スムーズに売却するための先行投資
部屋の第一印象は、想像以上に内見者の購入意欲に影響を与えます。印象が悪ければ当然、売れにくくなります。物件を売却しようと考えたら、多少でもきれいに見えるよう整えることから始めましょう。
「もう住まない物件にお金をかけるなんて…」と思うかもしれません。しかし、簡単なリフォームであれば数万円から数十万円で可能です。スムーズに希望価格で売却できる可能性と、売却までに時間がかかって費用がふくらむリスク、さらに内見者が「自分で修繕する箇所が多い」と感じた場合に大幅な値下げ交渉をされる可能性を考えると、リフォームは先行投資ともいえるでしょう。
ただし、業者に売却するケースや、築浅で傷みが目立たない場合、逆に手がつけられないほどダメージがひどい場合は例外です。
まず検討したいのは、壁や天井のクロス
本格的なリフォームは必要ありません。内見者の好みに合わなければ、かえってネックとなり、費用も無駄になります。万人受けする程度のシンプルで簡易なリフォームにとどめ、売却後に回収できる金額内に収めましょう。
ある程度の経年劣化が見られる物件の場合、まず検討したいのは壁や天井のクロスです。1平米あたり約1,000円程度、高価なものでも1平米あたり約1,500円~1,800円で張り替えられることが多いです。少なくともリビングやベッドルーム、キッチン等は交換し、ほかにもトイレ、洗面所、玄関ホール、廊下、収納や、落書きや照明器具跡などで汚れが目立つ場所も新調を検討するとよいでしょう。
基本的に壁は白などのベーシックな色合いがおすすめですが、必ずしも真っ白である必要はありません。ある程度の広さの部屋であれば、落ち着いた高級感のあるアイボリー系の色味のほうが好まれる場合もあります。
また、キッチンや洗面所などのクッションフロア仕様の床は、比較的安価で張り替えが可能なので、できれば交換しましょう。クロスと一緒に対応してくれる業者もあります。一方、フローリングの張り替えは費用がかさむため、基本はクリーニングで十分です。あまりにも目立つ傷はリペア(補修)し、軽微なものは契約前に作成する報告書などで業者や購入希望者に伝えてください。
リフォームすべきかどうかの見極めは難しいですが、「築年数」や「見た目」に加え、「立地」も指標になります。需要が高く売れやすいエリアであれば、適度なリフォームで十分な場合もあります。いずれにせよ、私の経験上、最低限のハウスクリーニングだけは専門業者に依頼することをおすすめします。

においや照明、室内温度も第一印象に影響
においなどの目に見えないものや光も、第一印象に大きく影響します。特に重要なのは、玄関からバルコニーまでの動線です。和室なら畳の表替えをするだけで、見た目も香りもリフレッシュできます。玄関から見える正面の窓には、レースのカーテンだけでも取り付けておきましょう。照明も重要なポイントで、たとえば冬場は寒々しい青白い電球は避け、温かみのある照明や間接照明を配置すると効果的です。
室内をおしゃれなインテリアでコーディネートする「ホームステージング」も有効です。一般的には退去後の空室に演出用の家具などを設置しますが、中古物件流通の多いアメリカではよく行われており、日本にも専門業者が存在します。とはいえ、簡単なホームステージングなら自分でも可能です。観葉植物を置く、花を飾る、キッチンに見栄えのよいワインやオリーブオイルなどを並べるだけでも、「素敵だな」「自分も住みたいな」と思わせる効果があります。
見落とされがちですが、室内温度も印象を左右します。リフォームやホームステージングにいくら費用をかけても、室温が寒すぎたり暑すぎたりすれば、マイナスの印象を与えかねません。内見時には適温を保つよう心がけましょう。
- 本記事の内容は2025年8月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●後藤一仁さん
ごとう・かずひと/不動産コンサルタント、株式会社フェスタコーポレーション代表取締役社長。1965年神奈川県生まれ。大手不動産会社のハウジングアドバイザー、東証一部上場企業連結不動産会社の取締役を経て、2002年に株式会社フェスタコーポレーションを立ち上げ、代表取締役に就任。「不動産を通じて、世の中の一人でも多くの人を幸せにすること」をミッションに掲げ、専門家として、テレビ、雑誌、書籍、ウェブなどあらゆるメディアで活躍中。主な著書に『マンションを買うなら60㎡にしなさい』(ダイヤモンド社)、『中古マンション これからの買い方・売り方』(日本実業出版社)。
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