じわじわと旨味が押し寄せる。懐が深いから肉にも魚にも合う
ナチュラルワインのブームにともない、世のワインシーンに台頭してきた“ペット・ナット”。ナチュラルワインの生産者が田舎方式といわれる製法で造る、微発泡タイプのスパークリングワインのことである。シャンパーニュのようなかしこまった印象は皆無。ぶどう由来の自然な甘みやフレッシュな果実感が醍醐味で、気取らないおいしさがワイン好きの心をつかんで離さない。瓶ビールと同じ王冠で栓をしているものが多く、ワインオープナーではなく栓抜きであけられる手軽さもいい。
「カジュアルなシーンに大活躍で、アウトドアで飲むワインとしても人気です。キャンプに最適な1本はこれ」
ナチュラルワイン専門店『トロワザムール』の下村空さんがそう言って手にしたのは、ポルトガルの蔵元、フォリアス・デ・バコの「ウィヴォ ペット・ナット レネガード」だ。白ぶどうと黒ぶどう品種を混ぜて醸したペット・ナットで、うっすら濁りのある淡いルビー色の液体が美しい。
「懐の深い味わいで肉にも魚にも合います。バーベキューと相性抜群ですよ」

オオカミたちが戻ってくる大地を目指して
微発泡ならではの柔らかな泡が心地よく、小粒のベリー類のような甘やかさ。じわじわと旨味が押し寄せるおいしさで、確かにバーベキューで焼くさまざまな素材の味を受けとめてくれそうだ。それにしてもこの複雑味は、どこからやってくるのだろう。下村さんによると、混植混醸、またはフィールドブレンドと呼ばれる伝統的な造りによって生まれた味わいなのだとか。
「おなじ畑で栽培されたさまざまな品種を、同時期に収穫し、全品種をひとつの容器に入れて醸造する方法です。このペット・ナットには25種以上もの品種が使われているので、とても複雑で味わい深いんです」
ちなみにワイン名の“ウィヴォ”は、ポルトガル語で“遠吠え”という意味。環境に配慮しながらぶどうを栽培し続ければ大地の植物が多様化し、姿を消したオオカミたちが戻ってくるだろう……。そんな期待が名前に込められているという。青空の下で、オオカミの遠吠えを空想しながら飲む。そんなキャンプも心躍るだろう。

お話を聞いたのは●下村 空さん
しもむら・そら/大学時代にフランスへ語学留学した際、ワインのある暮らしや深遠なる味わいに魅了される。大学卒業後、ナチュラルワインの黎明期から輸入を開始したインポーターBMOに入社。直営のワインショップ『トロワザムール』にて販売に従事し、ナチュラルワインの魅力を広めている。

取材・文●安井洋子 撮影●平松唯加子(2024年7月掲載)
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