理想の住まいの選び方

大規模マンションの最新事情!共用施設のスゴい進化

大規模マンションの魅力の一つに「共用施設」がある。最近は維持費用のかかる施設は敬遠され、手間とお金がかからない施設が充実しているという。ベテランの住宅評論家・櫻井幸雄さんが最新事情を解説する。

200戸超の規模になれば、施設・サービスを充実できる

マンションは建物の高さにより「低層」「中高層」「超高層」に分類される。どのタイプがよいか、は人によって変わる。が、「どれでもよい」という人は少なく、たいていは「低層がいいな」とか「超高層に憧れる」というように好みがはっきりするものだ。

もうひとつ、建物の戸数規模によって分類する方法もあり、「小規模」「中規模」「大規模」の3つに分けられる。こちらの好みは、高さほどはっきりしていない。「大規模が好き」とか「小規模に憧れる」という声は少なく、なんとなく「大規模のほうがよさそう」と感じている人が多いように思える。しかし、「小規模」「中規模」「大規模」には明らかな相違点があり、「大規模マンションにはスケールメリットがある」のも事実。マンションで生じる戸数規模による違い、大規模のスケールメリットについて解説したい。

そもそも大規模マンションのスケールメリットとは何だろう。スケールメリットを直訳すれば、「規模の大きさが生み出す利点」となる。が、具体的に、どんな得があるのか、わかりにくい。

それを理解するには、「毎月払う管理費で、どんなサービスが受けられるか」を想像するとよいだろう。たとえば、1戸あたり毎月1万円の管理費を支払っているとしよう。修繕積立金とは別に管理費が毎月1万円だ。その場合、全50戸の小規模であればマンション全体で毎月50万円の管理費が集まる。これで、共用廊下やエントランスの照明・空調、エレベーターなどの電気代、ぞして水道、ガス設備・共用アンテナ設備などの維持費用、点検費用を出す。さらに、管理員を置き、清掃や植栽の手入れを依頼し、警備会社にセキュリティ費用を払う……そのくらいで、50万円は底をついてしまう。

それ以上のサービスは行われないし、管理員が来るのは2日1回数時間ということになりやすい。そのため、「毎月1万円払っているのに、サービスの内容が薄い」という不満が生じやすい。その点、全100戸のマンションは状況が異なる。100戸ならば毎月100万円が集まるので、管理員は平日の昼間に常駐となるし、エントランスホールに空調も稼働させやすい。その結果、「毎月払う管理費に見合うサービスがある」と納得できることになる。

その「100戸」が倍の「200戸」になると、どうだろう。1戸1万円で総戸数200戸ならば、マンション全体で毎月200万円の管理費が集まる。それだけあればいろいろなサービスが可能になるし、共用施設も複数設置しやすい。

たとえば、管理員とは別にコンシェルジュが昼間の時間帯に常駐するケースが出てくる。コンシェルジュがいれば、レンタカーの手配やクリーニングの受け渡し、レンタル用品受け渡しの窓口になってくれる。さらに、夜間・休日も警備員が常駐する「24時間有人管理」を採用しやすくなる。

共用施設としては、キッチン付きのパーティルームで子供の誕生日会を開けたり、「スタディルーム」とか「ワークラウンジ」といったスペースで仕事や勉強をできるケースも。住み心地が格段によくなるわけだ。じつは、一般的に「大規模」と呼ばれるマンションの基準も、だいたい200戸くらい。200戸を超えるような規模であれば、共用施設、サービスを充実させることが可能になる。そのことを知った不動産会社各社が、「だいたい200戸以上」で大規模の線引きをしたためと考えられる。

最新の大規模マンションで人気の共用施設とは?

大規模マンションであれば、共用の施設、サービスが充実する。しかしながら、その内容は変化している。昭和から平成にかけての時代、ホテル並みに施設充実のマンションが存在した。プール付きや屋上温水風呂付き(ジェット噴流付き)……そして、住民で共用するクルーザー(レンタルだった)を備えた大規模マンションまであった。

しかし、今は利用する人が限られ、維持費用のかかる施設は敬遠されている。より多くの人が必要とし、維持していくための手間とお金がかからない施設だけを充実させるのが今のやり方だ。その結果、最新の大規模マンションに採用される共用施設は、以前には考えられなかったものがある。その一例を紹介したい。


●マンション内保育施設

マンションの建物内に保育園用のスペースをつくり、保育園を運営する会社に貸し出すものだ。マンション管理組合が直接運営するのではないため、手間がかからない。


●コインランドリー

布団も洗える大型のコンランドリーの機械を置き、利用者はその都度料金を払って使用する。家庭内で洗いにくい布団類や洗濯・乾燥を早く仕上げたいときに重宝されている。


●屋内の専用自転車置き場

従来の自転車置き場は屋外で小さな屋根付きとなるケースが多かった。それに対し、地下スペースなど建物内に自転車置き場を設ける。これで、雨に濡れることがなくなり、盗難の心配も減る。さらに、1住戸の1スペースを割り当て、家族の自転車をまとめて置ける「サイクルポート」方式にして、自転車置き場でのトラブルを減らす工夫もある。それとは別に、鍵付きの専用自転車置き場を設け、高級自転車を安心して保管できるようにした大規模マンションもある。

以上のほか、大規模マンションの一画にコンビニエンスストアやスーパーマーケットを誘致するケースもある。コンビニやスーパーマーケットまで屋根付きの通路、もしくは地下通路で行くことができ、コンビニ・スーパー内にATMを設置するケースも……。うらやましいと思う人が多いだろう。

買い物の利便性を高めるため、ネットスーパー各社と提携し、不在時に届いた食材を冷暗保管する食配ステーションを各階に設置した大規模マンションの例もある。

大規模マンションは今ここまで進化しており、子育て世帯、共働き世帯、シニア世代など幅広い層に喜ばれているのである。


※本記事は2024年5月時点での情報です。


お話を聞いたのは●櫻井幸雄さん(住宅評論家)

さくらい・ゆきお/住宅評論家。人生相談家。1954年生まれ。2000年から住宅評論家としての活動をスタート。年間200物件以上の取材を行う現場主義で、首都圏だけでなく、近畿圏、中部圏、福岡、札幌など全国主要都市部の住宅事情に精通する。住宅評論の第一人者として、新聞、テレビ、雑誌など幅広いメディアで活躍している。Yahoo!ニュース「個人」オーサー。
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