理想の住まいの選び方

なるほど!子育て世帯のマンション選びのポイント

マンション選びの優先基準は、戸数規模や立地など、人によってさまざまです。なかでも子育て世帯にとって、後悔のない選択をするためには、どのような視点が重要になるのでしょうか。マンション取材歴40年を誇る住宅評論家・櫻井幸雄さんとともに、考慮すべきポイントを整理してみましょう。

目次

戸数規模によって住み心地が違う

マンションは戸数規模によって区分けされることがある。すなわち、総戸数200戸以上を大規模、50戸以下を小規模と呼ぶ傾向がある。「傾向がある」と書いたのは、大規模、小規模の基準がないからだ。明確な線引きはないが、「総戸数がおおむね200戸を超えたら大規模」「50戸程度までなら小規模」「2つの間が中規模」というように考えられている。

だったら、大規模とか小規模とか言わなくてもいいでしょう、とツッコミが入りそうだが、マンションは戸数規模によって住み心地にも違いが生じるのも事実。その違いを知っておくことは、後悔しないマンション選びのために重要となる。

では、大規模、小規模、中規模の特徴とは? そして、子育て世帯に向くマンションの規模は? マンション戸数規模に関する知識や実情をリアルにまとめたい。

同じ管理費でも、満足度が高い「大規模」

前述したとおり、総戸数200戸以上を「大規模」、50戸以下を「小規模」と呼ぶことに明確な基準はない。そのため、総戸数150戸でも大規模とされることがあるし、総戸数60戸でも小規模とされたりする。

それでも、私は40年に及ぶマンション取材を通し、200戸以上を大規模、50戸までを小規模と呼ぶのには合理的な理由があると考えている。

それは、毎月の管理費とサービスの関係を考えればわかりやすい。

日本の分譲マンションは、毎月修繕積立金と管理費を支払う方式が一般的だ。そのうち管理費は超高層マンションで高くなる傾向があるのだが、超高層以外はだいたい同じような水準となっている。

大規模マンションも、小規模マンションも、その中間規模のマンションも、3LDK住戸ならば毎月の管理費は1万円から1万5,000円くらいというケースが多いのだ。

仮に1万円とした場合、全50戸のマンションで1カ月に集まる総額は50万円。この金額で、エントランスの照明や空調の電気代、そしてエレベーターなど共用施設の電気代、メンテナンス費用を捻出しなければならない。その他、共用部の清掃費用や庭木の手入れ費用、管理会社への支払いなどを行うと、50万円の残りは少なくなり、管理員を常駐させるのが困難となる。だから、管理員が来るのは週に3日だけとか、1日4時間だけとなってしまう。

そうなると、住人からは「毎月管理費を1万円払っているのに、たいしたことをしてくれない」という不満が出やすい。

それが総戸数100戸になると、どうだろう。100戸ならば、毎月集まる管理費の総額は100万円、それだけあれば、いろいろな費用を払った上で、管理員を平日の昼間に常駐させることもしやすい。それで、住人はまあまあ満足できることになる。

総戸数が100戸の倍=200戸ならば、毎月集まる管理費の総額は200万円。大きな金額が集まるので管理員を常駐させるだけでなく、住人が自由に使える共用施設(キッズルームやフィットネスルーム、ワークルームなど)も運営しやすい。

すると、「毎月1万円の管理費で、これだけのサービスがあるならいいよね」という満足感が高まる……そのような違いが生じるわけだ。

写真はイメージです。

満足度がさらに高まる「500戸以上」

ちなみに、総戸数が500戸以上になると、毎月の管理費総額がさらに大きくなるので、夜間も警備スタッフを常駐させるとか、共用施設を増やすといったことができるようになる。

戸数規模が大きくなると、そのスケールメリットで満足度も高まってゆく。マンションの住み心地も変わってくるわけだ。

子育て世帯の場合、マンション内で過ごす時間が長くなる。だから、大規模のスケールメリットを享受しやすい。子どもが小さいうちは、キッズルーム(子どもを安全に遊ばせることができる屋内のスペース)が重宝する。キッズルームで子どもを遊ばせている間、隣接するスペースでママ同士が会話を弾ませることもできる。これも子育て中のママに好評だ。

さらに、大規模マンションの中には、マンション内に保育施設を設置するケースがある。民間の保育園に利用してもらう形式で、その評価も高い。マンション住人なら必ず利用できるわけではないのだが、めでたく子どもを預けることができれば、これ以上有効な施設はないだろう。

以上のように、大規模マンションには、子育て世帯にとって喜ばしい特徴が多い。しかしながら、「子育て世帯は大規模マンションを選ぶべき」とも言い切れない。そこに、マンション選びの難しさがある。

エリア限定で探しやすいのは「中規模」

毎月の管理費に対する満足度でいえば、「大規模マンション」にメリットは多い。しかし、すべてのマンション購入者が「大規模」を好むわけではない。

世の中には、「多くの人が集まって住む形態が好きになれない」という人がいて、そういう人は「小規模」とか「中規模」のマンションに住みたがる。「アットホームな感じ」とか「穏やかさ」に惹かれるわけだ。これは、生理的な好みの問題であり、理屈で解決できない。「大規模は嫌い」という人に大規模マンションの暮らしを無理強いすることはできないし、するべきではないだろう。

また、エリア限定でマンション探しをする場合、都合よく大規模マンションが発売されるわけではない、という問題もある。子育てを助けてもらうため、実家の近くでマンションを買いたいとか、夫婦2人の勤め先(もしくは妻の勤め先)に近い場所でマンションを買いたいというときも、この問題が生じやすい。

エリア限定で探す場合、条件に合う物件を見つけやすいのは中規模マンションだ。というのも、分譲マンションで多いのは中規模物件であるから。ただし、一戸建て住宅が多い集まる場所でマンションを探すときは、小規模マンションのほうが見つかりやすい。

以上のように、エリア限定でマンションを探すときは、大規模にこだわらず、中規模、小規模の物件を探したほうがよい。そのほうが、短期間で条件に合うマンションが見つかるだろう。子育て世帯がマンションを買うとき、「条件に合う立地の物件」が出るまで、気長に待つことが難しい。長くても、1年、2年のうちに購入したいということが多くなるものだ。そういうときは、「条件に合う立地」が最優先で、規模の大小にこだわらないほうがよい。それが、子育て世帯がマンションを選ぶときの実情ということになる。

  • 本記事の内容は2025年7月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●櫻井幸雄さん(住宅評論家)

さくらい・ゆきお/住宅評論家。人生相談家。1954年生まれ。2000年から住宅評論家としての活動をスタート。年間200物件以上の取材を行う現場主義で、首都圏だけでなく、近畿圏、中部圏、福岡、札幌など全国主要都市部の住宅事情に精通する。住宅評論の第一人者として、新聞、テレビ、雑誌など幅広いメディアで活躍している。Yahoo!ニュース「個人」オーサー。
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