なぜ、老後にリフォームが必要なのか?
マンションにおいて自分でリフォームができるのは自分の部屋の中(専有部分)のみです。建物の廊下などの共用部分はマンションの管理組合が管理します。共用部分の修繕に備え、修繕積立金を毎月支払います。
自分の部屋の給湯器が壊れたり、壁に穴が空いてしまい補修する、といった数万円~数十万円程度の費用がかかる修繕はそれほど珍しいことではありません。こうした補修費用の捻出も頭の痛いところですが、今回考えたいのは、こうした補修を超えた大規模なリフォームについてです。こうした大きなリフォームは次の3つのパターンが多く、退職した後に必要になりやすいのが特徴です。
(1)家族の形が変化することによる間取り変更
近年、マンションを購入する単身の方も増えていますが、結婚、子どもの誕生、子どもの進学といった家族のライフイベントを機に購入する家族層は依然として多いです。長く住み続けるうちに、子どもの独立、離婚、死別といったイベントを経て、住む家族の人数が減っていくことが多くなります。
家族が多い時期は多くの部屋数が必要だったかもしれません。でも、夫婦または単身で住むとなれば、部屋数はそれほど必要なく、広々とゆったり暮らしたいというニーズが高まります。その場合、3LDK・4LDKから2LDK・1LDKへと部屋数を減らすリフォームを行うことになるでしょう。
また、畳の間から洋間へ、逆に洋間から畳の間へ、キッチンをオープンキッチンにする、といったものも間取り変更の一種です。リフォーム費用はグレードや変更内容によって異なりますが、200万〜800万円程度かかるのが一般的です。
(2)水回り設備の老朽化によるリフォーム
住んでから20~30年も経つとキッチン、お風呂、トイレといった水回り設備の老朽化が目立つようになります。こうした設備は生活の中で毎日使うため、劣化が進むと生活の快適さが損なわれやすくなります。新しい設備に交換すると、新築の部屋のように気持ちよく過ごせるだけでなく、利便性も向上します。リフォームの費用は設備のグレードにより大きく異なりますが、キッチンだけで60万~150万円、トイレで20万~80万円、お風呂で50万~150万円程度が目安です。オープンキッチンに変更するなど間取りの変更も伴うと、300万~500万円かかるケースも少なくありません。
(3)介護対応のためのリフォーム
マンションであればエレベーターがあり、段差も少なく、高齢者でも生活しやすい構造になっていることが多いはずです。それでも介護が必要になると、部屋の各所に手すりの設置、段差の解消、車いす対応の廊下の拡張などが必要になることがあります。
介護の程度や状態によって必要なリフォームは異なります。実際に介護が必要になった際には、公的介護保険や自治体からの補助金を活用できる場合があります。元気なうちに介護リフォームを行うと不要に終わるケースも多いため、慎重な判断が求められます。

どうやって、リフォームに必要な資金を準備するか?
では、リフォーム費用をどのように準備すればよいのでしょうか。現金で捻出できない場合は、住宅ローンを借りている銀行で追加融資を受けたり、無担保のリフォームローンを追加で借りる方法があります。
また、住宅ローンの残債とリフォーム費用をまとめて、他の銀行で借り換えるという方法もあります。ただし、いずれも審査が必要で、高齢になり収入が少なくなると、審査を通るのはかなり難易度が高いと言わざるを得ません。そのため、老後のリフォーム費用はできる限り現金で用意できるように計画したいところです。
大企業や公的機関に勤めている方であれば、退職時にまとまった退職金が受け取れることでしょう。退職金や老後資金からリフォーム費用を充てるのも一つの手段ですが、老後の生活費とは別にリフォーム資金を確保しておきたいところです。
20~30年後を見越してリフォーム資金の積立を
老後のリフォームはマンション購入時から考えると、20~30年間のスパンで考えることが一般的です。そこで、リフォーム資金の積み立てを検討しましょう。たとえば、月1万円ずつ積み立てれば、20年で240万円、30年で360万円の資金を準備ができます。これだけでは不足すると感じるかもしれませんが、老後まで時間がある分、運用の力を借りることが可能です。
たとえば、外国株25%、日本株25%、外国債券25%、日本債券25%と4種類の資産を均等に組み込んだ投資信託に、月1万円ずつ30年間積み立てた場合(投資元本360万円)、50%の実現確率で940万円以上、90%の確率でも555万円以上になると推定されます(生活デザイン試算)。
積立期間が30年あれば元本割れの確率も1.3%程度に抑えられます。どれだけ増えるかによって、可能なリフォームの範囲も変わりますが、ここまで準備できればある程度の対応が可能でしょう。老後も快適にマイホームで暮らすために、早めにリフォーム資金の積立を始めましょう。
- 本記事の内容は2025年6月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●藤川 太さん
ふじかわ・ふとし/ファイナンシャルプランナー CFP認定者、宅地建物取引士。慶応義塾大学大学院理工学研究科修了後、自動車会社にて燃料電池自動車の研究開発に従事。
1998年にファイナンシャル・プランナーとして独立。家計の個人相談の普及を目指し、2001年に「家計の見直し相談センター」を設立。著書に『世界一かんたんなNISAとiDeCoの得する教科書』(宝島社)、『新NISAバブルに気をつけろ! 』(プレジデント社)など多数。