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落語・講談から色物まで! 日常を離れ、江戸の風情を味わう寄席の新潮流

落語や講談と聞くと「敷居が高そう」と感じるかもしれない。実は今、若手真打の台頭やメディアでの注目が高まり、寄席演芸の世界に新しいムーブメントが起きている。古典芸能の魅力を伝えてきた九龍ジョーさんに寄席の楽しみ方を伺った。

目次

失敗ばかりしている人も輝ける世界

寄席演芸の代名詞といえば、やはり落語ではないだろうか。長屋のご隠居に、どこか憎めない「熊さん・八っつあん」。そんな江戸の息吹を感じさせる人々に、不思議と懐かしさを覚える。古典・舞台芸術への造詣が深いライター・編集者の九龍ジョーさんは、落語や寄席の魅力をこう語る。

「落語には、お酒でしくじったり仕事もしないで呑気にしていたり、失敗ばかりしている人が多く登場します。でも、その失敗を笑いに変えてダメな人も輝かせるのが落語の世界。令和の時代に生きる私たちにとっては、ホッと一息ついてくつろげる、そんな優しさが落語にはあるんです。その落語の世界の住民みたいな人たちが落語家で、実際にこの令和の時代に生きている。私が寄席に行くのは、演者やネタもさることながら、その世界観に浸りたいからかもしれない」

寄席を訪れる人たちも愛すべき存在だ。

「気負ってないんですよね。寝ている人もちらほらいたりして、何しにきたんだ? って思わなくもないですけど、それも含めて自由。それに寄席という場所そのものがいい。特に新宿末廣亭(東京新宿区)のような木造の建物は雰囲気がありますし、畳敷きの桟敷席もある。そこにいるだけでタイムスリップしたような気分になります」  

新宿・三丁目にある「新宿末廣亭」は、都内でも数少ない木造建築の寄席(新宿区文化財第一号に認定)。昭和の趣を残す畳敷きの桟敷席があり、落語や講談、漫才、色物を気軽に楽しめる。

映像では味わえないライブの魅力

動画配信サービスなどの映像メディアが主流な現代社会でも、寄席演芸がすたれることはない。その場でしか味わえない“生”の魅力があるからだ。

「寄席は、出演者たちがリレーでつなぐ、一期一会のライブなんです。お客さんの雰囲気やその日の空気感、演者さんのテンションとか、その時、その場に存在するさまざまな要素が組み合わされ発せられたものが芸になる。例えば、演目一つとっても、出番までの流れによって決める落語家さんもいますし、ときにはマクラが伸びて、そのままネタに入らずに漫談で終わることだってあります」

寄席のプログラムは多岐にわたる。落語や講談の合間を縫って、漫談、コント、紙切りなどの色物がテンポよく座を盛り上げる。木戸銭(入場料)は三千円前後。場所や出演者で違いはあるが、その手軽さも寄席の大きな魅力だ。

「昼夜通しなら7〜8時間聴くこともできます。落語や講談だけでなく、奇術(マジック)や漫才や曲芸などもあるので飽きませんし、トリには真打が登場し、一席しっかり聴かせてくれます」

落語や講談は演者が年齢を重ねるごとに深みを増す。一生かけて追いかけられる、究極の『推し活』ともいえる。

「落語、講談には一般に、前座、二ツ目、真打という位があり、真打になれば一人前と認められ、弟子を取ることもできます。前座の頃は緊張でぎこちなかった人が、稽古を重ねることで腕を上げ昇進していく、その過程を見守ることができるのも寄席の醍醐味です。応援することで、その芸人の人生をともに歩んでいける。そういう趣味を持つことは、とても豊かなことだと思います」

九龍ジョー(くーろん・じょー)
1976年東京生まれ。ライター・編集者。古典の知見と現代の感覚を融合させ、伝統芸能の新たな魅力を発信し続けている。『小痴楽の楽屋ぞめき』(NHKラジオ第一)レギュラー出演中。著書に現代に活躍する表現者に迫った『伝統芸能の革命児たち』(文藝春秋)など。

常に現代と対峙する講談師・神田伯山

かつて演芸界に、真打昇進を控えた二ツ目の落語家たちによる「成金」というユニットが旋風を巻き起こした。ブログやSNS、動画配信を駆使した発信に加え、精力的な自主公演を展開し、寄席芸能全体の底上げに大きく寄与した。この集団の中で異彩を放っていたのが、唯一の講談師として名を連ねた神田松之丞――現在の六代目・神田伯山だ。

  「伯山さんの講談を初めて聴いたのは十年ほど前、二ツ目の松之丞だった頃です。新宿末廣亭の深夜寄席という若手だけの会で、いまでも思い出せるほどの衝撃でした。まず佇まいからして違った。猫背の若者が気難しそうな表情で出てくるんですが、一転、語り出したらキレキレでかっこいい。一瞬で引き込まれました。講談ってこんなにも面白いのかと」

落語が架空の人物の会話の妙を聴かせるのに対し、講談はト書き(とがき)の芸とも呼ばれ、歴史上の事件や英雄の武勇伝などを読み上げる。「講談は何かを成し遂げた人物をかっこよく語る、二枚目の芸」と九龍さん。そのかっこよさを、鋭利で迫力のある話芸で魅了するのが神田伯山だ。しかし、彼のすごさは芸だけにとどまらない。

「彼が一貫して意識しているのは、『講談を世に広める』ということ。自身のラジオ番組やYouTubeチャンネルなどを軸足に、様々なメディアに出ながら、常に講談の可能性を体現しています。また、最近は、落語や浪曲など寄席演芸はもちろんのこと、歌舞伎、文楽など、広く伝統芸能の魅力を若い世代に伝えるスポークスマン的な役割も担っています。それができるのも、伯山さんが、世間が何に興味を持っているかということを俯瞰して見ているからだと思います。その中で、自分は何をすべきなのかということをいつも考えているんです」

今、“最もチケットが取れない講談師”といわれる神田伯山。出囃子とともに高座に上がると、客席から「待ってました!」と声がかかる。高座と客席のこうした一体感もまた寄席の楽しみだ。仕事帰りや買い物の合間に、気軽に立ち寄れるのが寄席。日常を離れ、昔ながらの風情を感じさせる空間で噺に身を委ねれば、最高に贅沢なリフレッシュな時間になる。

「寄席はふらりと入ってみたら、こんな面白い世界があるのかという場所。あまり構えずに出かけてみてください」

取材・文/阿部えり 撮影/黒坂明美

  • 本記事の内容は2026年1月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

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