マンション管理の基礎知識

他人事ではない「マンション住民なりすまし」。大規模修繕を成功させる防犯の心得

大規模修繕工事を進めるにあたって行われた話し合い。参加者はマンション住民だけのはずが、そこに赤の他人が紛れ込んでいた――。近年、悪質な業者がマンション住民になりすまし、修繕工事の会議などに潜入する事例が次々と明らかになっています。なりすましの目的や被害を防ぐためにできる対策について、防犯対策専門家の京師美佳さんに解説いただきました。

目次

首都圏中心に被害続出! 「なりすまし」が起きる背景

2025年5月、神奈川県のマンションの大規模修繕委員会に、工事会社の社員2名が偽名で参加していた事件が報じられました。大規模修繕を狙った「なりすまし」は首都圏のマンションを中心に相次いでおり、決して他人事ではありません。

こうした事件の背景には、「大規模修繕は多額の工事費が動き、受注できれば大きな利益が得られる」という事情があります。業者側は競合他社を出し抜くために情報を集めたり、住民の意思決定を自社に有利な方向へ誘導したりすることを目的に、修繕委員会などの話し合いの場へ住民を装って入り込むのです。

もし、なりすましに気づかないまま工事が進んでしまえば、次のような被害につながる可能性があります。

 
  • 相場よりも高額な修繕費で契約させられる
  • 契約後に不必要な工事が追加されたり、高額な部材を使用されたりして、修繕費が膨らむ
  • 工事がずさんで、建物の傾きや排水不良などの問題が起きる
  • 工事後の責任やメンテナンスが期待できない

見積もり段階では安い価格を提示されていても、工事の質が悪かったり追加費用がかさんだりすれば、修繕資金が不足し、将来的に住民負担が増える可能性もあります。マンションの資産価値にも直結する深刻な問題といえるでしょう。

「なりすまし業者の手口」よくある3つの特徴

なりすまし業者の手口には、大きく3つの特徴があります。


特徴1: 住民や関係者を装い、意思決定の場に入り込む

なりすまし業者は、名簿や空き巣の被害情報などを利用し、住民の家族や代理人の名をかたって会議に参加します。賃貸物件の場合は、賃借人の関係者や、オーナーになりすますこともあります。

さらに、「理事会の名誉顧問」など権威ある肩書きを勝手に作り、オブザーバー的な立場で入り込む手口もあります。空き部屋に社員を住まわせ、住民として参加している場合もあります。


特徴2:特定の業者を持ち上げ、競合の悪評を流して誘導する

会議に潜入した業者は、「もう○○社でいいのでは?」「○○社が安くて良さそうだ」といった発言を繰り返し、議論を自社に有利な方向へ誘導します。他社との優位性を強調する虚偽の資料を作成することもあります。

また、「あの会社は仕事ぶりが最悪」「実際に修繕したマンションの人から聞いた」など、競合他社の悪口を吹き込み、印象操作をすることもあります。妙に業界事情に詳しく、特定の会社に偏った発言が目立つ場合は注意が必要です。


特徴3:会議で得た情報をもとに“勝てる見積もり”を作る

修繕業者を決める際は、複数社から相見積もりを取るのが一般的です。なりすまし業者は会議に入り込むことで、修繕計画や住民側の要望、さらには競合他社の見積もり内容などの情報を事前に把握します。

その情報をもとに「採用されやすい金額」に調整した見積もりを作成し、会議の場でなりすました人物が勧めてくるのです。

「なりすまし」を防ぐための4つの対策

なりすましの被害を防ぐには、そもそも住民以外が会議に入り込めない体制をつくること、そして万が一入り込まれた場合に早期発見できる仕組みを整えることが重要です。具体的な対策として、主に次の4つが挙げられます。


対策1:参加者の身元確認を徹底する

近年はご近所付き合いが減り、セキュリティーが厳しいマンションほど住民同士の接点が少なく、「知らない顔がいても不自然ではない」状況が生まれています。そのため、理事会や修繕委員会に参加する人物の身元を明確にすることが大切です。部屋番号や契約情報といった基本情報を確認し、できれば管理会社など責任ある立場のところへ照会できると良いでしょう。

また、相見積もりを取る業者についても、「営業に来たから」「誰かの紹介だから」と安易に受け入れないこと。参加条件を定めたうえで、慎重に選定することを心がけましょう。


対策2:議事録を作成する

会議では必ず議事録を作成し、可能であれば録音も残しておきましょう。後から「何かおかしい」と気づいたときに、発言の経緯を確認できます。


対策3:第三者の専門家を入れ、工事の必要性を見極める

土地家屋調査士などの専門家を入れるのも一つの手です。費用はかかりますが、建物の状態を客観的に診断してもらうことができるので、不必要な工事や過剰な提案を防ぎ、結果として適正な内容・価格で修繕を進めることにつながります。

対策4:住民が当事者意識を持ち、透明性を確保する

「会議に参加するのは面倒」「よくわからないから任せたい」と、大規模修繕を他人事にしてしまう人は少なくありません。しかし、悪質な業者はそうした油断につけ込み、話し合いの場を自分たちに有利な方向へ動かそうとします。場合によっては内部の関係者がリベート(バックマージン)を受け取り、特定の業者へ誘導するケースもあります。

こうした不正を防ぐには、一人に権限を集中させず、複数人でチェックできる体制を整えることが欠かせません。話し合いのプロセスを透明化し、住民一人ひとりが“我がこと”として関わることが、暮らしと資産を守る最大の対策になるでしょう。


  • 本記事の内容は2026年6月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

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お話を聞いたのは●京師美佳さん

きょうし・みか/錠前の認定資格、防犯設備士を取得後、2005年に京師美佳セキュア・アーキテクト設立。防犯対策専門家・防犯アドバイザーとして、マンション・戸建ての防犯のプロデュースや設計、防犯診断、防犯の施工などを行う。2025年、一般社団法人安心安全社会推進機構代表理事就任。日本初の女性防犯アドバイザー、日本で唯一の犯罪予知アナリストでもあり、講演、テレビ・新聞・雑誌など、多方面で防犯の啓蒙活動を展開している。
https://www.kyoshimika.com/

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