在宅勤務が増えて新たに浮上したトラブルとは?
30年ほど前までは、マンション内の住居者同士で起こるトラブルといえば「漏水」「騒音」「ペット」の3つが上位を占めていました。依然として「漏水」と「騒音」はよく見られるケースで、いずれも築年数に関わらず起こり得るものです。
多くの漏水の原因は「ホース外れ」や「専有部分にある給排水管の腐食」。前者は使い方に慣れないことが要因であるため新築でも見られます。対して後者は、頻度は多くはないものの、設備の劣化によるので築年数の経っている物件で起こりがちです。原因が視認できない場所にあるため、自身が加害者であることを認識しづらく、トラブルに発展しやすいのもこのケースです。
また、騒音で特に気をつけたいのは洗濯機など電化製品の音。環境が変わると大きくなることがあり、以前住んでいた部屋で問題がなかったにも関わらず、思わぬ苦情が来たケースもあります。マンションの構造によって音の伝わり方は異なり、家電も劣化するからです。
一方で「ペット」に関するトラブルは、現在、大変少なくなりました。2003年を境に多くの物件がペット可になったからです。当時、景気が後退するなか、多くの人がペットに救いを求めたことも一因だと言われています。現在はマンションでのペットの飼い方にみなさんが慣れてきており、ペットはきちんとしつけられ、「ペットが怖い」「臭いや音が気になる」など、かつてよく見られた問題は起こりにくくなっています。
近年、ペットに替わってトラブルとなりやすくなったのが「タバコ」です。ベランダでの喫煙だけでなく、室内でも、窓を開けっぱなしだったり、換気扇の下で吸っていたりすると、周囲の住戸に煙や臭いが届いてしまうことになりかねません。コロナ禍以降、在宅勤務が増えることで顕在化したひとつの例と言えるでしょう。
介入できるのは弁護士だけ! 当事者同士で円満に解決するには?
マンション内でトラブルが起きたら「管理組合や保険会社に連絡をして、自分は関わらなくても解決できる」と考えている人がいるかもしれません。しかし残念ながら、住人同士のトラブルはすべて、当事者で解決するか弁護士を介入させるしかありません。
弁護士にお願いすると当然、費用も時間もかかる上、相手は同じマンションの住人。顔を合わせる機会もありますし、もし裁判で勝ったとしても、その後の関係性を考えると住みづらくなることもあるでしょう。
快適に住み続けるためには当事者同士で解決したいところ。策のひとつが、マンションの掲示板などを活用することです。「深夜の楽器練習はご遠慮ください」という具体的な貼り紙のほか、「いつもマナーを守っていただきありがとうございます」のように、見た人の心理作用を利用するパターンも効果があります。
一方、個人で相手のポストに抗議文を投函することには、注意が必要です。相手が、原因は自分にあると認識できるのであれば改善を期待できますが、自分を加害側だと思っていない人もいます。そうするとただの嫌がらせと受け取られ、さらなるトラブルになりかねません。

物件購入を検討するときにできることは?
今回挙げた、騒音、漏水、タバコのトラブルについて、事前に防ぐのは正直簡単ではありませんが、日頃からできることもあります。
中古物件であれ新築物件であれ、共通するポイントは「上手なご近所付き合い」です。相手を知っていれば、会った時に直接話すことができますし、許容範囲も広がります。その点では、理事会に積極的に参加するなどして、マンション内に良好なコミュニティを築いておくことが大切です。
また物件購入を検討する際にも、できることはあります。
中古マンションの場合は、どのような人が住んでいるか、現在進行形でトラブルは起こっていないかを、事前に確認することができます。内見時に「掲示板」と「ゴミ捨て場」「駐輪場」を必ずチェックしましょう。掲示板からはコミュニティの熟成度、ゴミ捨て場からは住んでいる人のマナー、駐輪場からは住人の生活感が、ある程度見えてくるでしょう。
一方、新築マンションの場合、ご近所トラブルに見舞われるかどうかは運だと思っている方も多いでしょう。しかし、環境をつくっているのは、人です。検討段階では、エリアを何度か下見することで、リスクを減らせます。雨の日や夕暮れ時など、条件の悪いタイミングも含めて、何度も下見を行ってください。街をかたちづくっている雰囲気から、感じ取れることもあります。
きっとマンションの住人のゴールは同じ。目標を共有しているはずです。上手にトラブルを回避しながら、マンションライフを楽しんでもらえたらと思います。
- 本記事の内容は2025年4月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●久保依子さん
くぼ・よりこ/マンションみらい価値研究所所長。不動産会社に入社後、管理会社に転籍。新築マンション販売、不動産仲介、賃貸管理、分譲管理と、マンションに関わるすべての領域を経験する。一般社団法人マンション管理業協会業務法制委員会委員。国土交通省が主催するマンション標準管理規約の改正に係る検討会等にも専門委員として参加するほか、研究所を通じてレポートや論文を公表している。著書に『マンションの未来は住む人で決まる』(幻冬舎)がある。