祭祀主宰者の動きが引き金に
明石さんが相談を受けるうえで、お墓トラブルで多いのは主に2つ。まずは、相談なくお墓を移動(墓じまい)された/した、としてもめるパターンだ。
「以前の記事でもお伝えしましたが、墓じまいは、お墓を継ぐ人がいない場合に別の形で供養するものです。お墓は相続財産ではないので、継ぐのは祭祀主宰者の子どもに限らず、親戚でも構いません。それを知らずに継ぐ子がいないからと、現在の主宰者が自分だけで判断して、行動してしまうことがあります。何も知らされていなかった他の親戚からすると“勝手に移動された”と感じかねず、トラブルの原因になるのです」
一方で、主宰者がお墓を放置したまま墓じまいをしてくれない、といった事例も少なくない。
「たとえば、主宰者であるお兄さんが何もしてくれないと困っている方もいます。原則として墓じまいは主宰者しかできないため、それ以外の親戚が対応したくても、協力を得られなければどうしようもありません。逆に、墓じまいしたくとも、経済的な面からできないことへのもどかしさを感じる人がいるのも事実です。実際にお墓の供養方法を変えるには、結構な費用がかかります」
家族葬で親戚を呼ばない人も
トラブルの背景には親戚間の“つながりの希薄さ”があるようだ。近年、親戚が一堂に会する場は減ってきている。明石さんのもとを訪れる相談者にも「親戚と会ったことがない、連絡先を知らない」というケースが意外とあるという。加えて、死に関する考え方の変容も拍車をかけているかもしれないと、明石さんは指摘する。
「葬儀の方法として新たに、家族葬が選択肢に加わりました。本来の家族葬は知っている人だけで見送るもの。しかしネーミングから“家族だけ”で行うもので、親戚には声をかけなくてもいいと解釈する人がいます。加えて“終活”も一般的になり、故人の“葬儀にお金をかけたくない”との意思を尊重するようになりました。結果、葬儀や法要で集まる習慣が減り、親戚で一緒に弔う感覚が薄れる、いわば供養離れが起こっているといえます」
また、親元を離れて暮らしている場合、「自分の故郷でのルール」を知らないと問題になりやすいという。東京と地方では事情がかなり違うもの。インターネットや本は都内近郊住まいの読者を想定して書かれていることが多いため、全てが自分に当てはまるとは考えず、必ずお墓のある地域の情報も入手してほしい。
「たとえば、お墓を自宅の近くに移動できる方法があると知り、良かれと思って手続きしたところで、地元の親戚が納得していなければどうでしょうか。先に述べた“勝手に移動された”などのトラブルにつながってしまうのです。地域の慣習を踏まえ、何よりも自分だけでなく“お参りしたい人の気持ち”に寄り添うこと。供養に対する考え方は人によって違うので、お墓に関わる親戚とはしっかりとコミュニケーションをとり、極力双方ともに気持ちよく供養できる方法を探すべきでしょう」
気持ちのよい供養のために今からできること
墓じまいを考えるとき、最大のポイントは「親戚の合意」を得ることになりそうだ。しかし昔ほど親戚同士の付き合いが多くない現在。いざというときに困らないための秘訣はあるのか。
「最もスムーズなのは、今後のお墓の管理について、現在の祭祀主宰者から親戚に伝えてもらうことです。世代が若いほど親戚付き合いは希薄。なるべく親の代で話をつけてもらえるよう、事前に話ができるといいでしょう」
また、親戚の連絡先を把握することも大切。早めに親から親戚関係の連絡先を聞いておいたり、何かあったときのために親のスマホを見られるようにしておくといいだろう。そのうえで「葬儀の際、親戚には必ず声はかけてほしい」と明石さん。
「お墓を管理するうえで連絡を取らなければならない関係性であれば、葬儀には呼ぶこと。葬儀の場であればお墓の相談もしやすいでしょう。もし連絡先がわからない親戚がいれば、参列者に聞いたり、伝言をお願いすることもできます」
お墓は自分たちだけのものではない。普段の交流がなくとも、関係者の意思を無視するのはタブーだ。大切な人を供養したい気持ちがあるのであれば、嫌な思いをしないための準備が必要。お墓に関わる人たちの合意を得るためには、事前に「連絡先の把握」と「地域の慣習を知る」。最低限、この2つは心がけたうえで備えたいものだ。
お話を聞いたのは●明石 久美さん
あかし・ひさみ/相続・終活コンサルタント、行政書士、明石行政書士事務所代表。相続業務に携わって16年。相続専門の行政書士として、おひとりさま対策、遺言書作成、家族信託契約書作成、相続手続きなどを行う。「終活」が話題になる前から、複雑に絡み合う「老い支度・終活・相続」の研修やセミナーを全国で実施し、新聞、テレビなど各種メディアでも活躍。著書に『読んで使えるあなたのエンディングノート』(水王舎)、『子どもがいない人の 生前の備えと手続き』(メイツ出版)他多数。
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