飲み応えと軽やかさに、ほのかな塩気を併せ持つ「Longrow(ロングロウ)」

「上質なウイスキーを家で」といっても、ウイスキーの種類はまるで茫洋たる海のよう。まず、何をどう選べばいいのか、とっかかりを見つけることから難儀する。そこで、名バーテンダーにお気に入りのウイスキーを教えてもらい、そのウイスキーの魅力を引き上げる家での飲み方を聞いた。指南してくれたのは、ヴィンテージウイスキーや古酒をブレンドしたカクテルを提案するバー、日比谷『MIXOLOGY HERITAGE(ミクソロジー ヘリテージ)』店主の伊藤学さんだ。
「家で飲むのにどんなウイスキーを買ったらいいか、よくお客様から相談されます。『家では飲み疲れないこのあたりのラインがいいのでは』といった会話を日常的にしています」
年代物の古酒から現行品までウイスキーのことを知り尽くし、大手メーカーの有名ブレンダーや有名酒販店のマニアたちも絶大な信頼を寄せるバーテンダーである。
「家飲み」のウイスキーを選ぶポイント
“家飲み”を視点にしたとき、伊藤さんが重視するウイスキーの基準はこうだ。
- ウイスキーが品薄・高騰傾向にある中でも、比較的安定的に流通していて潤沢に手に入れられるウイスキーであること。
- 受賞歴があって評価が高い上質なもの。
- 蒸留所で加水がなされているアルコール度数46度以下の家でリラックスして楽に飲めるもの。
「僕自身、バーではウイスキーに向き合って飲もうとしますが、家では度数が高い原酒は疲れてしまうんです。楽に飲める、そして1本を飲み切れるものが一番です」
そう言って選んだのは「Longrow(ロングロウ)」。スコットランドの南西、キャンベルタウンロッホにあるスプリングバンク蒸留所が手掛けるシングルモルトだ。ピートのみで48時間乾燥させたフェノール値50-55ppmの麦芽を使用していて、ヘビーさとバニラやマカロンのような甘さ、そして軽い塩気を併せ持つ。飲み応えがありながらも軽やか、という秀逸なバランスを保っている。
「氷をすすぐ」「ざっと混ぜる」のがコツ

ストレートで飲んでも十分味わい深い良酒だが、その甘みや軽やかな塩気が心地いいハイボールもお薦めだという。家飲みのハイボールがおいしくなるポイントを聞いた。
「氷はコンビニなどでも買える、透明度が高いロックアイスを使いましょう。ウイスキーを注ぐ前に1度水ですすぐと仕上がりのまろやかさ、一体感が大きく変わってきます。すすぐ水は水道水でも構いませんが、 どうせリッチにやるのでしたらミネラルウォーターがいいですね。コップにためておけば何回も使えて、そう無駄になるものでもありません。そこに炭酸水を注ぐと、さらにバニラの香りや塩っぽさが出てきます」
さらにもうひとつポイントがある。
「炭酸水を注いだら、ざっと混ぜて、さらに一度氷を持ち上げてグラスに戻します。これはプロの技なのですが、こうすることで香りが格段に立つのです」




白身魚の塩焼きに柑橘を合わせる

銘酒のハイボールを食べ物と自由に合わせられるのも、家飲みの醍醐味。
「Longrowの軽やかな塩気は、魚介類ととても相性がいいんです。調味料は醤油ではなく塩。淡泊な白身魚の塩焼きにスダチやレモンといった好きな柑橘をかけて合わせると抜群です。ホタテやトリ貝といったお刺身もいいですね。鮨もいいですよ。よく塩とかぼすを振りかけて供されるイカや貝類とかね。和食店でLongrowを置いているお店はまず稀有でしょうし、実現するには外食では一杯3000~4000円が相場ですから、それなりに高額になってしまいます。最近は、シャンパンやワインを揃えている高級和食店も多いですが、家でこういう組み合わせを楽しむのもオツなものです。家なら気楽に宅配寿司でもいいですしね。それこそ、家飲みならではの楽しみです」

お話を聞いたのは●伊藤 学さん
いとう・まなぶ/伝説的バー『いないいないばぁー』の藤田佳朗氏に師事し、1993年、漫画「BARレモン・ハート」の著者 故古谷三敏氏が経営する『BARレモンハート』に移り、以後16年にわたり同店に勤務。現在は、同店を含む系列店全店の技術統括部長としてバーテンダーの教育も担っている。

『MIXOLOGY HERITAGE』
東京都千代田区内幸町1-7-1 日比谷OKUROJI G31
TEL:03-6205-7177
営業時間:16時~23時、土曜・日曜・祝日15時~23時
休:不定休(月に1日)
http://spirits-sharing.com/t_426500/free/mixology_heritage
取材・文●沼 由美子 撮影●高野 尚人(2024年9月掲載)
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