理想の住まいの選び方

教えて、間取り先生!子育て世代、マンション選びの落とし穴

マンション選びにおいて、立地や資産価値、管理組合の見極め方などが大切なことは言うまでもありません。とくに子育て世代の選び方では、プラスで注意したい点があります。数々の住宅や店舗の設計を手がける「間取り先生」こと、上田康允さんに見落としやすいチェックポイントを教えていただきました。

子育て世代の注意ポイントは「DNKS」と覚えよう

上田さんが理想的な間取りの条件として挙げる4つのポイントは「動線(D)」「日照(N)」「風通し(K)」「騒音(S)」のDNKS(ディンクス)だ。生活に影響を与えるこれらを軸に考えると、暮らしやすさは変わるという。しかし子育て世代となると多少状況は異なる。DNKSの観点から注意したい点を見てみよう。

動線(D)は急な事態も考慮して

子育て世代のマンション選びの際に、上田さんがもっとも重要とするのは「動線(D)を短くすること」。駐車場まで含めた動線を考えるのがポイントだ。

 

「出かけるときに、部屋を出てからエレベーターが来るのを待って乗って、駐車場まで……と、距離が遠いと単身でも大変ですよね。それがお子さんと一緒となると労力は2〜3倍にもなります。たとえばお子さんが病気など、急いで出かけなければならないケースもあるでしょう。階段でも移動できるような、外出しやすい動線の物件を選ぶことをおすすめします」

室内でも動線は大切。料理や家事をする人にとって、キッチンやお風呂、洗濯場の水回りを考えた際、ストレスなく動ける間取りを選ぶといいだろう。


生活リズムに合わせて日照(N)対策を

もっとも理想的な窓の方角は南。日光が横から入らないため、明るさは保ちながらも直接的に日差しが部屋に入らないからだ。一方で、意外な盲点は東西だそう。

「生活スタイルによっては不便を感じる人がいるかもしれません。東西向きの窓の場合、早朝と夕方の日差しが低めの位置からダイレクトに入り、室温が高くなります。特に寝室の窓が東向きだと、早朝の光が差し込んで、理想的な起床時間よりも早く目が覚めてしまうことも。北向きは光が入りにくいのですが、自律神経が整い、落ち着いて過ごしやすいともいえます」

日常生活に影響を与えかねない日当たり。睡眠や学習時間など、子ども部屋を考える際のヒントになるかもしれない。


理想は部屋の空気を入れ替える風通し(K)

風通しがいい部屋であれば、風が吹くだけで「換気扇を数時間稼働した分の空気を数秒で入れ替えることができる」(上田さん)。風が通るには対面に窓があるのが理想だが、マンションではむずかしいかもしれない。しかし快適に暮らすには大切な要素。一般的に乳幼児は大人よりも体温が高いため、温度や湿度管理は気をつけたい点だろう。DNKSの中での優先度は低いものの、現地に行ったら確認してほしい。


“人”だけでなく“環境”による騒音(S)をチェック

基本的に住人の騒音は、両隣よりも上下の部屋の音が問題になりがち。

「しかし新築マンションの場合は、事前対策しにくいもの。周囲の部屋の音が伝わりにくい鉄筋コンクリート構造を選ぶといいでしょう」

見落としがちなのが、部屋の給水・排水や、公共機関など環境による音だという。キッチンや風呂場、トイレなど水回りのスペースに隣接した部屋を寝室としたときに気になる人もいる。また、高速道路や鉄道の線路が近い、航空機の飛行ルート下にある物件では、時間を問わず音に悩まされるリスクがあると考えていいだろう。

また、子どもが小さいときは自分の家族が出す音も気になる。しかし騒音に関しては「入居してからでもある程度の対策は可能です」と上田さんは助言する。

「床や壁に防音素材のマットやボードを設置することで、両隣と上下から音を遮断すると同時に、自室から出す音を少なくすることで予防策となります。また、窓を二重にすれば外からの音は軽減できます。ただし、二重窓を取り付けられる構造かは事前に確認が必要です」

上記の点を踏まえて内見時にしっかりとチェックしたい。

同じような広さなら、部屋数は多いほうがいい?

DNKS以外に、子育て世代にとって悩ましい問題のひとつが部屋数ではないだろうか。もし同じ広さだった場合、2LDK、もしくは3部屋以上……どう選ぶべきか。誰にも当てはまる“正解”があるわけではない。上田さんは「その家族の中での住みやすさ」を考えた上で、子育て世代では「予備の部屋」を持つことに意味があると話す。

「もちろん広いほどいいのですが、同じ予算と面積であれば、私は部屋数が多い部屋をおすすめします。というのも、新たにお子さんに恵まれたり、授かるのが双子であったり、テレワークになったり、想定外のことが起こる可能性もあるからです」

間取りだけでなく、広さが足りなくなった際の「収納」も見越しておくといい。

「廊下や部屋の壁など、どこに棚を設置できるかを考えてください。実は10cmも奥行きがあれば、身近な日用品は大抵置くことができます。細かいことですが、そういうスペースがあるかどうかもチェックするといいでしょう」

家族が増えたり、子どもが成長すれば、生活の荷物は増えていくのが当然。少し先を見据えたマンション選びをすることが大切だ。

  • 本記事の内容は掲載時(2024年8月)の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●上田 康允さん

うえだ・やすまさ/建築家。ハウスメーカー・工務店を経て、建築家として独立。「上田康允デザインコラボ」建築設計事務所の代表として、全国各地で住宅や店舗の設計監理を手がける。「一般社団法人 日本間取り協会」代表理事も務めており、「間取り先生」の愛称で、メディア出演や講演活動を行っている。著書に『「間取り」にこだわれば「いい家」になる!』(ナツメ社)ほか。
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