まだ知名度が高くないニューヨーク州のワインの輸入を始めた理由は?
【後藤芳輝さん(以下、芳輝)】大学卒業後、中学時代から続けてきた空手をアメリカで教えることになり、空手 指導員兼選手としてニューヨークに渡りました。その間、語学学校に通い、ロングアイランドにあるホフストラ大学の大学院でMBAを取得、日系商社(豊田通商)のニューヨーク支店でも働き、14年間滞在しました。
帰国後、日本とニューヨークをつなぐビジネスが何かできないだろうか? と考えた時に、実家が貿易会社で、自分もニューヨークで総合商社にいた経験があることから、自分でも貿易業 を始めようと思いました。空手の生徒の一人にワインブローカーとして働く人がいて、彼がワインの輸入を提案してくれたことが決め手となりました。
当時ニューヨーク州ワインは全く輸入されていなかったので、ワインスクールで学び、 2013年にニューヨーク州ワインの輸入を始めました。現在、13生産者、約70アイテム を輸入しています。
ニューヨーク州ワインの特徴は?
【芳輝】ニューヨーク州は、カリフォルニア州、ワシントン州に次いで全米3位のワイン生産量を誇る州 です。上位2州は西海岸に、ニューヨーク州は東海岸にあります。温暖な西海岸のカリフォルニア州のワインは、果実味たっぷりなアルコール度数が高い力強い味わいで、1980~90年代に著名評論家が高いポイントをつけたことで知られています。一方、ニューヨーク州は冷涼地のためアルコールは低く、カリフォルニアとは逆スタイルのワインといえます。
ワインは社会的ステータスを表すもののひとつで、ポイント100点のワインを飲んでいる自分ってすごい、という思いに浸りながらカリフォルニアワインを飲んでいた世代は今、年齢を重ね、彼らの子供世代がワインを飲んでいます。親の世代への反動もあり、シャルドネは樽なしの方がクール だよね?親世代の好むワインってもう古いよね?と考えた若い世代の趣向に合ったのがニューヨーク州のワインでした。
近年のSNSの発達で、友人がワインを造っている、地元のワイナリーに行ってきた、と書き込む方が、高ポイントのワインを飲むよりもオシャレで、ニューヨークに住む若い人たちがニューヨークのワイナリーを応援する、という時代の流れが生まれました。ニューヨーク州のワインは、マンハッタンに売る、ターゲットは地元の人、とはっきりしているため、味わい、ボトルデザイン、コンセプトが明確で、ほかの産地のワインとは違っていると思います。
ニューヨーク州ワインの推しポイントは?
【芳輝】この10年で、世界的に食のライト化、ヘルシー傾向が進み、食とのペアリングを考えながらワインを楽しむ人が増えてきました。その流れでアルコール度数控えめのワインが好まれ、ニューヨーク州ワインへの注目度が高まっています。低アルコールだからといって物足りないワインではなく、ナチュラルな魅力のあるニューヨーク州ワインは、ペアリングを提案するソムリエにとっても使いやすいワインです。昔の弱みが今は強みになりました。
また、ニューヨーク州のワイナリーは、ニューヨークという大消費地から近い場所にあるため、直接ワイナリーに飲みに行くことができ、それも魅力になっています。ワインツーリズムという点では、日本ワインに近いかもしれませんね。
ニューヨーク州ワインの産地は?
【芳輝】7つの主要なAVA(政府公認ワイン用ブドウ栽培地域)があり、サブAVAもいくつかあります。主要AVAはロングアイランドとフィンガー・レイクスで、GO-TO WINEでもこのふたつをメインに輸入しています。
▶ロングアイランド
大西洋に面し、砂地土壌で、気候は温暖。フランスでいうとボルドーに似た産地。
赤ワイン7割、白ワイン3割。マンハッタンから車で2時間ほどで行ける、日本なら山梨県のようなイメージの産地。
▶フィンガー・レイクス
ニューヨーク州最大のワイン産地。州の北西部に位置し、寒さが厳しく、湖の周囲にワイナリーが点在し、湖に面した斜面に畑がある。赤ワイン3割、白ワイン7割。イメージはドイツ。
氷河期には海の底にあった地域で、湖の水深が深く、水温が変わりにくいため、湖の周囲の気温は比較的安定している。ニューヨーク州は冬の寒波が厳しく、マイナス20℃になるとブドウの木がやられてしまうが、冬でも気温が極端に下がりすぎず、霜の被害が少ないのは湖のおかげ。
AVAではありませんが、ブルックリンにもワイナリーがあります。ワインを気軽に楽しめる場所を作りたいという思いから、IT系のスタートアップの人が週末にワイン造りを始めました。元はクラブだった場所を改装して醸造所を造り、ブドウはフィンガー・レイクスやロングアイランドなど同じニューヨーク州内の畑や、遠いところではカリフォルニア州などから運んでいます。ニューヨーク中心部から電車で行けるアーバンワイナリーのはしりで、消費者の啓蒙も行なっています。ニューヨーク出張の際などにぜひ行ってみてください。
GO-TO WINEのワインが買える実店舗ができた経緯は?
【後藤由華さん(以下、由華)】実店舗があるとニューヨーク州のワインの世界観が伝えやすくなると思い、2022年12月に「go-to wine shop & bar」を経堂にオープンしました。ショップの店長は私です。ニューヨークっぽさを表現したインテリアで、ワインの販売だけではなく、併設カウンタ―でワインが飲め、ちょっとしたフードもあります。
地元の方、わざわざ飲みに来てくださる方、ニューヨークが好きな方などなど、さまざまなお客様がいらっしゃいます。ここは私たちが住む街であり、家族や友人たちの協力や支えがあったからこそできた店で、売っているのはニューヨーク産のワインですが、地元の地産地消の店、だと思っています。お祭りの時など、真っ先にここに集まって飲み始める、っていうスポットになっているんです(笑)
桜の季節にオススメの3本を教えてください
【由華】
ハーマン・J・ウィーマー フィールド・ホワイトは、複数品種をブレンドした、ニューヨーク州のトップ生産者が造る白ワインです。爽やかで、飲み心地やわらかで、酸がしっかりあり、普段から飲めるタイプ。アルコール度数は10·5%。ガレット、スモークサーモン、キッシュ、春の野菜、サラダ、パスタ、桜えび、そら豆などと。
ウォルファー・エステート サマー・イン・ア・ボトル・ロゼは、メルロ主体で8品種をブレンドしたロゼワインです。ロゼといえばランチタイムにビジネスマンが飲むワインとしておなじみですが、なかでもニューヨークで一番売れているロゼとして知られ、生産量もダントツだけど、あっという間に完売してしまう大人気ワインです。複雑味があり、余韻が長い辛口の味わいで、生ハム、チーズ、サンドイッチ、寿司、中華など、幅広いフードに合わせられます。花束替わりになる美しいボトルも素敵です。
ラモロー・ランディング T23 カベルネ・フランは、カベルネ・フラン100%の赤ワイン。
木樽は使っていません。ベリー系の香りがしっかり感じられ、味わいもブドウの質の高さが感じられ、フレッシュでチャーミングな、かわいらしい赤ワインです。アルコール12%と軽やか。ワイン単体で飲んでもよく、しゃぶしゃぶ、鴨肉、馬刺し、鹿肉、焼き鳥などに合わせても楽しめます。
お話を聞いたのは●後藤芳輝さん/後藤由華さん
ごとう・よしき/GO-TO WINE代表。愛知県名古屋市出身。日本の大学を卒業後、空手 指導員としてニューヨークへ。ホフストラ大学大学院卒業(MBA取得)日本帰国後、GO-TO WINE設立
ごとう・ゆか/go-to wine shop & bar 店長。神奈川県横須賀市出身。日本の大学を卒業後、アメリカのジョージ・ワシントン大学 大学院に進み、卒業。ニューヨークの国連 本部で働いている時に芳輝さんと出会い、後に結婚。
『go-to wine shop & bar』
東京都世田谷区経堂1-26-15 石塚ビル1F
TEL:03-6413-7610
営業時間:12:00~20:00
休:不定休
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/gotowine.kyodo/
聞き手●綿引まゆみ(ワインジャーナリスト) 写真●花井智子
- 本記事の内容は2025年3月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。
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