声の変化から病気のサインに気づくことも!
私たちが声を出す際に重要な役割を果たす「声帯」。角田さんによれば、声がかすれたり、思うように声が届かなかったりする場合、原因として考えられるのが「声帯の老化」だ。
「声帯は左右に2枚あり、これが閉じて振動することで声が出ます。しかし加齢によって、声帯自体や声帯周辺の筋肉がやせて縮んでしまうと、声帯がうまく閉じずにすき間から空気がもれ、きれいな声が出にくくなるのです」
さらに声帯は発声だけでなく、食べ物や飲み物が気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)を防ぐ機能も担う。声帯の筋肉が衰えると気道にうまくふたができず、誤嚥を引き起こし、むせたり、咳き込んだりすることが多い。さらには痰を吐き出せないなどの症状も引き起こしやすくなるのだ。
こういった不調を加齢によるただの声帯の“老化”とせずに、“異変”として捉えることで「病気のサイン」に気づける可能性もあるという。
「例えば、声のかすれやむせるなどの症状は“誤嚥性肺炎”を引き起こすリスクが高く、声が出づらく喉に違和感がある場合は“脳梗塞”の可能性があることもあります。そのほか、逆流性食道炎や声帯ポリープ、喉頭がんなどはもちろん、肺癌や大動脈瘤の前兆かもしれません。不調が2週間以上続くようであれば、耳鼻咽喉科を受診してください」
自身の声の変化に向き合うことが、健康で長生きするための鍵になる。
声帯の健康をチェック! 喉に良くない生活環境とは
声帯が健康であるかを知るための方法がある。椅子に座った状態で大きく息を吸い、いつも通りのボリュームで「あー」と声を出し続けてみてほしい。
「男性なら15秒以上、女性は12秒以上続けば健康な状態といえます。それ未満であれば声帯萎縮の可能性があるかもしれません。もし長く発声できても、声が震えていたり、音程が不安定な場合は注意が必要です」
この声帯の健康チェックはあくまでも目安。結果が悪くても過剰に不安になる必要はない、と角田さんはフォローする。
「老化したからといって声帯はもとに戻らないわけではありません。ケアやちょっとした努力で改善できるからです。一方、テストの基準をクリアしていても安心しないでください。声帯は使わなければ衰えます。今は大丈夫でも、会話の機会が減ることで老化する可能性があるのです。しゃべりすぎだけでなく、声帯を“使わないこと”も声帯の衰えにつながりかねません」
特に声帯にとっての大敵は「乾燥」だ。冬季だけでなく、夏もエアコンとともに必要に応じて加湿器を設置し、温度と湿度のバランスを取ること。部屋に濡れタオルを干すだけでもいい。なにより夏は、熱中症の予防に水分を摂ることが声帯の健康につながる。
「肌と同じように声帯も水分が抜けてしまいます。飴をなめることでも喉を潤すことはできますが、そのときに出てくる唾液は体の中の水分なので、水分量を増やすには水の方が効果的。こまめに水を飲むようにしましょう。もし飴をなめるなら、ひとくち、水も一緒に飲めばより効果的です。また口呼吸は極力避けて、鼻呼吸を。鼻が加湿器のような役割となり、温かく湿った空気が声帯に届くので乾燥を防ぐことができます。睡眠時には鼻を出し、口元だけ覆うかたちでマスクをすることもおすすめです」
2つのポイントを守るだけ!「1日2分」の声帯ケア
声帯ケアとして取り入れたいのが、角田さん考案で医学的効果が証明されている「ビシッと声トレ」だ。基本は1から10までしっかり声を出し数えるもので、1回30秒でできる。
大きなポイントは2つ。
- 体に力を入れたタイミングで発声し、そのあとは一度力を抜くこと
- 数字を発声する際は短くはっきりと(ビシッ!と)すること
例えば、椅子に座った状態で、両手で座面の両端を持ってみよう。胸を張りながら、体に力を入れるタイミングで「1(いちっ!)」と短く発声したら力を抜き、同じように「2(にっ!)」と声を出し、力を抜く。これを10まで繰り返すだけだ。
「これは力を入れる時に声帯を閉じることで、声帯とその周辺の筋肉を鍛えることができます。朝晩2回ずつ、1日で合計2分を1カ月続けると声の変化を感じられるでしょう。老化だから、と諦めることはありません。最近のコミュニケーションはメールやチャットが主流ですが、先ほどお伝えしたように、やはり会話も大切。声帯を支えたり動かしたりする筋肉が鍛えられます」
というのも、声の健康は、体だけでなく心の健康にもつながるからだ。会話や歌という声を介したコミュニケーションによって、人は楽しみや生きがいを感じられる一方、声がうまく出ないと話すことが億劫になり、外出を控え閉じこもったり、気持ちが落ち込むことになりかねない。その点で、喉に負担をかけない程度のカラオケや井戸端会議は有用だ。
最後に角田さんは「いずれもやりすぎは禁物」と加える。
「声帯のアンチエイジングにある程度のトレーニングは必要ですが、使いすぎるのは禁物。カラオケも楽に歌える範囲の声を出すよう心がけましょう。大切なのは毎日ほどよく“声を出す習慣を身につけること”なのです」
(2024年6月7日掲載)
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お話を聞いたのは●角田 晃一さん(医学博士)
つのだ・こういち/国立病院機構東京医療センターの臨床研究センター(感覚器センター)にて人工臓器・機器開発研究部長、東京大学医学部での非常勤講師も務める。数々の研究を行い、耳鼻科的アプローチによる内科外科疾患の治療法を解明し続けている。国際的に権威あるさまざまな専門誌に論文掲載の実績を持ち、著書には『声をキレイにすると超健康になる』(すばる舎)などがある。