ライフデザイン

「こうあるべき」を手放して。北欧で見つけた、自分を縛らない生き方

森を歩き、湖の上で氷上釣りを楽しみ、鳥のさえずりで四季の移ろいを感じる——。日本からスウェーデンの田舎町に移住して23年目となる「スウェーデンの森チャンネル」さんは、そうした暮らしぶりをYouTubeで発信しています。文化や環境の異なる生活を通して見えてきた、心豊かに暮らすヒントとは。

目次

「当たり前」を手放して見えたもの

私の暮らすスウェーデン北部は、自然豊かな田舎町です。夏のベリー摘み、夏から秋にかけてのキノコ狩り、冬はクロスカントリースキーに氷上釣りと、娯楽は自然そのもの。私の休日の過ごし方も、日本にいた頃とは大きく変わりました。

自然の中に身を置いている時間は、自分の中にある「こうあるべき」「これをやらなければならない」といったことから、少し距離を置けるように感じます。例えば、「ストゥーガ(Stuga)」と呼ばれる森や湖畔にある小さなコテージで過ごすことがあるのですが、そこにはお風呂がついていないこともあります。普段なら毎日お風呂に入るのが当たり前ですが、「ないのだから入れなくても仕方ない」と素直に思えるのです。

これは極端な例ですが、あえて「こうあるべき」から離れる時間を積み重ねる中で、自分にとって本当に大切なものが見えてきました。一方で、これまで当たり前だと思っていたことの中には、実はそれほど重要ではないものも多かったのだと気づき、いい意味で周りの目が気にならなくなりました。

こうした経験を重ねる中で感じるのは、スウェーデンには「こうあるべき」という縛りが比較的少なく、社会全体に寛容さがあるということです。それは「いい加減」や「だらしなさ」ではなく、規律ある中での融通の幅が広いという印象です。

以前、給食を作る仕事の最中に、材料の発注を忘れるというミスをしたことがありました。日本なら大問題になりそうな場面ですが、上司はすぐに「材料が来ないんだから仕方ない」「メニューの日付を変えればいい」と解決策を提案してくれました。

上司がこうした判断ができる背景には、サービスを受ける生徒や学校、保護者の側にも「メニューが変わっても仕方ないよね」と受け止めてくれる寛容さがあるように思います。失敗を責めるのではなく、困りごとや悩みごとに対して前に進むための提案をしてくれる環境は、とても居心地よく感じます。

冬は湖が凍るので、氷上釣りを楽しむ。

「何をするか」よりも、その瞬間をどう味わうか

スウェーデンで一番お気に入りのお菓子「セムラ」。イースターの47日前の火曜日、断食前に食べる伝統的なお菓子で、現在は季節のお菓子として前後の時期に楽しまれており、フィーカのために準備することもある。

今でこそ自然の中での生活を満喫していますが、移住した当初は「何もないところだ」と感じていました。テーマパークやショッピングモールなどの娯楽施設がほとんどなかったからです。しかし、それは「娯楽=何かを消費すること」と思い込んでいたからでした。

森にソーセージを持って出かけ、焼くために木の枝を切り、火をおこして食べる……。それだけで、とても満ち足りた気持ちになります。準備をする、森を歩く、ソーセージを焼く、そうした一つひとつのプロセスそのものが楽しいのです。

特別な場所に行かなくても、そうした楽しみは日々の暮らしの中で見出すことができます。スウェーデンには「フィーカ(Fika)」という、飲み物や軽食をとりながら一息つく文化があります。お気に入りのお菓子を用意する、みんなでお茶を飲む、そうした時間が心に豊かさをもたらしてくれます。

「どこへ行くか」「何をするか」だけでなく、そこに至るプロセスや帰ってきてからの時間も含めて、一瞬一瞬をどう感じたかを大切にする。それだけで、日常の充足感は少し変わってくるように思います。

今の暮らしに小さな豊かさを灯すヒント

「何をするか」よりも、その過程をどう味わうか。そんな感覚は、物との付き合い方にも通じているように感じます。スウェーデンでは、家の居心地の良さを大切にする人が多く、「ミューシグ(Mysig)」と呼ばれる、ほっこりと心地よい状態が好まれています。冬が長く、家で過ごす時間が多いことも影響しているのかもしれません。

そのため、家具はもちろん、お気に入りの絵やタペストリーを飾る、窓際に鉢植えを置く、蛍光灯ではなく間接照明を選ぶ、好きなテキスタイルデザインのカーテンを掛けるなど、細かいところまでこだわっている人が多い印象です。

ただし、何でも新しく買うというわけではありません。本当に気に入ったものや、家族から受け継いだもの、友人から贈られたものを手入れしながら長く使い続けます。新しいものを探すのではなく、目の前にあるものの美しさを再認識し、大切にする文化はとても素敵です。物自体だけでなく、それを選んだ経緯や込められた思いといった背景も含めて慈しむ。そのあり方は、日々の時間の過ごし方とどこか重なるものがあります。

自宅のキャビネットは、義父が大工学校の卒業制作で手がけたもの。中には、結婚祝いに贈られたアンティークの陶器を収納している。

私は、日本人と北欧の人々は、どこか似ているところがあると感じています。北欧家具やデザインに惹かれる人が多いのも、そうした感覚の近さがあるからかもしれません。家の中では靴を脱いで過ごす点も共通していますし、人との距離の取り方や、あえて言葉にしすぎない奥ゆかしさにも通じるものがあります。 

そう考えると、私がスウェーデンでの暮らしの中で感じた心地よさは、日本での暮らしにも取り入れやすいはずです。ほんの少し視点を変えるだけで、今の暮らしの中にも、小さな豊かさを見つけられるのではないでしょうか。 

  • 本記事の内容は2026年5月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●スウェーデンの森チャンネルさん

福井県大野市出身。スウェーデン人夫との出会いを機にスウェーデン北部へ移住、2026年で在住23年目を迎える。「給食のおばちゃん」として働くなか、コロナ禍にあった2021年に「私の毎日の通勤路の自然の移り変わりの美しさを誰かに見てほしい」という思いでYouTubeチャンネルを開設、Vlogは70万回再生を突破。2023年にエッセイ『北欧、「ちょうどいい」暮らし。』(KADOKAWA)を発売。
https://www.youtube.com/@Sweden_no_mori

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