街選びのコツ

ベテランの住宅ジャーナリストが語る!後悔しないマンションの大規模修繕の話

新築でも中古でもマンションを購入する際に、確認しておきたいのが「大規模修繕」の話だ。ベテランの住宅ジャーナリスト・山下和之さんが、マンションを買う前にチェックしておきたいポイントを語る。

お話を伺った人●山下和之さん(住宅ジャーナリスト)

1952年生まれ。住宅・不動産分野で新聞・雑誌・単行本などの取材・原稿制作、各種講演、メディア出演などを行う。『住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)、『はじめてのマンション購入成功させる完全ガイド』(講談社ムック)などの著書がある。
http://yoiie1.sblo.jp/

そもそも、なぜ、大規模修繕が必要なのか

どれだけしっかりした造りのマンションであっても、雨風や日差しの影響による劣化は避けられません。そこで、管理会社は建物の安全を維持するため25年から30年という長期スパンで修繕計画を立て、それに沿って「大規模修繕」という工事が行われます。

工事の対象となるのは、屋上や外壁をはじめ、エントランス、ベランダ、廊下や階段といった共有部分で、特に重視されるのが屋上と外壁です。なぜなら、マンションにとって最も危険なのは雨水などがコンクリートに侵入し、内部の鉄筋がさびつくことだからです。そのため屋上の防水工事、外壁のひび割れ補修は念入りに行われます。

大規模修繕にかかる期間は、100戸程度の中規模マンションであれば、約3カ月。超高層マンションや、戸数が500から1000に及ぶ大型マンションの場合、半年かかることもあります。工事中は、外壁を覆うように足場が組まれ、網状のシートでマンション全体が覆われることになります。

外光が遮られ、場合によっては異臭や振動が生じることもありますが、大規模修繕は建物の劣化を防ぎ、住民の安全を守るためには欠かせないもの。多少の不便を感じることはあるものの、外壁を塗り替えたマンションは見違えるほど美しくなりますし、物件によっては大規模修繕直後の売却価格が50万〜100万円ほど上がるケースもあります。

修繕計画はきちんと守られているか

中古マンションの購入を検討している人は、修繕計画がきちんと実行されているかどうかしっかりチェックしてください。新築マンションは契約の際、長期修繕計画について説明がなされますが、中古マンションでは言及されないことも多いようです。中には、長期修繕計画そのものが立てられていない物件もありますので、販売会社を通し管理会社に確認しておきましょう。

大規模修繕ではいくつかのトラブルも発生しています。多いのが資金不足です。大規模修繕を行うため、区分所有者は毎月「修繕積立金」を支払いますが、実はこれを滞納する人もいるのです。国土交通省が5年に1度、マンション管理について調査している「マンション総合調査」によれば、修繕積立金を3カ月以上滞納している住人がいる物件は全体の22.8%です。つまり、マンションの4棟に1棟は滞納者がいる住戸があるということになります。修繕計画と併せて、修繕積立金が滞納なく集められているか、また、空室の数なども確認しておく必要があります。

修繕積立金はいくらが妥当?

修繕積立金は物件のあるエリア、物件の総戸数や最高階数、専有面積などによって決まります。戸数が50戸以下の小規模マンションは1戸当たりの負担が大きくなるため、修繕積立金は高くなります。戸数が増えればスケールメリットで1戸当たりの負担は小さくなりますが、500戸以上という大規模マンションは共用設備が充実していることが多く、その分工事が広範囲にわたり、大がかりになることなどから、修繕積立金はやはり高くなります。

具体的な数字の例を見てみましょう。国土交通省の「平成30年度マンション総合調査」によれば、20戸以下のマンションの修繕積立金の月額平均は1万4772円、301〜500戸のマンションでは1万3566円です。一方、戸数が100戸程度の中規模マンションはある程度おさえられる傾向があります。同調査によれば、76〜100戸のマンションでは1万872円となっています。

こうした修繕積立金の相場を知るには、「マンション総合調査」をはじめ、「公益財団法人東日本不動産流通機構(通称:東日本レインズ)」や、全国のマンション情報を配信している「東京カンテイ」などのH Pをチェックするといいでしょう。

もうひとつ修繕積立金の目安を知る方法があります。国土交通省が発表している「マンション修繕積立金に関するガイドライン」によれば、新築時から築30年間の修繕工事に必要な平均額は、専有面積1平方メートル当たり月額200円前後です。

専有面積×200円=修繕積立金という計算式に照らし合わせれば、専有面積が70平方メートルの物件であれば、70m²×200円=1万4000円が修繕積立金の目安となります。築年数や戸数、駐車場の有無などによって変わってきますが、ひとつの目安となるのではないでしょうか。

「均等積立方式」と「段階増額積立方式」の違い

修繕積立金にはふたつの方式があります。ひとつは「均等積立方式」といい、修繕計画に応じた金額を年数で割り、それを毎月支払っていくという方法です。先の計算式で出した修繕積立金の目安は、この均等積立方式に沿った金額です。金額が変わらないため家計に影響しないというメリットはありますが、いざ工事をしようという段になって費用が足りなくなり、追加で支払う必要が出るというデメリットもあります。

もうひとつは「段階増額積立方式」と呼ばれるもので、工事費の高騰などに合わせて段階的に増額していくという方法です。当初の金額は安く設定されることが多いので、購入からしばらくの間、負担が少なくて済むというメリットはあります。ただし、段階的に上がっていきますので、その心づもりは必要です。とはいえ、工事費は物価に合わせて上昇しますので、長い目で見れば合理的な方法といえるでしょう。最近は7〜8割のマンションが段階増額積立方式を採用しています。

新築マンションの場合には、購入時に「修繕積立基金」として50万〜100万円程度のまとまった金額を支払うケースもあります。大規模修繕の費用が不足した場合に備え集められるものですが、この修繕積立基金は住宅ローンに組み込むことが可能です。ただし、10年後、20年後に再度集めることを前提にしたケースもあり、その場合は準備が必要です。そうした情報は契約書に記載されますので、のちのちの家計管理に影響が出ないよう、しっかり確認しておきましょう。大規模修繕は安全な生活と資産価値の両方を守るために欠かせないものです。マンション購入を考える場合は、修繕積立金を資金計画に組み込んでおくことを忘れないようにしましょう。


構成=阿部えり


  • 本記事の内容は2021年7月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

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