マンションなら希望に近い額で売却しやすい
30代で新築マンションを購入、その後30年も経つと「家をどうにかしたい」という気持ちが湧いてくるものだ。
子どもが巣立ち、夫婦2人暮らしになるので生活スタイルが変化する。ちょうど定年を迎え、退職金が入るため、「家をどうにかするのは、このタイミングしかない」ということになりがちなのである。
今のマンションをリフォームするか。それとも新しいマンションか一戸建てに買い替えるか……どちらも選べるという人は少なくない。というのも、現代日本において、マンションならば希望に近い価格で中古売却しやすいからだ。
一戸建ての場合、中古で売り出してもかなり安くなってしまうケースが多く、その場合は買い替えを選択しにくい。資金に余裕があれば、建て替えを、余裕がなければリフォームとなりやすい。
マンション居住でリフォームも買い替えも可能となると、迷いが生じる。さて、どちらがよいのだろうか。
リフォームの利点は「大きな決断をしなくてできる」こと
中古で高く売れそうだが、売らずに今住んでいるマンションをリフォームしたい……そう考える理由で大きいのは、「このマンションから離れたくない」だろう。
「マンションに住んでいる人がよい人ばかり」とか「ご近所に友人がたくさんいる」といった理由で、今の住まいを維持したいわけだ。
もうひとつ、買い替えではなくリフォームを選ぶ理由として、「大きな決断を避ける心理」もありそうだ。
「今までの住居を売って、新しい家を買う」には、大きな決断が必要だ。それ以上の喜びも得られるはずだが、とにかく決断するまでが一仕事だし、買い替えの手間もかかる。
その点、リフォームは気が楽だ。買い替えより費用は安い。期間が短く、引越をしなくて済むという気楽さもある。そんなに気張らなくても実行でき、住み心地を一新できるなら、それでいいじゃないかと思えるわけだ。
ところが、実際にリフォームを行うと、想像以上にお金がかかることに驚くことがある。マンションのリフォームで手を付けられやすいのはキッチンを中心にした水まわり。トイレ、洗面所、浴室である。その費用は1,000万円を覚悟しておいたほうがよい。
たとえば、キッチンのリフォームはシステムキッチンを入れ替えるだけでは済まない。床をつくり替える必要があり、普通はLDKすべての床を張り替えることになる。そうなると、壁や天井の内装も新しくしたくなるし、室内ドアもすべて入れ替え、照明器具を替える……キッチンに洗面所、浴室、トイレをリフォームすると、金額が大きくなってしまうのである。
その結果、リフォームで1,000万円かけるのなら、現金を1,000万円プラスして買い替えたほうがよかった、とはよく聞く話なのである。
リフォームすれば、マンションの価値は上がる? 下がる?
想定以上にお金がかかっても、真新しいキッチンで料理をつくり、ピカピカのお風呂に入れば、「それでよし」という気持ちになるから、「リフォームして、失敗」ということにはならない。
ただし、損か得かをシビアに考えるなら、話は別である。というのも、古いマンションを1000万円かけてリフォームしても、そのマンションの価値は1,000万円分上がるわけではないからだ。たとえば、築30年で4,000万円と査定されたマンション住戸を1,000万円かけてリフォームしたとしよう。その直後に売却しても、査定価格はたいして上がらない。せいぜい200万円か300万円上がるだけだ。
中古マンションにおいて、リフォームは「前住人が好きでやったこと」とみなされる。中古マンションの購入者は、自分で好きなようにリフォームしようと考える。だから、お金をかけたリフォームも正当に評価されない。それが実情である。
これに対し、「得」を計算しやすいのは、買い替えを行ったときだ。
新築マンションに買い替えれば、資産価値は上がりやすい
マンション、特に便利な都心部や郊外でも駅に近い場所のマンションは、中古でもそれなりの金額で売れる。30年前、東京23区内で新築時3,500万円だったマンション(2LDK)が5,000万円とか6,000万円で。郊外の千葉県市川市や埼玉県さいたま市内で新築時2500万円だった駅近の3LDKが3000万円とか4000万円になったりする。
それなら、売ってしまい、ピカピカの新築マンションに買い替えることが可能となる。
もちろん新築マンションはもっと値上がりしているのだが、夫婦2人暮らしなら、サイズダウンが可能。2LDKから1LDKに、3LDKから2LDKもしくは1LDKにすれば、同じような立地条件で新築もしくは築浅の中古マンションが狙える。
新築もしくは築浅の中古マンションを購入すれば、すべてが新しくなる。セキュリティは強固になり、不審者の侵入は生じにくい。一方で、玄関キーをポケットに入れているだけでオートロックの自動ドアが開くなど利便性は高まる。
24時間ゴミ出しができるし、キッチンにはディスポーザー(生ゴミ粉砕処理機)と食器洗い乾燥機が付いたりする。断熱性、遮音性が高まっているので、光熱費が抑えられるし、安眠が妨害されにくいのも長所となる。
加えて、重要なのは、買い替えで現金を足した分、マンションの資産価値も上がりやすいことだ。
たとえば、郊外駅近のマンション(3LDK)を中古として3,000万円で売却し、それに現金1000万円を加えて、4,000万円の新築マンション(1LDK)を購入。その住戸を5年後に売却すると、どうなるか。その場合、1割安くなった程度の3,600万円くらいで売却できる可能性が高く、立地条件によっては購入時の4,000万円より値上がりすることもあり得る。
3,000万円と査定された中古マンションに1,000万円のリフォームを施したときよりも、資産価値が上がるわけだ。お金のことを考えれば、リフォームよりも買い換えのほうが得ということになる。ただし、買い替えは手間がかかる。新しい場所に移るストレスも生じる。気楽なのは、リフォームのほう。
さて、どちらがよいか。迷った結果、古いマンションをリフォームせず、そのまま住み続ける人も出てきそう。それも現実的な選択肢になりそうだ。
お話を聞いたのは●櫻井幸雄さん(住宅評論家)
さくらい・ゆきお/住宅評論家。人生相談家。1954年生まれ。2000年から住宅評論家としての活動をスタート。年間200物件以上の取材を行う現場主義で、首都圏だけでなく、近畿圏、中部圏、福岡、札幌など全国主要都市部の住宅事情に精通する。住宅評論の第一人者として、新聞、テレビ、雑誌など幅広いメディアで活躍している。Yahoo!ニュース「個人」オーサー。
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