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ほったらかし投資はNG?「新NISA」を使う前に知っておきたいこと

一度購入さえしてしまえば、後は放置でいいといわれることが多いNISAだが、「ほったらかし投資では危険」とファイナンシャル・プランナーの野原亮さんは警鐘を鳴らす。新NISAを上手に活用するためのポイントとは。

新NISAで柔軟な資産運用が可能に!

2024年1月から新NISAが始まりました。そもそもNISAとは、NISA口座内で株や投資信託などの金融商品を運用して得られた利益が非課税になる制度。個人の資産運用を後押しする制度として、2014年1月に誕生しました。

今回、旧NISAから新NISAになったことで大きく変更されたのは次の3つです。

①年間投資可能枠が拡大

旧NISAは、年間投資枠が40万円の「つみたてNISA」と、年間投資枠が120万円の「一般NISA」のどちらか一方しか選択できませんでした。しかし新NISAでは、年間投資枠120万円の「つみたて投資枠」と、240万円の「成長投資枠」の併用が可能に。2つを合計した非課税保有限度額は1,800万円です。

②非課税期間が無期限化

旧NISAでは、非課税で保有できる期間は「つみたてNISA」が最長20年、「一般NISA」で最長5年でした。新NISAでは「つみたて投資枠」「成長投資枠」ともに無期限になりました。

③「非課税枠の再利用」が可能に

旧NISAでは、一度非課税枠を使用すると保有商品を売却しても再利用できませんでした。そのため「非課税枠をムダにしてはいけない」という意識が働き、投資家は売買に消極的に。買ったまま放置する「ほったらかし投資」をする人が少なくありませんでした。新NISAでは保有商品を売却すると翌年に非課税枠が復活します。これにより「まとまったお金が必要なときは現金化」「当初決めた資産配分からブレたときはリバランス(後述)」など、柔軟な運用が可能になりました。

「利益」だけに目が向いていないか?

つまり、新NISAの活用で、最大1,800万円という大金を、生涯にわたり非課税の恩恵を受けながら運用できるということ。さらに、非課税枠の再利用をうまく使えば、累計で1,800万円を超えるお金を運用できる可能性もあるのです。これにより、旧NISAから運用してきた人の中には、「さらに大きな金額をNISAに投じよう」「非課税枠をフル活用し、大きく増やそう」と考える人も多いことでしょう。

しかし、ファイナンシャル・プランナーとして1つ心配していることがあります。それは「利益」だけに目が向いていないか、ということです。

NISAは「利益が非課税になる」制度ですが、いつも利益が出るとは限らないのが運用の世界です。よく言われているように、確かに、長期投資をすれば利益が出やすいかもしれません。ですが、自分が「金融商品を売却し、現金化したい」と思ったタイミングで利益が出ている保証はないのです。直近20年を振り返っても、リーマンショック、東日本大震災、コロナショックと、株価が暴落する局面がしばしばありました。株や投資信託などを多く抱えていると、買った時の価格よりも時価が低い状態にある「含み損」の発生を避けられません。

想像してみてください。もし、定年直前に○○ショックに襲われたら何が起こるでしょう。「老後資金をつくるために運用してきたのに、今売ったら損が出てしまう」「でも手元には現金が残っていない、これからの生活をどうしようか」などと、困るかもしれないのです。

使うことが目的化しては本末転倒!

ファイナンシャル・プランナーとして私がお伝えしたいのは、運用でお金を増やすことも大切ですが、それ以上に、運用で損をするリスクから生活を守ることも大切、ということです。

そこで、新NISAが始まるにあたり、おすすめしたいことが2つあります。

1つは、改めて「人生とお金」の計画を見直すこと。大前提として投資による資産は、儲かる可能性がある一方で損失を被る可能性もあるリスク資産です。したがって仮に損失を出しても耐えられる「余裕資金」でやるべきもの。毎月必ず使う「生活資金」は収入内におさまっている(黒字をキープしている)でしょうか。教育費や病気やケガなど数カ月~数年以内に使う可能性のある「予備資金」は確保しているでしょうか。また、生活資金も予備資金も、現金や債券、保険など、元本割れの心配のいらない安全資産で持つ必要があります。余裕資金は、全資産から生活資金と予備資金を差し引いた金額です。マーケット環境がどうあろうと生活を維持できるよう、投資金額を増やすのは生活資金、予備資金の心配をクリアしてからで遅くはありません。

もう1つは、「リバランス」です。特に「つみたてNISA」では、「ほったらかし投資」をしている人が多くいました。しかし、これは将来の不確実性を高める行為です。マーケット環境がよく、運用残高が上ぶれしていればラッキー、下ぶれしたらアンラッキー。こうした運任せの運用では、計画通りの資産形成とはいきません。そこで、週末や月末、半年後、年末などに口座にログインしたり、ニュースやマーケット環境を見ながら、時折、資産の内訳をメンテナンスすることをリバランスといいます。幸い、新NISAではリバランスがしやすくなりました。

リバランスにはいくつか方法がありますが、もっとも簡単なのは、運用資産の内訳を意識するやり方です。わかりやすい例として、余裕資金から「現金:投資信託=1:1」の割合で積立をしているさなかに株価が上がり、「現金:投資信託=1:2」になったとしましょう。このとき投資信託の一部を売り、「現金:投資信託=1:1」の割合に戻すのがリバランス。こうして現金を増やしつつリスク資産の割合を一定に保つことで、○○ショックなどの「もしも」の事態にも耐えられるのです。リバランスにはこの逆もあります。マーケット環境の悪化で株価が下がると、現金の比率が上がります。このときは現金を使って投資信託を買うことで、元の割合に戻します。

リバランスを含め投資の“テクニック”を覚えるのは、少し先でも結構です。逆説的なお話になりますが、新NISAを活用するためには、いったん新NISAから離れてみるのがいいと、私は思います。なぜなら、新NISAは、自分が思い描く夢や目標を実現するため資産を増やすひとつの手段でしかないからです。新NISAを使うことが目的化し、膨らみすぎたリスク資産が生活を脅かすようでは本末転倒です。新NISAが、みなさんの自分の人生とお金について見直すきっかけになればと願っています。

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お話を聞いたのは●野原 亮さん

のはら・りょう/株式会社ゼロ・ミリオン代表取締役。証券会社営業・株式ディーラー、営業コンサル会社を経てファイナンシャル・プランナーして独立後、ポイント投資で得た資金で法人化。中小企業に向けた確定拠出年金制度の導入サポートを中心に行い、個人向けの資産運用などの相談役としても活躍。FMラジオにレギュラー出演中。主な著書に『1時間でわかるiDeCo 50代から始める安心投資』(技術評論社)、『貯金がなくても資産を増やせる「0円投資」』(日本実業出版社)。最新の監修本に『はじめてのNISA 知識ゼロからの始め方・選び方 新しいNISA完全対応版』(スタンダーズ社)。
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