現代アートが「難しい」と感じる2つの理由
「すごいけど、何を表現したいのかわからない」「前衛的で解釈が難しい」。アート鑑賞が好きでも、現代アートに対してそんな印象を抱く人は少なくありません。その背景には、大きく2つの理由があると私は考えています。
理由① 学校の授業で触れる機会がない
現代アートとは、一般的に第二次世界大戦後、特に1950年代以降のアートを指します。しかし、義務教育の美術で扱われるのは、ゴッホなど19世紀後半の印象派の辺りまでが中心です。現代アートに触れる機会が少ないまま大人になれば、鑑賞したときに戸惑うのは自然なことでしょう。
理由② 「見る」だけでは作品の背景が読み取りづらい
現代アートは、写実的な技量の高さよりも、題材や素材が持つ意味をどう扱い、どう見せるかに重点を置いた作品が多いのが特徴です。そのため、作品を見ただけでは「なぜこの形になったのか」「どんな思考を経てこの表現に至ったのか」といった背景が見えづらいのです。
例えば、自動車を宙吊りにした作品を見たとき、「なぜ車を吊るしたのだろう」と疑問に思う人は多いでしょう。しかし、自動車というモチーフには、エネルギー、技術、戦後の時代性、環境問題など多様な意味が含まれています。現代アートは、こうした「モノが持つイメージ」を利用してメッセージを生み出す表現でもあるのです。
楽しむために意識したい「3つの世界」
私が現代アート鑑賞の入口としておすすめしているのが、作品を「3つの世界」に分けて捉える方法です。スポーツにはさまざまな種目があり、それぞれルールや見どころが違うように、アートも作品によって表現の狙いが異なり、注目すべきポイントも変わります。
①作品の中の世界(物語を楽しむ作品)
人物や風景などが描かれ、画面の中に物語が成立している作品です。宗教画や肖像画、風景画、静物画と呼ばれるジャンルのものが多く、登場人物の表情や動作、状況を読み取ることで、作品の面白さが深まります。
現代アートの場合は、作者が現実のモノや風景をどう“変換”しているかにも注目してみてください。例えばプラスチックや水たまりのように、普段は価値を意識しないモノが驚くほど美しく描かれていることがあります。作家の目を通すことで、ありふれたモノが新鮮に見える。その加工力や美化の技術こそが見どころです。
②作品の表面の世界(質感を楽しむ作品)
抽象画のように、一見すると何が描かれているかわかりにくい作品です。このタイプは「何を描いたか」よりも、「どう描いたか」に魅力があります。
色のバランス、筆跡の勢い、絵の具の盛り上がりやざらつきなど、表面の情報を味わってみてください。「この色は思いつかない」「どうやって作ったのだろう」と感じるだけでも、立派な鑑賞になります。
③作品の外の世界(空間を楽しむ作品)
インスタレーションなど、空間全体を作品として成立させる表現です。こうした作品は、置かれているモノそのものよりも、「そこにあることで空間がどう変わるか」に狙いがあります。展示されている空間全体を見渡し、配置による調和や違和感を感じ取ってみてください。
この世界を体感できる美術館としては、豊島美術館(香川県・豊島)や、地中美術館(香川県・直島)、金沢21世紀美術館(石川県)、豊田市美術館(愛知県)などがおすすめです。
作品から感じたことを言語化してみよう
いざ美術館に行くと、タイトルやキャプションに目が向きがちです。しかし、まずは作品を見て「どこに目がいったか」「それを見てどう感じたか」を自分の言葉にしてみてください。最初の印象を言語化するだけで、作品との距離は縮まります。
そのうえで背景を調べたり、社会的な意味を考えたりしながら、作者の意図に思いを巡らせると鑑賞はさらに深まります。最初はピンとこなくても、作品に触れる回数が増えるほど、「以前に見た作品と似ている」といった発見が増え、理解の糸口がつかめるようになっていきます。東京国立近代美術館、東京都現代美術館、アーティゾン美術館などは幅広い作品に出会えるため、作品を見比べながら鑑賞経験を積むのに適しています。
また、感想を誰かと共有するのもおすすめです。同じ作品でも着目する点は人によって違い、「その見方はなかった」という発見が、作品の奥行きを広げてくれます。
そして、機会があれば自分でも制作を体験してみてほしいです。私が主宰する大人向けのアートスクールでも、抽象画を実際に描いてみたことで「自分でも描けそうだと思ったが、やってみると評価されている理由がわかった」と驚かれる方が少なくありません。体験を通して、現代アートの魅力を肌身で実感できるはずです。
- 本記事の内容は2026年6月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。
お話を聞いたのは●美術解説するぞー(鈴木 博文)さん
びじゅつかいせつするぞー(すずき・ひろふみ)/美術解説家。1990年生まれ。2013年、東京学芸大学中学校教員養成課程美術専攻卒業。その後約9年間、主に中学校で美術教員の職に就く。2020年から「美術解説するぞー」のハンドルネームで「なんとなく鑑賞からなるほど鑑賞へ」をモットーに、SNSを中心として美術解説に特化したコンテンツを開設する。2022年には教員を辞めフリーランスに。誰もがアートを楽しめる『×art |かけるアート』主宰。企業での講座や、展覧会解説のアンバサダー、美術寄稿、アーティストステートメント考案作成、制作アドバイスなど多岐にわたる美術啓蒙活動を行っている。著書に『現代アートがよくわからないので楽しみ方を教えてください』(日本実業出版社)。
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