こんなはずじゃなかった……起こりうる近隣トラブルとその代償
事前に検討を重ねたにもかかわらず、起こりうるのが入居後のトラブル。その多くは「自分ではどうしようもない近隣施設や居住者との問題」と川原さんは話す。
「目の前の施設が違う業種の店舗に変わったり、すぐ近くに新しい施設が建ったりすることは避けられません。静かだった場所が急に賑やかになるなど、想定外の変化は起こるものです。特に1階にテナントが入っている物件では気になるもの。入居時は家電量販店だったスペースが、数年後に遊戯施設に変わり、住居者から不満の声が上がったケースもあります」
マンション内でのトラブルも起こりうる。騒音問題やゴミ出しのルールが守られない不衛生な状況、住民からの嫌がらせ、ベランダでの喫煙など、内容もさまざまだ。
「喫煙に関しては実際に裁判までもつれ込んだケースもあります。損害賠償は認められたのですが、賠償額は微々たるものでした。実害を証明する医師の診断書の準備や弁護士への費用、労力や精神的負担を考えると納得できる額ではないでしょう。もちろん、ぎくしゃくして住み心地も悪くなりますよね。現実的には、退去する方が楽だと判断してしまう人がほとんどです」

トラブルに巻き込まれにくい物件は? 見極める3つのポイント
実際に近隣トラブルに巻き込まれた際、どうすればいいのだろうか。川原さんによると「管理組合としては、“共同の利益に反する行為”に該当し、多数の実害がないと行為を排除する対応することは難しく、個人の精神的なダメージまではフォローしにくいのが現状」だという。
そのため、購入前に自ら確認することがトラブルを避ける最善策だ。事前に確認すべきことは多々あるが、特に気をつけたいポイントがある。
ポイント1:地域との関わりの程度
検討している物件が、自治会や町内会とどのように関わっているかは、入居後のライフスタイルに影響を与える。
「地域住民同士のコミュニティーは防犯、防災などの観点で重要だというのは前提として、会費や会合の頻度、地域イベントへの参加の有無などを確認しましょう。人によっては負担と感じることも。逆に地元民からの反対の末に建てられたマンションの場合、地域イベントに参加しづらくなることもあります。このような状況を知るのは簡単ではありませんが、地場の不動産会社を何度か訪れるなど、できる範囲で情報を収集し、自分たちの求める生活を基準に考えてください」
ポイント2:立地と用途地域
周辺環境が大きく変わるのを避けたいのであれば、駅前は避けたほうがよいかもしれない。交通の便がよく人の流れが多い地域は、大きな施設が建つ可能性が比較的高いからだ。「用途地域を確認すること」は回避のための有効な手段の1つ。商業地域に当たるエリアは、スーパーや飲食店、オフィスビルが建設される可能性がある。
「駅前物件であれば、近隣にどんな施設が建っても受け入れる覚悟が必要です。大きな再開発計画などであれば事前にわかることもあるので確認してください。またマンションの1階などにテナントが入っている場合、管理組合によっては、営業時間や業種など入居する店舗にルールを設けているところもありますので確認を」
ポイント3:掲示板や自転車置き場
中古物件の場合は、内見時に共有部分を必ず見てほしい。居住者のイメージをつかみやすく、入居後のトラブルを防ぐための1つの判断基準となる。
「まず確認してほしいのは掲示物。古いものが貼られっぱなしでなく、定期的に更新されていること。管理組合がしっかりしているかどうかもここでわかります。管理会社ではなく“組合発信の情報”が掲示されていると、より安心です。さらに、ゴミや自転車置き場がルールに沿って使われているかもチェックしてください」
告知義務がないからこそ、疑問点は問い合わせるのが吉
川原さんによると、近隣トラブルがある物件でも「資産価値は下がりにくい」という。というのも、このようなトラブルは告知義務がないからだ。
「不動産の営業担当者が何でも教えてくれるわけではありません。いわゆる事故物件など“重要事項”にあたることは説明する義務がありますが、基本的に宅建業法で決められた項目だけを説明します。しかし、聞かれると答えなくてはいけません」
つまり、気になることがあったら聞いたほうが得策ということ。どのような経緯で建てられたのか、今後近隣にどんな施設ができる予定かなど、聞いてわかることもある。適切な質問をするためにも、事前に自分なりに調べ、知識を蓄えることも大切といえるだろう。
(2024年3月26日掲載)

お話を聞いたのは●川原一守さん
かわはら・かずもり/マンション管理士、行政書士川原一守事務所代表。2002年にマンション管理士の資格取得し事務所を開設。以降20年以上にわたり、マンション管理士のパイオニアとしてマンション管理組合の相談に応じたサポート業務を行っている。タワーマンションから歴史のある団地まで、常時20数件、約8,000戸のマンションでのコンサル実績を持つ。
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