理想の住まいの選び方

マンションを買う&売るなら築何年が有利?

マンションには売り時、買い時がある。そのタイミングをうまく掴めば、短期間に希望価格で売却でき、購入できるが、タイミングがずれると簡単に売却、購入できなくなってしまう。住宅ジャーナリストの山下和之さんは、その判断の大きな目安になるのが「築26年から30年」だという。その理由とは?

築26年以上に目を向けると、マンション購入への道が開けてくる

中古マンションは築年数によって価格が大きく異なる。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)は、四半期ごとに首都圏中古マンションの築年数帯別の成約件数、成約価格などを調査している。図表1はその2023年7月~9月分のデータだ。

築年数が長くなるごとに成約価格が低下し、ゆるやかな右肩下がりになっている。築21年から25年を意味する「~築25年」までは5,000万円台を維持しているが、築26年から築30年の「~築30年」になると、3,561万円と大きく下落する。それまでは、築年数5年ごとにおよそ500万円前後安くなるのが、ここでは一挙に1,500万円ほど安くなるのだ。

マンション価格の高騰で、簡単には手に入れることができないと諦めかけている人も、「~築30年」に目を向ければ、中古マンション購入への道が大きく開けてくるのではないだろうか。

出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンション・中古戸建住宅地域別・築年数帯別成約状況(2023年7~9月)」
http://www.reins.or.jp/pdf/trend/rt/rt_202310_2.pdf

築30年なら原則的に「新耐震基準」を満たしている

しかし、建築後の経過年数が長くなると、建物や設備が老朽化して、何かと不安が大きいのではないかという懸念が強まりそうだが、その点、「~築30年」なら1993年以降の竣工になるので、原則的に新耐震基準を満たして設計、施工されているので一定の安心感がある。

新耐震基準は、数百年に一度の大規模地震でも建物が倒壊・崩壊しないことが条件とされている。そのため、1995年の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)、2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)でも、火災や津波による被害は別として、新耐震基準を満たす建物はほとんど倒壊・崩壊しなかったといわれている。

「~築30年」のマンションが建設されたのは、築30年が1993年で、築26年のマンションが1997年になる。

図表2にあるように、この時期には首都圏だけで年間8万戸前後発売されていた。競合が激しくなるなかで、分譲各社がマンションの基本性能の向上によって他社との差別化を図ろうとする姿勢が強まり、マンションの基本性能が大幅に上昇したといわれている。

その象徴が階と階を分けるコンクリートの厚さを示す「スラブ厚」。スラブ厚が厚いほど耐久性、耐震性、遮音性などが高まるが、バブル以前は多くのマンションで13センチから15センチ程度だったのが、この時期に18センチから20センチ程度になり、いまでは20センチ以上も少なくない。

出典:不動産経済研究所「全国マンション50年史」

バス・トイレなど居室の各種の設備も充実

スラブ厚が厚くなると同時に、床仕上げはコンクリートに床材を直接張り付ける直張りから、「二重床」「二重天井」が増え、遮音性能の高いマンションが多くなった。設備面でも、ユニットバスの追い焚き機能、シャンプードレッサー、洗浄機能付便座などが登場してきた。

また、「アウトフレーム工法」が登場したのもこの頃。アウトフレーム工法では、梁をバルコニー側に出すので、室内に出っ張りがなくなって、室内の有効面積を増やすことができる。その上、室内からの眺望が広がり、開放的な空間になる。分譲会社の価格抑制のなかでの企業努力が生み出した工法といってもいいかもしれない。

それらの新機軸が価格を抑えたまま実現されてきたのが1990年代。買い手にとってはさまざまな意味でメリットが大きいのが、「~築30年」のマンションなのだ。

「~築30年」は売り手にとってもメリットが大きい

購入希望者からみれば、さまざまなメリットがある「~築30年」だが、売主側にもメリットが大きい。

売却の時期として「~築30年」を逃すと、「築30年~」では、成約価格の平均が大幅にダウンしてしまう。先の図表1にあったように、「~築30年」の成約価格の平均は3,561万円だが、「築30年~」になると、2,397万円に下がるので、3,000万円台で売却できる「~築30年」のうちに売却するのが、少しでも高く売るための条件になる。

「~築30年」になれば、住宅ローンの返済を終えている人が多いだろうし、残っている場合でも残高は減少しているので、売却代金のほとんどを買換えのための資金に充当することができ、買換えの満足度が高まるはずだ。しかも、買い手にとっても築浅物件や新築に比べて格段に買いやすい価格帯なので、短期間で成約しやすいというメリットもある。

売却代金の差が、買い替えの満足度の差になる

売却して8,000万円の物件に買い換えを行う場合、例えば「~築30年」の物件を3,561万円で売却、うち3,500万円を自己資金とすれば、4,500万円のローンで購入できる。買い換えだと年配の人が多くなるため、返済期間を20年として、金利0.375%、元利均等・ボーナス返済なしで利用すると毎月返済額は19万4648円。年収600万円の人だと、返済負担率は38.9%になるものの、年収800万円だと29.2%、年収1,000万円なら23.4%ですむ。比較的年収の高い人なら、ある程度ゆとりのある資金計画になるはずだ。

それが、タイミングを逃して例えば「築30年~」で成約価格が2,397万円に下がると、2,300万円を自己資金に回しても、5,700万円の住宅ローンが必要になる。やはり金利0.375%、20年元利均等・ボーナス返済なしだと毎月返済額は24万6554円に増える。

年収600万円の人だと返済負担率は49.3%、年収800万円だと37.0%に、年収1,000万円では29.6%になる。年収800万円までの人だと、年収の35%までとする金融機関が多いのでローンが組めず、かなりの高額所得者でないと買い換えできないことになる。

その意味でも、比較的高く売れる「~築30年」のうちに売却するのが得策。買うにしても、売るにしても「~築30年」が重要なポイントになりそうだ。


(2024年1月23日掲載)


お話を聞いたのは●山下和之さん(住宅ジャーナリスト)

やました・かずゆき/1952年生まれ。住宅・不動産分野で新聞・雑誌・単行本などの取材・原稿制作、各種講演、メディア出演などを行う。『住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)、『はじめてのマンション購入成功させる完全ガイド』(講談社ムック)などの著書がある。
http://yoiie1.sblo.jp/