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【名建築探訪】窓と明かりの美しさ「自由学園明日館」(池袋)

女性ジャーナリストの草分けである羽仁もと子、吉一夫妻が創立した自由学園の校舎である「自由学園明日館」。建物を眺めたときに誰もが真っ先に目に留めるのは、美しい幾何学模様の窓ではないだろうか。設計したフランク・ロイド・ライトや遠藤新らしさを表す意匠のひとつといえる、“窓”と“明かり”に迫る。

大聖堂のステンドグラスを彷彿とさせる窓

自由学園明日館の窓からは柔らかな日差しが降り注ぎ、窓辺の席は見学者たちにいつも人気だ。

明日館のシンボルともいえる、中央棟のホール。南面は腰の高さの下枠から吹き抜けの天井まで一面、大聖堂のステンドグラスのような大窓がはめられている。明るい外光が差し込めば、室内には陰影が生まれる。夜ともなれば、この美しい窓から室内のあたたかな光が外の闇の中ににじみ、なんともいえない情緒に満ちる。

「ステンドグラスのような」と書いたが、この窓はステンドグラスではない。自由学園明日館は、羽仁もと子、吉一夫妻が私財を投じて建てた学校である。工費は限られていた。「簡素な外形のなかにすぐれた思いを充たしめたい」というのが夫妻の理念だった。

クリスチャンだった夫妻は、同じ教会へ通っていた建築家の遠藤新に学校建築を相談する。当時、帝国ホテルの設計に携わっていたフランク・ロイド・ライトの助手を務めていた遠藤が夫妻とライトを引き合わせ、夫妻の理念に共鳴したライトが自由学園の設計を請け負ったのである。

ホールの五角形の大窓をはじめ、建物全体の窓に幾何学的な装飾が施された。大聖堂のステンドグラスのような意匠は、クリスチャンである夫妻らの意向でもあったのだろうか。

だが、色ガラスを使うステンドグラスは高価なものだ。限られた予算の中で仕上げるために、透明な板ガラスを使い、木製の窓枠や桟で幾何学を表すことで、ステンドグラスを模したユニークで美しい意匠を実現しているのである。

ホールの大窓は、明日館の美の象徴だ。木製の窓枠や桟はもちろん、一部だが創建当時の吹きガラスが現役である。
玄関の扉にも、幾何学の意匠を施した窓ガラスがはめ込まれている。

教室には照明がなかった!?

ホール導入部の柱に据えられた行燈状の照明。

これだけ窓が大きいせいか、館内には意外なほど照明が少ない。ほとんどの部屋が南向きで、外光が燦々と入る構造なのも一因だったろう。改修後は、各部屋にLED照明が付けられたが、創立当時のホールには、導入口の低い天井を支える大谷石の柱に、行燈のような小さな照明があるばかり。吹き抜けの天井部分には照明がなかった。

そればかりか、驚くことに教室には照明が一切なかったらしい。

「女学校ですから、夜間は使わない、という前提だったこともあるでしょうね。とはいえ、教室は照明がないと、日中でも暗いときは暗いですよ」と館長の福田さんは言う。

それでも、授業中に教室の窓から外を眺めるのは、さぞかし気持ちが良かったに違いない。教室の窓の下部には、椅子に座るとちょうど目の高さに、小窓が額縁のように切られているのだ。

「この小窓は、風景を切り取るにはとってもいいですよね」

前庭には緑の芝生が広がり、四季折々の花が咲き、鳥がさえずり、蝶々やトンボが飛ぶ。このデザインは、羽仁夫妻やライトや遠藤から、日々勉強に勤しむ女学生たちへの、ちょっとした心遣いだったのかもしれない。

食堂の窓のフシギ

中央棟ホールの裏手にある食堂には、メインフロアの高い天井から4つ、周囲にある小部屋にそれぞれ1つずつ、合わせて7つも大きな球体の照明が吊るされている。この照明のデザインもフランク・ロイド・ライトが手掛けたものだそうだ。

「食堂は南向きでないので、大きな照明が必要だ」と、最初からライトが考えていたかというと、ちょっと違うらしい。当時の電気配線図を見ると、30wの電球が天井に4つ付く、という計画だったのが分かる。

現在の食堂は、メインスペースを挟んで東西および北側に小さな部屋が付いている。その小部屋には、いかにもライトらしい幾何学の窓がある。だが、どこか違和感がある。

「不思議でしょう? なんか変っちゃ、変でしょう?」と福田さんが悪戯っぽく笑った。

ほかの部屋の窓も斜めや垂直の桟で幾何学模様を作っているのだが、基本的に斜めの線は屋根の勾配に沿っている。だが、食堂の小部屋の窓は、勾配と一致していない部分が多いのだ。

「この窓ね、リサイクルしたものなんですよ」と福田さんが種明かしをした。

1922年竣工当時の食堂には今のような小部屋はなく、床面は長方形で、三方には大きな窓が嵌められていたという。当時の写真を見ればよく分かる。中央棟ホールのステンドグラスのような窓同様、屋根の勾配に即した幾何学デザインの大きな窓がはめられている。天井が高く、同様に北側にも東側にも大きな窓があったのだから、食堂はさしずめガラスの箱。サンルームのように豊かな光が注いでいたことだろう。

竣工当時、食堂の外には“コの字”状にバルコニーが巡らされていたのだが、創立後、どんどんと生徒数が増えていき、あっという間に食堂は生徒が一堂に会して食事をする場としては手狭になってしまった。そのため、創立から2年後、すでに米国に帰国していたライトに代わって、遠藤新がバルコニー部分に小部屋を設けてスペースを確保した。竣工直後の窓の名残は今でも天井部分に見られるが、美しい大きな窓は小分けにして、小部屋の窓に転用したのである。

食堂には、ほかの部屋には見られない、ひときわ大きな照明が並んでいる。
屋根の勾配とも異なり、垂直でもない、一見不規則に見える幾何学状のデザインが、食堂脇の小部屋の窓に施されている。
1922年竣工直後の食堂の様子。奥に見えるのが西面の窓。窓の向こうにバルコニーの白い壁が見える。写真提供:自由学園明日館

食堂の球体照明の秘密

斜めから見ても、横から見ても、大きな球体と器具の独特な意匠が空間に映える。

話を小部屋増築前の食堂に戻そう。

先ほどのモノクロ写真を見ていただきたい。大きな窓がはめられた食堂、食事を前にして居並ぶ生徒たちの頭上には、すでに大きな照明が見える。

ここで「はて?」と疑問が浮かぶ。

これだけ日当たりが良ければ、大きな照明がなくても良かったはずだ。小部屋の照明はライトの帰国後に付けられたものだが、ライトはなぜこんなに大きな照明を、当初から4つも作ったのだろう?

「食堂が完成する直前に訪れたライトが、はたと気づいたんです。ここで女学生たちが座って食事をしたら、上の空間が、なんだか間抜けじゃないか、って」

ライトは直ちに照明のデザインに取り掛かり、その日の夜には設計図を完成させたという。

 「それにしても面白いデザインですよね。どの方向から見ても、まっすぐでも斜めでも、写真映えするんですよ」と福田さんがしみじみつぶやいた。空間に大きな球体が一列に並ぶ様は、まるで惑星のようでもあり、また、球体を支える木製の器具もユニークなデザインで、見ていて飽きない。

お話を聞いたのは●福田 竜さん

ふくだ・りゅう/「自由学園明日館」6代目館長。建築設計事務所勤務ののち、明日館へ。さまざまなイベント等を積極的に打ち出すなど、重要文化財・自由学園明日館の運営に余念がない。

「自由学園明日館」

東京都豊島区西池袋2-31-3
https://jiyu.jp/

【見学時間】

  • 通常見学:10時~16時(入館は15時30分まで)
    ※建物解説は14時~
  • 夜間見学日:毎月第3金曜日18時~21時(入館は20時30分まで)
  • 休日見学日:10時~17時(入館は16時30分まで)
    ※月1日指定日
    ※休日見学日の建物解説は11時~、14時~の2回
  • 休館日:毎週月曜(月曜が祝日または振替休日の場合はその翌日)、年末年始
    ※不定休あり。要事前確認

【見学料】

  • 建物見学のみ:500円
  • 喫茶付き見学:800円
  • 夜間見学・お酒付き:1200円

取材・文●戸羽昭子 撮影●キッチンミノル(2024年8月掲載)

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