相続税対策に用いられてきた貸付用不動産
現在、貸付用不動産を相続する際は、売買価格となる時価がそのまま評価額になるわけではありません。土地は「路線価」、建物は「固定資産税評価額」を用いて評価されます。
「路線価」は時価の8割程度、「固定資産税評価額」は時価の6割程度の評価となることが多いため、現金を相続するよりも節税になると考えられていました。
また、居住用のマイホームと比べても、貸付用不動産のほうが低く評価されやすいという特徴があります。そのため、相続税対策として、余っている土地にアパートを建てたり、賃貸用のマンションを購入したりしてしそのまま相続する人もいました。
不動産小口化商品(数万~100万円程度に分割したマンションやビルに、複数の投資家が共同で出資する金融商品)も、貸付用不動産と同様に「路線価」「固定資産税評価額」で評価されていたため、相続税対策に用いられるケースがあったようです。
ただし、政府が積極財政に動き出している今、政策を実現するための財源が必要になってきていることから、税制の見直しが行われるものと考えられます。
「取得から5年以内」の貸付用不動産は時価評価に
「2026年度税制改正大綱」の内容を要約すると、「貸付用不動産も時価に近い価値で評価していく」という方針です。
とはいえ、すべての物件が見直しの対象になるわけではありません。「取得から5年以内の貸付用不動産」が時価での評価となり、「取得から5年が経過している貸付用不動産」は従来の評価方法が継続される見込みです。
相続が発生した時点から5年さかのぼることになるため、相続税対策として賃貸物件を建築・購入してからすぐに相続が発生すると、節税につながらなくなる可能性が出てきます。
ただし、急激な相続税の増加を防ぐ措置として、「取得から5年以内の貸付用不動産」の評価は時価の8割程度とされるようです。相続財産は相続人が希望して手に入れるものばかりではなく、意図せず相続せざるを得ないケースもあるため、一定の配慮がなされているといえます。なお。不動産小口化商品に関しては、2027年1月1日以降、取得の時期にかかわらず時価での評価となるようです。
節税目的の貸付用不動産の購入は要注意
すでに貸付用不動産や不動産小口化商品を保有している人は、「節税効果がなくなり、配偶者や子どもに負担をかけてしまうのではないか」と不安に感じるかもしれませんが、慌てる必要はありません。
近年は不動産価格が上昇傾向にあるため、物件を売却した際には、税制改正の影響を補うほどの売却益が出ると考えられます。流動性も高く、売りにくいということもないでしょう。現状、物件を売る必要性がないのであれば、そのまま保有し続けて問題ありません。
一方、相続する側の配偶者や子どもは、想定以上に相続税が重くなる可能性があるため、あらかじめ心積もりをしておいたほうがいいでしょう。
今まさに「相続税対策になるから」と新たに貸付用不動産の購入を検討している人は、注意が必要です。
相続税対策として有効かどうかは「いつ物件を取得したか」だけでなく、「いつ相続が発生するか」に左右されます。今回の改正では、相続開始前5年以内に取得・新築された貸付用不動産が対象となるため、2026年中に購入した物件であっても、相続のタイミング次第では節税効果が得られない可能性があります。
また、相続人がその物件を管理・売却する手間も考慮しなければなりません。物件の立地などによっては、借り手が見つからず、空き家のまま放置されるリスクもゼロではありません。
相続のためではなく、自身や家族にとって貸付用不動産は本当に必要なものなのかという視点で、慎重に検討しましょう。
- 本記事の内容は2026年2月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。
お話を聞いたのは●千日太郎さん
せんにち・たろう/公認会計士、オフィス千日合同会社代表社員。大学卒業後、大阪の監査法人へ入社。資格や名前を伏せて始めた「千日のブログ家と住宅ローンのはてな?に答える」が評判を呼び、住宅ローン、不動産分野で人気の高いコラムニストとなる。YouTubeでは、公認会計士としての金融商品の分析力と独自のノウハウをもとに、日々寄せられる読者からの相談に的確なアドバイスを行う。著書に『家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本』、『住宅ローンで「絶対に損したくない人」が読む本』(いずれも日本実業出版社)など。
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