器面を流れる美しいグリーンの木の葉皿

著名な陶芸家・辻村史朗氏の長男として生まれ、自然に陶芸の世界に入った辻村唯(ゆい)さんの“自然釉木ノ葉皿”。辻村唯さんは古墳時代に朝鮮半島から伝わった須恵器(すえき)に強く惹かれ、青灰色をした須恵器の形や表面を研究した丁寧な作陶で、素地をビードロが覆う自然釉の作品へ辿り着く。
自作の穴窯から生み出される、器面を流れる美しいグリーンは、唯さん独自のものだ。自然の中にそのまま在るかのような佇まいの木ノ葉皿は、テーブルに銘々皿として重ねて置くだけでも人目を引く。
「料理店では、この皿にちょっとした焼き物や煮物を盛って使っていますね。唯さんの器は料理人にとても評判が良く、あちらこちらの店で見かけます。料理だけでなく、茶席で羊羹や干菓子を乗せてお出ししてもいいですね」と、青野さん。
自然釉の緑は、その上に盛ったものを柔らかな光と温かさで包み込む。
食卓の雰囲気を変える大正時代の竹盃

骨董の器をさりげなくおもてなしの食卓に取り入れると、また違った雰囲気が演出できる。大正時代の竹盃はどこかポップでエレガント。日本酒だけでなく、乾き物や珍味を入れても楽しい。
「竹盃の中側は朱漆で、高台は緑漆で塗られています。この時代、緑色の漆が流行ったことがあったんですね。その後、昭和の終わり頃にも緑漆が流行りました。今はすっかり見かけなくなってしまいましたが、この竹盃は、当時はかなりモダンだったでしょうね。これを買い求めて愛でた数寄者が、そうした職人を育てたんです。作り手も大事ですが、もっと大事なのは、それを愛でる力がある買い手です。結局、すごい佳品でもそれをわかる人がいなければ、こうして現在まで残ってはいないんですから」
骨董の小さな竹盃のセットは思いのほかコンテンポラリーで、洋風な暮らしの中に置いても不思議に違和感がない。骨董の世界は奥深く、時を駆ける楽しみに満ちている。

お話を聞いたのは●青野 惠子さん
あおの・けいこ/幼少の頃から日本舞踊をはじめ、日本文化に触れて育つ。物理学者と結婚し、アメリカに2年間滞在。海外から母国を見つめ直し、日本文化の素晴らしさを再発見する。1995年に阪神大震災、地下鉄サリン事件で、日本の経済も安全神話まで無くし弱る中、翌年の96年に「日本には文化がある」と、新高輪プリンスホテル内に『ざくろ坂ギャラリー一穂堂』を開設。2001年に銀座、08年にはニューヨークで『一穂堂』をオープンした。才能ある現存作家を発掘し、国内外へと送り出している。

『銀座一穂堂』
東京都中央区銀座1-8-17 伊勢伊ビル3階
TEL:03-5199-0599
営業時間:11時~18時
休:月曜 ※予約制
https://ginza.ippodogallery.com/
取材・文●瀬川 慧 撮影●大山裕平(2024年10月掲載)
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