ライフデザイン

先祖のお墓はどうする?「墓じまい」を考えたら知っておきたいこと

お墓の管理を任せる人がいない、距離や立地的にお参りをするのがむずかしいといった問題に悩む人は少なくない。そこで近年、注目を集めているのが「墓じまい」。どのタイミングで決断し、どんなプロセスが必要となるのか。墓じまいを考える当事者、あるいは親からどのように継ぐのかを悩む人が知っておきたいポイントを、相続・終活コンサルタントの明石久美さんに伺った。

お墓を継ぐ人がいないと、撤去されることも

墓じまいは、厳密に表すと「先祖のお墓を継ぐ人(祭祀承継者)がいない場合に、自分(祭祀主宰者)の代で別の形で供養する」ことだ。

「お墓のある土地は、料金(永代使用料)を支払うことで得られる“永代使用権”によって使用ができます。この永代使用権は、跡継ぎとなる祭祀承継者がいない場合には、区画を“更地にして返還する”というルールがあります。ですから、現在のお墓を継ぐ人が見つからない場合には、早めに対応を考える必要があります」(相続・終活コンサルタントの明石久美さん、以下同)

もし適切に対応しなかった場合には、墓地を管理する寺院や自治体などに負担をかけることになり、最終的にお墓を撤去されてしまう可能性もある。明石さんいわく、「要するに、賃貸物件と同じこと」。家を借りる際に契約した後、家賃を支払わず住み続けるのと同じで、お墓も区画を使用する契約をした後、年間管理料を支払わなければならない。お墓の場合は、年間管理料を支払う責任のある祭祀主宰者がいないまま利用することはルール違反だ。よって支払いなどの管理を引き継ぐ、祭祀継承者が必要となる。

ここで気をつけたいのが“祭祀承継者”の考え方。お墓や位牌、仏壇などの祭祀財産は“相続財産”ではない。そのため、継ぐのは必ずしも自身の子でなくてもいいという。

「よく、“うちは娘2人が家を出てしまったから継ぐ人がいない”と墓じまいを考える方がいますが、もしお墓の近くに住んでいたり、管理をしたりできるような親族が居れば、彼らにお願いできます」

承継者の決め方は地域によってさまざまだ。口頭指名や遺言書、慣習に則ることがいいが、スムーズに決まらない場合は家庭裁判所の調停や審判によって決めることになる。また祭祀主宰者の死後、他の手続きと一緒に決めることが一般的だが、生前に話すこともできる。主宰者が代わるとお墓の契約名義の変更など手続きがあるため、承継できる場合は早めに決めておくに越したことはない。また、跡継ぎはいても何らかの理由でお墓を別の場所に移したい場合も、墓じまいを考えることになるだろう。

“お参りしたい”人の気持ちを汲んで選びたい、墓じまいの3つの方法

墓じまいは、大きく分けると3つの方法が考えられる。

  1. 親族に祭祀承継者を依頼

    これは、お墓を維持できるため厳密には「墓じまい」ではないが、お墓の管理を自分の子以外の親族にバトンタッチする方法。

    「自分の家族内で承継を任せられないケースでは、管理できる親族を探すことが第一です。その上で誰も継ぐ人がいないとわかった時に初めて墓じまいを考えてください」

    継いだ人(祭祀主宰者)は、年間管理料の支払いや管理者との連絡の窓口、場合によっては年季法要の手配など、多少の負担がある。その点を事前に説明し、納得してもらった上で引き受けられる人がいればお願いするのがいいだろう。

  2. 永代供養

    永代供養とは、遺骨を寺院や霊園など、墓地の管理者に管理・供養を任せるもの。基本的に宗派は問われず、祭祀承継者がいなくてもよい墓のため、近年選ぶ人が増えている。これまでのお墓と同じ敷地内であれば、墓地管理者は変わらず場所も近く、負担は少ないといえる。しかし、「①親族に祭祀継承者を依頼」のようにお墓を継続するわけではないため、今までのお墓から永代供養のお墓に移す必要がある。

    永代供養で気をつけたいのが遺骨の供養期間だ。「永代」とはいえ無期限ではなく、期限が切れた後は合祀となる。合祀となった後も供養はしてもらえるのが一般的ではあるが、一度合祀すると遺骨は取り出せないので、期間も含めて慎重に検討する必要がある。また、親の永代供養だけでなく、自分もそのお墓に入る可能性がある場合は、それを加味した期間・納骨可能な人数で検討すること。永代供養のお墓を選ぶ際には、自身の死後のことまで考えるようにしよう。

  3. 遠い(お墓の管理者が変わる)場所への改葬

    元のお墓から遠方に移る、あるいは管理者が変わる場合は多少手続きが増える。遺骨を移動するためには、「改葬許可証」を取得する必要がある。

    具体的には、
    ①元のお墓(A)から新しい場所へ移すための「改葬許可申請書」を手配。
    →今あるお墓(A)の自治体の窓口やオンラインで書類を取得する。

    ②遺骨の身分を証明する「埋蔵証明書」を手配。
    →お墓の管理者にお願いする。

    ③移転先を証明する「受入証明書」を手配。
    →移転先のお墓(B)の管理者から取得する(元のお墓(A)がある自治体によっては、改葬手続きの際に受入証明書が不要なケースもある)。

    ④「改葬許可」の申請。
    →①~③を今あるお墓(A)の自治体へ提出し、「改葬許可証」を取得する。

    ⑤遺骨を移転
    →改葬許可証を新しいお墓(B)へ提出し納骨する。
簡単そうだという理由で散骨や手元供養を選ぶ人もいるが、これらも元の墓地から遺骨を取り出すための手続きや作業は不可欠。どの手段にしても「お参りしたいと思っている人が、お参りできる環境を継続することが大切」と明石さん。

「もし親族との間で意見が異なる場合、多少費用はかかりますが分骨する手法もあります」

スムーズに墓じまいするための、親族・寺院との付き合い方

墓じまいで注意したいのが、お墓は相続財産ではないこと。祭祀財産をどうするのかは祭祀承継者が決めてよいものではあるが、「お墓はお参りしたい人のためのもの」でもあるため、自分=祭祀主宰(承継)者だけの財産や所有物という扱いは避けたい。そこで明石さんが最も気を遣うべきこととして挙げるのが「親族の合意」だ。

「親族に承継をお願いする場合は当然ですが、移転するお墓の場所(地域)も必ず事前に親族の意向を確認した上で進めてください。自分だけの都合で決めるのではなく、“お参りしたい人”の気持ちを無視しないことが大切です」
 
しっかりと親族の合意が得られたら、次にすべきはこれまでお世話になった寺院などへの申し出だ。できればメールや電話、代行サービスなどを使わず、自身で足を運ぶこと。これまでの感謝の意を伝え、事情を話して納得してもらうのがスムーズに進ませるコツだ。

また、遺骨を取り出す作業はその土地の石材店にお願いすることになる上、新たに離れた場所にお墓を設ける際には、別の石材店に頼まなくてはならない。新しくお墓を設けたものの、寺院等墓地管理者の許可が得られない場合には、そのお墓が無駄になってしまう可能性もある。その点を踏まえると、別の場所への改葬を考えている際、「お墓を買う」のは「寺院などの許可を得てから」が無難だそう。

「寺院と友好な関係が築けなければ、石材店との関係にも影響しかねません。実際に、お墓を購入した後でお寺とのトラブルで移せなかったケースもあります。お墓は一度買ってしまうと原則転売できず、返却もできません。ある程度目処をつけながらも購入するのは現在の寺院に許可をもらってからの方が安心です」

また、散骨や手元供養などの場合、人によっては「供養する場所がない、薄れる」と感じる人がいるのも事実だ。やはり親族を含め、お参りしたい人の意見を取り入れた上で各自が納得できる供養方法を選ぶのが最善だろう。

セカンドライフを豊かにする住み替え・生前整理のポイント

“家を売る理由”別、スムーズな売却のためのススメ

お話を聞いたのは●明石久美さん

あかし・ひさみ/相続・終活コンサルタント、行政書士、明石行政書士事務所代表。相続業務に携わって16年。相続専門の行政書士として、おひとりさま対策、遺言書作成、家族信託契約書作成、相続手続きなどを行う。「終活」が話題になる前から、複雑に絡み合う「老い支度・終活・相続」の研修やセミナーを全国で実施し、新聞、テレビなど各種メディアでも活躍。著書に『障がいのある子が「親亡き後」に困らないために今できること』(PHP研究所)、『読んで使えるあなたのエンディングノート』(水王舎)他多数。
相続・終活・老い支度相談所