睡眠の質が低下することで、あらゆる病気のリスクが高まる
先進国の中で日本は睡眠時間が最も短い国と言われており、特に働き盛りである40〜50代は、睡眠時間が6時間未満の人が50%以上というデータがあります。睡眠時間は年齢とともに短くなっていくものですが、忙しさゆえに十分な睡眠時間が確保できていない人が多い状況がうかがえます。
自分の睡眠を大切にしない生活を続けていると、睡眠障害などの睡眠課題が生じ、さらに病気を引き起こす可能性が高くなります。例えば、寝つきに時間のかかる入眠障害の人は、そうではない人に比べて2型糖尿病の発症率が2.8倍、高血圧症の発症率は1.96倍という研究結果が明らかになっています。
さらに最近では、睡眠は認知症の発症に影響していることもわかってきており、睡眠が安定している人に比べて睡眠課題のある人の認知症発症リスクは2.14倍、アルツハイマー病は2.92倍と言われています。その他にも、糖尿病や高血圧症、乳がんの発症率の増加など、睡眠課題によってリスクが高まる病気を挙げればきりがありません。特に40代以降は、病気に直結したり、高齢になってからの認知症リスクにつながる可能性が高まるので、睡眠の質は大事にしてほしいと思います。
では、そもそも「良質な睡眠」とはどのような状態なのか。良質な睡眠の定義は多岐に渡りますが、例えば、人間の睡眠の深さを4つのレベルに分けたとき、一番深いレベルに速やかに到達できており、深い睡眠が十分出現していれば「良質な状態」と言われています。しかし、これは脳波を測ってみないと正確にはわからないので、まずは次の3項目にあてはまっているかをチェックしてみましょう。
- 寝つきがスムーズである
- 朝起きたときに「よく寝た」という熟睡感がある
- 途中で起きてしまうことがない、もしくは途中で起きてもすぐに眠ることができる

睡眠の質を高めるには、入浴から起床までの一連の流れが重要
睡眠の質に大きく影響を与えるのが、入浴です。良質な睡眠を得るためには、就寝前に内臓や脳などの体の内側の深部体温を上昇させた後に、急激に低下させる必要があります。通常、就寝のおよそ3時間前から深部体温は下がり始めるのですが、デスクワークなどで日中あまり動いていないと、体温が高くならないので深部体温も下がりづらくなってしまいます。入浴することで一時的に深部体温を上昇させ、就寝前にベストな深部体温の状態を作り出すことができるのです。また、入浴すると副交感神経が優位になるので、途中で起きてしまうことを防ぐ効果もあります。
では、眠りの質を高める入浴から就寝までの具体的な手順を説明していきましょう。
①起床時刻から入浴の時刻を決める
ベストな睡眠時間は、個人差がありますが、様々な研究を考慮すると、6時間半から8時間未満です。ただし、加齢と共に必要な睡眠時間は短くなっていきますので、だいたい6時間半から7時間はとることができれば良いですね。それを目安に、日の出時刻から大きく外れない時間に起床時刻を設定しましょう。同時に就寝時刻が決まるので、その1時間前にはお風呂から上がれるようにします。②頭を洗った後に、湯船に入る
頭皮表面の血管を拡張することで湯船に入ったときの血圧の急上昇を防ぐことができるため、最初に頭を洗いましょう。湯船の温度は38度~40度に設定し、温度が下がらないようお湯を溜めるときはフタを閉めるのがポイントです。③正しい位置に頭を置いて、首まで湯につかる
首と浴槽の間に隙間ができないように、浴槽の淵に頭を置きます。隙間ができてしまう場合は、タオルなどを挟んで隙間ができないようにしましょう。お尻を少し前へずらして体を斜めにして、そのまま体の力を抜いて首の付け根までお湯につかります。④湯船で一つのことに意識を集中させる
呼吸や空気の温度、入浴剤の香りなど、何でも良いので一つのことに意識を集中させましょう。現代人は日常的にたくさんのことを考えすぎています。だから、お風呂では一つに絞る。そうすると、自分と向き合うことができて心がスッキリするので、そのまま眠ると朝も気持ち良く起きることができます。この入浴法は私が編み出したもので、「マインドフルネス入浴法」と呼んでいます。⑤気持ち良く就寝するための準備をする
お風呂から上がったら、30分程度で髪を乾かしたり、スキンケアを完了させます。15分ほど読書など好きなことをした後、寝る前の15分は交感神経を低下させるためのリラックスタイムとします。私はこの時間を「うっとりタイム」と呼んでいます。自分が「うっとりする」と感じることを実践してみましょう。私のおすすめは、「最高」や「リラックス」などポジティブな言葉とともに大きく息を吐く、ピローミストやボディオイルなどでアロマの香りを楽しむこと。スマホを見たくなる人もいるかもしれませんが、お風呂から上がったらブルーライトは厳禁です。そもそも見たいと思わないくらい、お風呂や寝る前のケアで、心も脳もホロホロにリラックスできるような行動をとることが大切です。
夏場も工夫次第で快適なバスタイムに!
これから暑くなってくると、湯船につかるのが億劫になる人も多いでしょう。そんな時は、ミントやハッカ、さらに炭酸ガスの入った入浴剤を入れてみてください。体感温度が下がるので気持ち良くお湯につかることができ、なおかつしっかりと温まることができます。梅雨時期は水質が悪くなる地域があり、塩素濃度が高くなっていることがあるのですが、入浴剤は塩素除去の効果もあります。湯船の汚れを吸着してきれいにする作用があり、温熱性を上げることができるので、入浴剤ではなく竹炭を入れても良いでしょう。
入浴時に換気扇をつける夏場に試してほしいのが、キャンドル。香りを楽しんだり、お湯に浮かべて光の動きを眺めていると、とてもリラックスできます。ソイや蜜蝋など、天然素材でつくられているものがおすすめです。
普段シャワーだけで済ませている人は、こんな風に時間をかけて入浴するのは面倒に感じるかもしれません。しかし、正しい入浴方法を習慣化し、睡眠の質を改善することで、健康寿命が大きく伸びる可能性があるのです。自分が今まで体感していなかった寝起きの良さや体の軽さを一度体験し、「いいな」と思うことができれば自然と続けていくことができます。楽しく健康なシニアを目指している人は、ぜひ今日から試してみてください。

お話を聞いたのは●小林麻利子さん
こばやし・まりこ/SleepLIVE株式会社代表取締役社長。公認心理師。日本睡眠改善協議会認定睡眠改善インストラクター。科学的根拠のある最新データや研究を基に、睡眠や入浴を中心とした生活に合った無理のない実践的な指導が人気を呼び、これまでに3,000名以上の悩みを解決してきた。睡眠研究所を立ち上げ、睡眠研究も行っている。『「わたし」と向き合う1日10分のお風呂習慣 小林式マインドフルネス入浴法』(エムディエムコーポレーション)をはじめとする多くの書籍を出版し、テレビや雑誌などのメディアでも活躍中。