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自宅で優雅なひとときを。マナーより大切な「アフタヌーンティー」の楽しみ方

ホテルのラウンジやお洒落なカフェで楽しむイメージのあるアフタヌーンティー。英国紅茶研究家の藤枝理子さんが、その魅力や自宅での楽しみ方をご紹介します。

目次

アフタヌーンティーの誕生と広がり

“ヌン活”という言葉をご存じでしょうか。「アフタヌーンティーを楽しむ活動」の略語で、2022年の流行語大賞にもノミネートされました。アフタヌーンティーの最大の魅力は、紅茶を飲みながら美しい見た目のティーフーズをいただき、優雅なひとときを過ごして心を潤すこと。ホテルのラウンジをはじめ専門のカフェもでき、近年ますます、“ヌン活”への注目は高まっています。

アフタヌーンティーは食器やカトラリーの見た目も繊細で美しく、眺めて楽しむことができるのも醍醐味の一つ。

そもそもアフタヌーンティーは、19世紀にイギリスの第7代ベッドフォード公爵夫人、アンナ・マリアが「秘密の一人お茶会」を楽しんでいたことが始まりといわれています。

当時の貴族は1日2食で、昼近くに朝食兼昼食をとり、夜は8時や9時にディナーをしていました。そのため午後3時〜4時には空腹になってしまい、さらに女性たちはコルセットをきつく締めていたこともあり、気分が悪くなる人が続出していました。また、女性は家で過ごすことが基本とされていて、今のように自由に外を歩くこともできません。

そこでアンナ・マリア夫人は、こっそり紅茶とちょっとしたお菓子をベッドルームで楽しむようになりました。それがとても優雅で心を満たす時間に感じられたため、やがて彼女は友人を招いて部屋にティーテーブルを出し、飾り付けをして一緒に過ごすようになったのです。こうして生まれた集まりが社交の場となり、後に「アフタヌーンティー」と呼ばれるようになりました。

それをさらに国民にまで広めたのがヴィクトリア女王です。彼女は倹約家で「中産階級の女王」とも呼ばれていました。アフタヌーンティーはディナーほどお金をかけずに済み、しかも女性が喜ぶ集まりであることから、公の行事に取り入れられ、英国文化として浸透していきました。中産階級の女性たちは貴族よりも熱心にアフタヌーンティーを開き、ほぼ毎日のように参加していたといいます。

ただ、フォーマルなアフタヌーンティーを開くためには、広い屋敷や使用人、多くの茶道具が必要でした。そこで登場したのがホテルです。ヴィクトリア時代の後期、ホテルがこの流行に目をつけ「道具や家がなくてもアフタヌーンティーを体験できる」という形で打ち出したのです。これがホテルアフタヌーンティーの誕生でした。現在の日本で流行しているものに一番近いのが、この形式です。

イギリスでは階級によって作法が異なる

私が初めてアフタヌーンティーに興味をもったのは3歳ごろでした。父は仕事の関係でイギリスへの出張が多く、帰国すると現地のさまざまな話をし、写真も見せてくれました。その中に一枚、衝撃的な写真がありました。昭和40年代、日本ではアフタヌーンティーという言葉すら知られていない時代に、イギリス人がホテルで3段スタンドを前に楽しんでいる様子が写っていたのです。「世界には、童話のような素敵な時間が現実に存在しているんだ!」と感動したのです。

小学生になると、自分でケーキを焼き、父がイギリスで買ってきたティーセットを使い、友人を呼んで小さなティーパーティーを開くようになりました。大学卒業後は一般企業に就職したものの、紅茶をライフワークにしたいと思うようになり、イギリスへの紅茶留学を決意。会社を辞めて渡英し、ホテルアフタヌーンティー巡りをしながら現地で知り合いを作り、各家庭に伝わるアフタヌーンティーの作法を教わりました。

というのも、行ってみてわかったのは、イギリスのアフタヌーンティーには日本の茶道のようにお茶の学校があるわけではなく、家庭の中で代々受け継がれているものだったのです。しかし、それが非常に奥深かった。イギリスは階級社会ですから、階級によって作法がまったく異なるのです。だから、家によって作法も異なる。「あなたのような庶民がなぜ上流階級のマナーを知る必要があるのか」と不思議がられながら、なんとか各階級のマナーを習得しました。

ティースプーンの置く位置や、ハンドルの持ち方にも実はマナーがあります。

紅茶を淹れる時間そのものが癒しになる

私のようにアフタヌーンティーに夢中になり、それを極めようとするならばマナーも重要です。でも、なによりも大切なのは気負わずに楽しむこと。友人を少し招いてみるだけでも、アフタヌーンティーの本当の意味は十分に感じられます。

カジュアルなアフタヌーンティーであれば、お好きな紅茶を自由に楽しんでかまいません。ただ一つ大切なのは、ポットを用意し、ティーバッグではなく茶葉から丁寧に抽出すること。あるいは、三角形のテトラ型ティーバッグであれば問題ありません。なぜなら、紅茶を淹れる時間そのものが癒しにつながるから。お湯の中で茶葉が開いていく様子を目で見て、香りを確かめ、湯気の温かさを感じる。そうやって五感を研ぎ澄ますと、わずかな時間であっても心が穏やかになり、とても豊かなひとときになります。

今の時代は情報があふれていて、自分と向き合う時間がほとんどありませんよね。だからこそ、紅茶を淹れる3分間だけでも、テレビやスマホをオフにして、静かに自分と向き合う時間を持つことに意味があるのです。

茶葉の香りを楽しみながら静かに過ごす3分間は、心を穏やかにしてくれます。

人を招く準備の時間を楽しむ

より本格的なアフタヌーンティーを実践したいときには、紅茶を3種類以上用意します。一つ目はダージリンなどのオーソドックスな紅茶。二つ目は香りをつけたフレーバーティー。そして三つ目はブレンドティーがおすすめです。イギリス貴族たちは、家ごとに「ハウスブレンド」と呼ばれるオリジナルの紅茶を持つのが伝統でした。もちろん、ご自身でブレンドした紅茶でも十分素敵です。

ティーフーズも、すべてを手作りする必要はありません。今はイギリス菓子のブームで、お店で手軽に手に入ります。サンドイッチを一種類だけ手作りするだけでも十分です。

アフタヌーンティーの楽しみは、人を招くと決めた瞬間から始まります。お掃除やインテリアに力を入れたり、「どの食器を使ったら喜んでもらえるかな」と考えたり、準備の時間そのものが楽しく、その小さなメリハリが心に潤いをもたらすのです。大切なのは完璧に整えることではなく、まずは自宅に人を呼んで一緒に時間を楽しむこと。それが、日常の潤いになるのです。

  • 本記事の内容は2025年9月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●藤枝理子さん

ふじえだ・りこ/英国紅茶&アフタヌーンティー研究家。自宅の一部をサロンとして開放した東京初サロン、紅茶教室「エルミタージュ」主宰。英国の文化やマナーも学べるサロンは、ウェイティングが起きるほどの人気。内装やインテリアデザインも好評で、住宅展示場やマンションのモデルルームのインテリアデザインなども数多く手掛けている。著書に『もしも、エリザベス女王のお茶会に招かれたら?』(清流出版)、『仕事と人生に効く 教養としての紅茶』(PHP研究所)、『英国流アフタヌーンティーバイブル』(河出書房新社)など多数。
https://www.instagram.com/rico_fujieda/

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