マンション管理の基礎知識

マンションの資産価値や居住性を高める「バリューアップ工事」とは?

マンションの「バリューアップ工事」とは、建物の価値を維持・向上する目的でエントランスや外装、セキュリティシステムなどに手を加えることを指す。定期的に行われる「大規模修繕」が建物を健全に維持するために共用部の補修やメンテナンスを主な目的で行うのに対し、「バリューアップ工事」は価値を高める目的で共用設備の追加や建物の変更を行う。住宅評論家の櫻井幸雄さんがその成功例と最新事情を解説する。

目次

手軽に行えるバリューアップ工事の事例

「バリューアップ工事」でまず手を付けられやすいのは、エントランス部分だろう。たとえば、「誰でも出入り自由」だったエントランスにオートロックのシステムを付け加える工事は、築30年を超えるマンションの多くで実施されている。

理由は、分譲マンションにオートロックが必須の設備になっている現在、オートロックのないマンションには深刻な問題が生じるようになったからだ。犯罪者に狙われやすい、という不安が生じるだけではない。オートロック付きマンションに入ることができないセールスマンや各種勧誘が頻繁に入ってくるという事態が生じるようになり、「お金がかかっても、オートロック付きにしたい」という切実な願いが出た。

しかし、マンションをオートロック付きにするのは簡単ではない。エントランスに機械開閉するドアを設置し、操作盤を付けて、それを各住戸のインターホンに繋ぐ。さらに、エントランス以外の場所から建物内に入ることを規制するため、新たな門扉を設置する必要がある。

小規模なマンションでも100万円以上の工事となり、出入り口の多いマンションならば数百万円の出費になる。各住戸の費用負担もそれなりの額になるのだが、それでも実行されるのは、「オートロック付きにしたい」という住人の切実な願いがあるからだ。

また、新築時からオートロックが付いているマンションでも、エントランスでバリューアップ工事が行われることもある。

それは、特定の宅配業者がオートロックを通過できるようにする工事だ。 近年、宅配は各住戸の玄関前に荷物を置く「置き配」が増えている。再配達の手間を省くためだが、オートロックがその障壁になりやすい。配達先が留守のとき、オートロックがあるために、配達人が建物内に入れないという事態が生じるからだ。

そこで、宅配業者や宅配を行うサイト運営会社などが費用を負担し、エントランスに特定の宅配業者が入館できる装置を追加。それで、置き配がしやすくなる、というバリューアップ工事が行われる。 この工事ならば、住人の費用負担はない。宅配業者が装置代と工事費を負担してくれるケースが多いからだ。設置後、装置を作動させる電気代はかかるが、1戸あたりの費用負担はわずかだ。このように、お金をかけずに利便性が高まるバリューアップ工事も実行されやすい。

つまり、バリューアップ工事は「多くの住人が喜ぶ内容のもの」、そして「お金がかからないもの」が実行されやすい。言い換えれば、「費用対効果が大きいこと」がバリューアップ工事を成功させる基本と言えそうだ。

ところが世の中には、大金をかけたのにバリューアップ工事が失敗に終わるという残念なケースもある。

立体駐車場で収容台数を増やしたが

バリューアップ工事の失敗事例……関係する方がいたら申し訳ないが、大事な教訓として記すことをお許しいただきたい。

それは、マンションの駐車場を増やす工事だった。 今から35年ほど前、ちょうどバブルが起きた時期に首都圏のマンションでは「駐車場不足」が大きな問題になった。カーシェアが普及する以前の話で、今よりマイカー保有者が多かった時代の出来事だ。

当時、「マンションの駐車場は100%設置。つまり、全戸分の駐車場付きが理想」とされた。しかし、実際は駐車場設置率が5割から8割程度というマンションが多かった。敷地内駐車場を利用できない住人が大勢出てしまったのだ。

そこで、駐車場を立体化させるなどの工事を行い、駐車場を広げるマンションがあった。かなりの費用をかけて工事を行い、駐車装置を入れることで電気代やメンテナンス費用も増えた。 それでも、毎月支払われる駐車場使用料が多くなるので問題なしとされた。

その全戸分の駐車場が、やがてお荷物になってしまった。 カーシェア利用者が増えるなどの理由で、マイカー保有率が低下。駐車場に空きスペースが目立つようになってしまったのだ。

想定される駐車場利用料が入ってこなくなるので、維持する費用が足りなくなる。しかたなく修繕積立金から補填すると、今度は大規模修繕の費用が足りなくなる……いっそのこと立体駐車場を壊して元に戻そうという意見も出たが、それを行うにもお金がかかる。とんでもないお荷物を背負ってしまったと、反省しきりなのである。

※写真はイメージです。

最大の問題は費用対効果

マンション内の駐車スペースを増やそうとしたのは、だいぶ前の話だ。今は、逆に駐車場を減らすケースが増えている。マイカー所有が減り、駐車場の空きが目立つようになったからだ。

車をパレットに載せ、移動させる機械式駐車場の場合、維持管理の費用が高い。利用者が減るとマンション管理組合に入ってくる使用料も減る。その一方で、維持管理費は高いまま……それは困ると、機械式駐車場を解体して舗装面に線を引いただけの平置き駐車場や駐車場に変えるケースが出ている。これも、バリューアップ工事のひとつだ。

とはいえ、地面を掘って、地下に車をおさめる方式の機械式駐車場では工事が大がかりになる。装置を解体、撤去するだけでなく、地面を埋め戻す工程が加わるからだ。その見積もりをとったら、費用の高さに驚き、解体を断念するケースもある。

バリューアップ工事は、「いくらかかるのか」と「その結果、どれほどの効果が得られるのか」という費用対効果を見極めることが重要となる。

提案する管理会社の質が問われる時代に

そこで、今、マンションのバリューアップ工事は管理会社からの提案で始まるのが主流になっている。 他のマンションでこのような工事が行われた。費用はこれだけかかり、その結果、どれほどよくなったかを管理会社が説明する。マンションの住人は、その内容を吟味し、実行するかどうかを話し合う。そのような流れでバリューアップ工事が検討される。

提案の内容は、大がかりな装置の追加から管理スタッフの日常業務の見直しまで多岐にわたり、簡単な工事で済むもの、工事を必要としないものも含まれている。たとえば、ごみの分別がしやすいように、ごみ集積場の仕切りを変えるといった簡単な工事もあるし、子どもが学校から帰ってくる時間帯に管理スタッフがエントランスに出て、見守りを行うといった変更を行うことも含まれる。

内容により管理会社に支払う毎月の管理委託費が上がることはあるが、工事費用は発生しないバリューアップもあるわけだ。

今、分譲マンションでは管理費が高すぎる、という声が出るようになった。それに対し、管理会社は「管理費はそのままで、満足度を高める方向」を打ち出すようになった。満足度を高める方法のひとつが、バリューアップの提案だ。

各種のバリューアップを具体的に提案し、それを行うかどうかの最終判断はマンション所有者に委ねられる。その提案がどれほど有益であるか、で管理会社の質が問われる時代になったのである。

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