なぜ、梅雨時期に不眠になりがちなのか?
一般的に蒸し暑くなると、寝苦しさを感じる人も増えてきます。わずかな汗をかいて体温を下げることで入眠するのですが、温度や湿度が高いと、汗の蒸発が間に合わずに熱がこもってしまうのが原因です。
同時に「梅雨寒(つゆざむ)」という言葉があるように、突然寒くなる日もあります。この寒暖差によって自律神経が乱れ、寝つきが悪くなる人も出てきます。
光も睡眠に影響を与える要因になりますが、曇りがちな梅雨時期は日照時間が減り、外出時間も減りがちでしょう。自宅にこもり光を浴びられないと、睡眠のリズムが崩れてしまい、寝つきが悪い、眠りが浅くなるなどの支障が出てくるのです。
また、梅雨前線とともに低気圧がやってきます。中には頭痛や倦怠感など心身の不調を感じる人もいらっしゃるでしょう。加えて新年度が始まって2カ月経ったこの時期には、メンタル面の不調をきたす人も多くなります。一見して鬱(うつ)はのんびりしているように思われがちですが、実は脳が昼も夜もフル稼働して休めることができていない状態です。その結果、不眠に陥ることが少なくありません。
快眠のために環境を改善するには?
快適な睡眠のために、自分で変えやすいのは「生活習慣」と「睡眠環境」です。
生活習慣の整え方

①光を浴びる
曇って暗く感じる日でも、できるだけ外に出たり、窓際へ行ったりして、光を浴びるようにしてください。雨続きで外出できないときは、なんとなく動画を観るよりは読書や軽い運動をするほうがいいでしょう。心身が疲れないと体は「寝なくても大丈夫」だと思ってしまいます。動画を観るならば日中に時間を決め、夜は極力避けて少なくとも寝る1時間前までにはやめるようにしましょう。
②規則正しく3食とる
体内時計は全身にあり、メインの指令以外に光や血糖値などに左右され、これらが同調できないと乱れてしまいます。ご飯を食べると消化しようと胃腸が働き体温を上げるため、夕食は寝る3時間前までにして、できれば毎日決まった時間に食事することを心がけてください。
③入眠前の入浴・夕方の軽い運動
寝る前に1.5度ほど体温を上げること。お風呂は38〜40度の湯温で10〜20分浸かると効果的ですが、どうしてもシャワーで済ませたい日は、寝るまでの時間を長めに取るようにしましょう。寝る前の激しい運動は逆効果ですから、夕方ごろにウォーキングする程度にとどめましょう。一方、寝起きが悪いと感じたら、布団の中で手足の指をグーパーするだけでも有効だと思います。
睡眠環境の整え方
①温度と湿度
理想的な室温は26度前後、湿度は50〜60%です。梅雨は寒暖差の激しい時期ですので、調整しやすいよう薄い布団を複数枚使うといいかもしれません。汗をかいてもいいようにパジャマは吸水性が高く、放熱しやすい素材、暑い時期でも長袖・長ズボンがおすすめ。寝返りが打ちやすいゆったりしたデザインで、凹凸がなくさらりとした肌触りのものを選ぶといいでしょう。最近は機能性に優れた商品がたくさんあり、寝具も同様です。特に頭は血流の多い場所ですので冷やしたほうが眠りやすくなります。②照明と音
消したほうが眠りにはいいのですが、不安な方は豆電球程度にしておき、直接当たらないようフットライトを使うのも手です。もし騒音が気になる場合は、お気に入りの音楽を小音で流してください。ヒーリングミュージックである必要はなく、自分の好きな音楽であることが重要です。
「スリープセレモニー」でスイッチの切り替えを

日常的に心がけてもらいたいのが、眠りにつくまでの「スリープセレモニー」。歯を磨いてパジャマに着替えるなど、一連の行動で気持ちを睡眠に向けていくことです。もしベッドに入ってからも30分間眠れなければ、一度起きてベッドから離れてリラックスすること。つまり寝室やベッドは「寝るためだけの場所」とし、生活空間と分けた場にすることが大切なのです。
質のいい睡眠を得るには生活・環境改善に加え、メンタル面のケアも欠かせません。そのためには、ストレスのもとを排除し、ストレスに対抗する力を鍛えること。できれば嫌なことにはその日のうちに対処し、気持ちを切り替えてください。
たとえば、1日の終わりに頭の中にあるモヤモヤをノートに書き出し、パンと閉じて気持ちを切り替えてみる。その日にあった「いいこと」をノートに3つ書き出してみる。気持ちが落ち込む人は、ひとつのことに囚われすぎ、頭の中で堂々巡りしている状況です。いいことも悪いことも一度客観的に見て、別のルートを作ってあげてください。このような作業もスリープセレモニーに取り入れるといいでしょう。
- 本記事の内容は2025年5月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●坪田 聡さん
つぼた・さとる/日本睡眠学会所属医師、医学博士。雨晴クリニック院長。整形外科医・リハビリテーション科医として診療にあたるなかで、睡眠障害がほかの病気の発症や経過と深い関係にあることに気づき、睡眠専門医として現場に立ち始める。コーチングの資格を取得し、2006年には「睡眠コーチング」を創始。2007年から生活総合情報サイト「All About」の睡眠・快眠ガイドとなるなど、睡眠の質を向上するための指導や普及に努める。著書に『朝5時起きが習慣になる「5時間快眠法」』(ダイヤモンド社)、『専門医が教える 毎日ぐっすり眠れる5つの習慣』(三笠書房)など。