頻繁に怒る人ほど、組織で孤立していく
喜怒哀楽の感情の中でも、とりわけ扱いが難しいのが、怒りです。
疲れているときや、ストレスがかかっているとき、物事が思い通りに進まないときなどは誰しもイライラしやすくなり、ときにその感情を他者にぶつけてしまいます。現代社会においては、怒りの感情に任せて動けばなにかとマイナスの影響が出かねず、「かっとしやすい」「イライラしやすい」という自覚がある人にとって、怒りのコントロールは切実な問題の1つでしょう。
自衛隊においても、怒りに任せた行動はマイナスに作用するケースが多いです。緊迫した状況下においても、常に冷静な状況判断が欠かせず、各自が怒りに支配されて我を失えば間違いなく任務に失敗します。その意味で自衛隊では「怒りは敵」といえます。
現代社会では、怒りは人間関係を悪化させる元となります。怒りを抱えている人は周囲に緊張を与えます。イライラしているその表情や声に含まれる攻撃性に対し、誰もが本能的に警戒するからです。そして相手の怒りの矛先が自分に向かってきたなら、逃げるか、反撃して自分の身を守ろうとします。結果として、いつも怒っている人間の周囲からは人が去り、敵をつくって孤立していくことになります。
消し去るのではなく、いかに怒りのボリュームを抑えるか
怒りとうまく付き合うには、まずその本質について知る必要があります。
怒りの感情は、危険や脅威に対処するためのトリガーです。例えば、自らのテリトリーを侵害されたときには、瞬間的に怒りが沸いてきます。すると脳ではアドレナリンなどのホルモンが分泌され、その影響で心拍数が上がり、血圧も上昇、筋肉や臓器に栄養が素早く供給されます。
呼吸は早く、浅くなって酸素の取り込み量を増やします。この生理的変化により、身体は目の前の脅威に対して、戦うにせよ逃げるにせよいち早く反応することができ、結果として生存の可能性が高まります。太古の昔より、生き残るために必要だったからこそ、怒りは本能として私たちの脳に刻み込まれているのです。
そうして身体の機能とも深く結びついた本能である怒りを、「現代社会では不要だからとゼロにしよう」と思っても、まず無理です。本能を完全に消し去ることは、どんな人間にもできません。
したがって、イライラや怒りと向き合うには、何事にも腹を立てないようにするのではなく、イライラや怒りという感情があるのを受け入れたうえで、いかにそのボリュームをコントロールするかを考えるのが大切です。
怒りが湧いたときの3つのステップ
瞬時に湧き上がってくるイライラや怒りのボリュームをうまく抑えるには、軍隊などで実践されてきた「ダメージコントロール」の発想が役立ちます。ダメージコントロールとは、打撃を受けた際の被害を最小限に抑え、任務を継続するための一連の対策を指します。
例えば、軍艦などで、船底が破壊されて浸水しても船全体に被害が及ばぬよう間仕切りをたくさん設けたり、重要な制御基板やシステムを複数用意したりするのが、ダメージコントロールにあたります。それと同様に、「怒りの感情が突発的に表れるのは避けられないもの」と考え、表れた際にできる限りダメージを少なくする方法を学んでおくのが有効です。
最後に、ダメージコントロールの観点から、怒りが湧いたときの対処プロセスを紹介します。最終的には睡眠が解決してくれるでしょう。
STEP1 怒りの対象から離れる
怒りの対象が目の前にいれば、本能が優先されて身体が反応し、怒り自体も膨れ上がるばかりですから、とにかくそこから移動するのが第一段階となります。できればトイレなど、一人で気持ちを落ち着けられそうな場所に行くといいでしょう。STEP2 体の戦闘態勢を解く
ゆっくりと呼吸をし、伸びをしたり首を回したりして、身体をほぐしましょう。すると次第に気持ちもクールダウンし、冷静さが戻ってきます。そうなれば、少なくとも人に対し感情的に怒りをぶつけるような行動をとらずにすみます。STEP3 早く寝る
引き続きイライラは続くかもしれません。その感情を解消するには、よく寝るしかありません。普段より早く布団に入るのが、怒りを引きずらないためのポイントです。お話を聞いたのは●下園壮太さん
しもぞの・そうた/NPO法人メンタルレスキュー協会理事長、同シニアインストラクター、元・陸上自衛隊衛生学校心理教官。1982年に陸上自衛隊入隊。陸上自衛隊初の心理幹部として多くのカウンセリングを手がける。現場で得た知見をもとに自身で体系化した理論を用いて、うつや自殺予防、メンタルトレーニングなどの領域で指導を行う。2015年に定年退官後は、テレビやラジオ、新聞などのメディアへの出演や各地での講演活動を精力的に行っている。著書に『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)、『がんばらない仕組み』(三笠書房)ほか多数。
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