被災しても住めるなら自宅に留まるのが“共助”
本来、避難所は「災害によって住む家を失った人が利用する場所」だと釜石さん。つまり、住めるところがある人は行く必要がないと話す。
「食料や情報を求めて行きたくなる気持ちはわかりますが、災害直後、避難所に行ったところで手に入りません。いずれも発生してから数日経ってから。全国から届く支援物資も、必ずしもほしいものがあるわけではないのです」
都市部では、住民8000〜1万人に1つの学校避難所が割り当てられているが、実際に収容できるのは1000人程度。耐震構造のマンションに住んでいる人が避難所に行くことは、“本当に必要としている人”の妨げになりかねない。
「被災しても住める状況であれば、自宅に留まる。それこそが“共助”です。一般的に共助といえば、支援物資や救出するなど、災害が起きてからの助けに目が行きがちですが、避難所に行かずに済むよう事前に準備しておくことも一つの共助であることを忘れないでください」
避難所での生活は決して快適なものではない。大災害が起こった際に想定される避難所の状況とはどんなものなのだろうか?
「大混雑は避けられず、場所の取り合いになるでしょう。寝るのは硬い床の上、スペースは1畳に一人か二人で毛布も十分ではありません。簡易トイレは25人に1台設置されることになっていますが、実際にはそれ以上の人数で1つを利用することに。エアコンも十分でなく、夏は暑く、冬は寒い環境を強いられます。その点、住み慣れた自宅であれば安全とはいえないまでも、“過ごしやすい”生活ができるでしょう」
他人に頼らなくても、長期在宅避難できる準備を

個々の防災意識は高まっているものの、マンション住まいのケースでの防災に関する正しい情報はあまり広まっていない。もし今、大地震が起こったら「“想定外”と言って苦労する人が多く出てくる」(釜石さん)状況だ。近年はマンションが増え、東京23区に関しては約6割がマンション住まい。行政でも“マンション防災”という言葉を広め、今後の施策に期待されるが「まだ伝える側が正しく被害想定できていないことが問題だ」と指摘する。
「大地震が起こった際の災害規模を想定した報道はありますが、どのくらいの期間、停電になるかは取り上げられません。例えば、首都直下型や南海トラフ地震があれば1週間以上、電気は届かない。先ほど話した“災害時に困ったら避難所へ”という趣旨の報道が多いのも、誤認を招く要因の一つだと思います。管理会社や自治会が助けてくれるから、と安心してはいけません」
災害後も続く「生活」を自分で続ける備えが必要だ。
「SNSを含めインターネットは使えないケースにも備え、災害伝言ダイヤル171やショートメッセージ(SMS)利用のために家族や親しい人の連絡先は、電話番号を控えておくこと。また、災害時は全員が被災者です。他人に頼らなくても、長期在宅避難できる準備をしておきましょう。担架で他人を運ぶ訓練よりも、運ばれる側にならないよう、自宅の家具転倒防止など自身を守る対策の方が重要です」
自宅を最高の避難所にする5つのグッズ
在宅避難をするにあたって必要なのは「電気・ガス・水道が止まっても、自宅で1週間は生活できる備え」だという。そこで釜石さんが提案するのが「1週間家庭内キャンプ」だ。買い物はせず、寝る場所だけがある状況で過ごしてみると、被災後の生活には何が必要か、つまり備えるべきものが自然と見えてくる。例えば、防災リュックは避難所など外に持ち出すためのものなので、自宅にいるなら不要だとわかる。在宅避難時に使用するものは、防災箱や防災引き出しにまとめておくようにしよう。
カセットコンロや非常食、携帯トイレなど「一般的に避難時に必要とされる備蓄はあること」を前提として、釜石さんが追加でおすすめするグッズを聞いた。
「食事に関しては、災害時用の備蓄に加え、冷蔵庫の食材やふだんストックしているものを生かしましょう。その際、食事を作れる人が一人では不十分。家族全員ができるのが理想ですが、私のおすすめは湯煎調理できるポリ袋を使った方法です。とても簡単で、料理が得意ではなかった私も、今はできるようになりました。
水は、風呂の残り水を飲めるようにする携帯浄水器があるといいでしょう。気になるのが生ごみだけでなくトイレごみの臭い。携帯トイレを使用した後は家の中に保管することを考えると、臭いのもれない防臭袋は絶対に必要です。さらに、夜中の地震や広域停電に備えて停電時自動点灯ライトや、自宅で出火した場合にエアゾール式簡易消火具を常備しておくと安心。しっかり備えて、自宅を最高の避難所にしてください」
※本記事の内容は2024年12月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●釜石徹さん(マンション防災士)
かまいし・とおる/専門分野は大地震を想定した家庭、マンション、地域の防災対策。2005年ごろから首都圏直下型の防災対策の研究を始め、2011年の東日本大震災を契機に「『想定外という後悔』をしない実践的な防災対策」を強く意識するように。2012年に防災コンサルタントとして独立し、メディアや自治体、マンション向けの講演などを通じてマンション防災対策の見直しや在宅避難のノウハウの普及に尽力している。著書に『マンション防災の新常識』(合同フォレスト)。