毎月の支払いは利息のみで元金は据置き
民間金融機関と提携し、固定金利型住宅ローン「フラット35」を提供している住宅金融支援機構では、原則60歳以上の方を対象としたリバースモーゲージ型住宅ローン「リ・バース60」を実施しています。
最大の特徴は、毎月の支払いが利息のみで済む点です。これにより、毎月の負担が大幅に軽減されます。
たとえば、通常の「フラット35」で3,000万円を金利2.0%、35年元利均等・ボーナス返済なしで借りた場合、毎月の返済額は9万9,378円と10万円近くになりますが、「リ・バース60」では利息のみの支払いであれば5万円で済みます。これなら年金収入だけでも十分返済可能ではないでしょうか。
元金は相続人が一括返済するのが原則
では、据え置かれた元金はどうなるのでしょうか。それは「リ・バース60」の利用者が亡くなったときに、相続人が自己資金などで一括返済するか、「リ・バース60」利用時に担保として提供した住宅を売却して返済することになります。
住宅価格が上昇していれば、売却により元金を返済しても資金が手元に残りますが、価格が下落していた場合は、値下がり分を相続人が補填しなければならない可能性もあります。
そのため、父親などが「リ・バース60」の利用を希望しても、相続人である子どもが反対し、利用が進まないこともありました。2016年度の利用者はわずか16件にとどまっていました。
ノンリコース型なら売却価格以上の負担なし
そこで住宅金融支援機構は、2017年度から「ノンリコース型」を導入しました。ノンリコースとは、売却代金がローンの元金に満たない場合でも、不足分の返済を免除される制度です。
相続人である子どもへの負担がなくなるため、反対するケースが減少し、グラフにあるように「リ・バース60」の利用は飛躍的に増加しました。
ノンリコース型は金利がやや高くなりますが、支払いは利息のみのため、大きな負担にはなりません。現在では、利用者のほとんどがノンリコース型を選択しています。
2024年度の利用は1,484戸で、2023年度の1,626戸からは8.7%の減少です。ただし、住宅着工戸数の減少にともない住宅ローン利用も減っているなかで、この程度の減少にとどまっているのは注目すべき点でしょう。
利用者の23.9%が戸建てリフォームに活用
「リ・バース60」は住宅購入に限らず、さまざまな用途に活用できます。一覧表にあるように、資金の使途で最も多いのは「注文住宅」(32.5%)ですが、次いで多いのが「戸建リフォーム」(23.9%)で、以下「新築マンション」(17.3%)と続きます。
60代などの年配者のなかには、30〜40代の若い頃に購入した住まいが老朽化し、困っている方も多いでしょう。
たとえば、階段の上り下りがつらい、敷居の段差につまずきやすいのでバリアフリーリフォームをしたい、子どもが独立して間取り変更したい、地震対策として耐震補強をしたい、省エネ性能を高めたいといったニーズが増えています。また、設備の老朽化に伴い、最新設備への更新を希望する方も多くいます。
「リ・バース60」の毎月支払額の平均は4.2万円
こうした不満を解消するには、建て替えや新築・中古住宅への買い替えが理想的かもしれませんが、年齢や予算を考えると、現在の住まいのリフォームが現実的な選択肢となるでしょう。場合によっては、壁などを取り払ってスケルトン状態にしてからリノベーションするという手法もあります。
リノベーション技術も進歩しているので、一定の予算をかければ、最新の新築住宅にも見劣りしない住まいにすることができます。建て替えや買い替えではなく、長年住み慣れた愛着のある住まいに住み続けられる安心感もあります。
なお、住宅金融支援機構による「リ・バース60」利用実態の公表によれば、住宅購入やリフォームにかかった費用の総額は3,137万円で、そのうち1,667万円を「リ・バース60」で調達。毎月の支払額の平均は4.2万円とのことです。これなら、年金生活でも十分に対応可能ではないでしょうか。

利用者の平均年齢は69.5歳、平均年収は403万円
実際、申込者の平均年齢は69.5歳、平均年収は403万円です。リタイア後の年金生活者であっても、住宅の買い替えやリフォーム、リノベーションを実施しています。
60代だからといって諦める必要はありません。「リ・バース60」なら、建て替えや買い替えだけでなく、リフォームやリノベーションも可能です。もしご両親が住まいのことで悩んでいるようであれば、子世代から「リ・バース60」の活用を提案してみてはいかがでしょうか。
- 本記事の内容は2025年7月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。
お話を聞いたのは●山下和之さん(住宅ジャーナリスト)
やました・かずゆき/1952年生まれ。住宅・不動産分野で新聞・雑誌・単行本などの取材・原稿制作、各種講演、メディア出演などを行う。『住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)、『はじめてのマンション購入成功させる完全ガイド』(講談社ムック)などの著書がある。
http://yoiie1.sblo.jp/