生まれます。例えば、年金の受給開始年齢を67歳まで2年繰り下げると受給額は16.8%増加し、税金や社会保険料が差し引かれても、老後の収入は増加します。
(2)リバースモーゲージを活用
リバースモーゲージとは、自宅を担保にして金融機関から老後資金を借りる仕組みです。自宅に住み続けながら、存命中は利息のみを支払い、亡くなった後に自宅を売却するなどして元金を一括返済します。
リバースモーゲージには、さまざまな活用法があります。例えば、住宅ローンが残っている場合、リバースモーゲージに借り換えることで、毎月の返済額を利息分のみに抑えられます。
また、リバースモーゲージと自宅の買い換えをミックスして活用する手法もあります。自宅の売却資金のうち、例えば、半分を新しい自宅の購入資金に充て、不足分はリバースモーゲージを借りれば、売却資金の半分は老後資金として活用することができます。
ただし、マンションは対象外とする金融機関もあるため、事前の確認が必要です。
(3)賃貸への転換
高い家賃が期待できる地域では、自宅を賃貸に出し、よりコンパクトな賃貸住宅に住み替えることで、家賃の差額を老後資金に宛てることができます。
その他にも、家計の支出見直しや、余剰資金の積極運用など複数の手法があるため、総合的に比較検討しましょう。
まとめ
マンション価格が高騰している現在は、その資産価値を活用して老後資金を準備する絶好のチャンスです。ただし、すべてのマンションに適用できるわけではなく、住み替え先の費用も上昇しているため、冷静な判断が求められます。さまざまな選択肢を検討し、総合的に老後資金の確保を考えることが大切です。
- 本記事の内容は2025年7月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●橋本秋人さん(ファイナンシャル・プランナー)
はしもと・あきと/FPオフィス ノーサイド代表。住宅メーカーで30年以上にわたり、顧客の相続対策や資産運用として、賃貸住宅建築などによる不動産活用を担当。現在は、講演、執筆、相談、実行支援などを行うほか、終活アドバイザーとしてNPO法人の活動にも関わっている。