ネット社会で人々が自信を失っている理由
コロナ禍を経て、SNSやオンライン上での交流がさらに盛んになり、私たちはこれまで以上にネットと共に生きるようになりました。そんな日常の中で気をつけねばならないのが、自信の喪失です。
ネット社会で人々が自信を失いやすくなったといえる理由は、いくつかあります。まず、匿名性の高さを背景とした批判や誹謗中傷の多さです。現実世界で、いきなり存在を否定するような強い言葉をぶつけられることはまずないでしょうが、ネット上では攻撃的な言葉がある種無差別的に、しかも膨大な量が飛び交っています。また、一見温厚な印象の人がネット上では攻撃的な一面を見せたり、SNSで「裏アカウント」を作って悪口を書き込んでいたりするのを見ると、多かれ少なかれ人間不信になるものです。それらにさらされていると、「人間は怖いものだ」というデータが無意識に刷り込まれます。
加えて、リモートワークの普及などで人と会う機会が減ったのも、ネガティブに作用しています。現実のコミュニケーションを通じ人に対する信頼を育む経験が少なくなれば、ネットの世界と現実世界の境目がどこにあるのか、見えづらくなってしまいます。
このような環境下で、外の世界が怖く感じられ、「うまくやっていく自信がない」と思い込む人が増えている。それが自信喪失の正体です。かつては、社会で目立つことが評価やチャンスにつながりましたが、現在では叩かれるのが怖いからと、できるだけ目立たぬように生活する人が多いようです。
そうして世間への警戒レベルが高い状態でいると、心身ともに消耗しやすくなります。いつも不安にむしばまれ、おびえながら生きていく――それでは人生がもったいないです。
自衛隊でも重視される「自信」をつくる3つの要素
自信を失わずにいるためにはどうすればいいのか。その前に、自信とは何か考えておく必要があります。私なりの自信の定義は、「今の自分でも、この先生きていける、という将来への見積もり」です。そしてその根源は大きく3つに分けられると思っています。
第一は「物事ができる、できない」という自信。試験に合格したり、目標を達成したりすることで得られるものです。第二は「自分に能力があるかどうか」という自信。健康や体力、地頭といった資質から生まれる安心感です。第三は「愛されるかどうか」という自信。仲間や家族とのつながりがその土台になります。
ちなみに私がメンタルトレーニングを行ってきた自衛隊では、第二と第三の自信が特に強い傾向があります。身体を鍛えることで得られる自信、そして団結を重んじる文化が仲間への信頼を育むのです。
また、自衛隊の高級幹部には情報リテラシーの訓練が徹底されています。軍隊にとって情報は作戦の生死を分けるからです。その習慣から、私もネット上の情報を目にしたときは、出どころや真偽を吟味し、自分の情報環境を整えるようにしています。これは企業の管理職にも必要なことです。偏った情報や不確かな言葉に振り回されない。それが自信を守るうえで必要な姿勢といえます。
つまり自信とは、日々の成果や自己肯定感、人とのつながり、そして情報環境にも左右されるものなのです。
自分への信頼を高めるもっとも確かな道とは
では、現代社会で自信を保ちながら生きていくにはどうしたらいいでしょうか。
いくつかアプローチはありますが、もっとも大切なのは「人に慣れること」です。そのためにはとにかく外に出て、人と会わねばなりません。人と関わる中で、「他人は自分をいきなり傷つけたりしない」「多少の摩擦があっても、大丈夫」という感覚が少しずつ育っていきます。また、「もし嫌なことを言われても、離れればいいだけ」というように、適切な距離感も身についてきます。こうした体験が人に対する恐れを軽減させ、ネット上での炎上への耐性にもつながっていきます。
実際に人と会った際には、できればさまざまな話題でディスカッションをするといいでしょう。自分の考えを言葉にして相手に伝え、肯定や共感を得るのも、自信が得られる経験です。
ただ、いきなり人と意見を交わすのはハードルが高いという人もいるかもしれません。その場合は、ChatGPTなどの対話型AIで練習するといいでしょう。対話型AIは、攻撃的な言動をすることもなく、比較的ニュートラルな意見を返し、最終的には利用者の考えを尊重してくれるので、安心してディスカッションの練習できます。AIが相手ですから、わがままを言っても、提案を拒否しても、誰も傷つきません。「私は私でいい」という感覚を鍛えるための練習なので、遠慮せず本音をぶつけましょう。
こうして人に慣れ、意見を交わす中で、自信の土台を作り上げていってほしいのですが、無理をする必要はありません。気持ちが落ち込んでいるのに強引に人と会い、ディスカッションをしても、自分ばかりが間違っているように感じ、むしろ自信を失う可能性もあります。
心身が整っているときに外に出て、人とコミュニケーションをとる――その積み重ねが、自分への信頼を高めるもっとも確かな道であると私は思います。
- 本記事の内容は2025年11月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。
お話を聞いたのは●下園壮太さん
しもぞの・そうた/NPO法人メンタルレスキュー協会理事長、同シニアインストラクター、元・陸上自衛隊衛生学校心理教官。1982年に陸上自衛隊入隊。陸上自衛隊初の心理幹部として多くのカウンセリングを手がける。現場で得た知見をもとに自身で体系化した理論を用いて、うつや自殺予防、メンタルトレーニングなどの領域で指導を行う。2015年に定年退官後は、テレビやラジオ、新聞などのメディアへの出演や各地での講演活動を精力的に行っている。著書に『自衛隊メンタル教官が教えてきた 自信がある人に変わるたった1つの方法』(朝日新聞出版)、『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)ほか多数。
https://www.yayoinokokoro.net/