憧れの「低層マンション」の長所と意外な実情

タワマンの呼び名が定着した超高層マンションの対局にあるのが「低層マンション」。5階建てまでのものを「低層」と呼ぶことが多いが、本来は3階建て、もしくは4階建てまでが、低層らしい低層のマンションとなる。理由は「第一種低層住居専用地域に建設できるのは3階建てと4階建て」だからだ。それは何を意味するのか。そして、低層マンションのリアルな長所と短所は。憧れだけではわからない「低層マンション」の実情を住宅評論家の櫻井幸雄さんが解説する。

一戸建てのような住み心地を実現

写真はイメージです。

低層マンションの長所は2階建ての一戸建てに近い外観と住み心地にある。背の低い建物で、圧迫感が少ないし、住戸が密集している感じがなく、ゆったりした感じが好まれるわけだ。

一方で、一戸建てより安い価格で購入できるため、一戸建てとマンションの中間的存在と位置づけられることが多い。

しかし、鉄筋コンクリート造であることや、区分所有となり、管理組合を結成しなければならないことなどを考えれば、中間ではなく、あくまでも集合住宅(マンション)の一種。一戸建てのような住み心地を実現するマンションとなるわけだ。

具体的に、どのようなところが「一戸建てのよう」なのか、説明したい。

日当たりがよく、静かな一戸建て住宅地で暮らせる

まず、立地について。4階建てまでの低層マンションであれば、一戸建て中心の住宅地に建設することが可能となる。それこそが、低層マンションの特性だ。一戸建て中心の住宅地には低層マンションを建設することはできても、タワマンは建設できない。というのも、土地に定められる用途地域の規制が厳しいからだ。

用途地域で建設できる建物の規制が最も厳しいのは「第一種低層住居専用地域」というもの。「建設できる建物の高さは10m、もしくは12mまで」と定められる場所だ。高さ10mとなると、建設できるのは3階建てまで。12mであれば4階建てまでだ。

「建設できる建物の高さは10mまで」と定められ、一戸建て住宅が集まる場所でも、3階建てのマンションならば建設が可能。だから、静かな住宅エリアに暮らしたいが一戸建ては予算的に無理、という人にとって、低層マンションは絶好の選択となる。

タワマン嫌いの人は「高いところに住む人の気が知れない。低層マンションのほうが好き」と言いがち。しかしながら、タワマンを建設できる場所に低層マンションは建設されない。建設できないことはないが、つくれば、非常に割高な物件になってしまう。

それは、日本一地価が高い東京の銀座で一戸建てをつくるのが現実的にあり得ないのと同じである。銀座の一戸建ては土地面積100㎡程度の建売住宅サイズでも、土地代だけで20億円を超えてしまう。しかも、周囲を背の高い建物で囲まれるので、薄暗い住まいになってしまう。

同様に、40階建て全400戸のタワマンを建設できる場所に3階建ての低層マンションをつくれば、せいぜい50戸とか60戸の規模になり、恐ろしく割高な住戸となってしまう。

周囲を高層の建物に囲まれて、眺望が塞がれるなど、条件が悪く、とても売れるとは思えない。だから、つくられないのだ。

その点、周囲が一戸建て中心の住宅地であれば、眺望が開けるし、日当たりも良好。それなら、購入したいという人が出てくるだろう。つまり、低層マンションは静かで落ち着いた一戸建て住宅地に誕生するマンション形態ということになる。そこから、低層マンションの長所と短所が生じてくる。

写真はイメージです。

環境は良好だが、駅からは離れるのが普通

低層マンションは、落ちついた一戸建て住宅地内につくられやすい。

そこから生まれる長所は、住環境がよいこと。騒音がなく、身近に緑が多いため日当たりがよく、鳥の声がよく聞こえる。加えて、3階建て、4階建てでも鉄筋コンクリート造の頑丈さで、地震に強い。火災が起きても延焼しにくい。断熱性、遮音性が高く、セキュリティも強固だ。

以上が3階建て、4階建て低層マンションの長所となる。見た目が派手な超高層マンションに憧れる人と同じくらい、落ち着いた低層マンションに憧れる人が多いのも当然だろう。

憧れる人は多いのだが、物件数は近年激減している。超高層マンションは簡単に見つかるのに、低層マンションは探すのに苦労する。数が減っているのは、低層マンションにちょうどよい土地がなかなか見つからないためと考えられる。

低層マンションをつくるのにちょうどよいのは、落ち着いた住宅地。では、それはどんな場所にあるのか。都心部には少なく、文京区や渋谷区で駅から離れた場所にわずかに残っているくらいだ。郊外部でも同様。駅に近い場所では見つけにくく、駅から歩いて5分なら近い方。歩いて10分以上ということになりがちだ。

私が最初に買ったのも低層だったが

かくいう私も最初に買ったマンションは低層で、横浜市内で駅から徒歩13分(実質的に15分以上)という立地条件だった。結果、環境がよく、夜は安眠できても、中古で値上がりすることはなかった。

値上がり期待であれば、駅の近く、駅徒歩3分とか4分以内のマンションの方が有利だ。

今は値上がりするマンションを狙う人が多いため、駅から離れた低層マンションはなかなか売れない。それは、駅から離れた一戸建ての売れ行きが芳しくないのと同様である。

「売れる低層マンション」をつくろうとすると、郊外でもなるべく駅に近い一戸建て住宅地を探さなければならない。それが、現実的に難しいのだ。

環境のよさと便利さを併せ持った場所で、マンションを建設できるくらい広い土地……以前は大企業の社宅が売却され、低層マンションが開発されることが多かった。しかし、社宅自体が減り、土地が売却されるケースも少ない。結果として、低層マンションをつくりたくてもつくれない。希に出ると、高額物件となり、購入できる人は限られる。それが、新築マンション市場における実情なのである。

  • 本記事の内容は2025年3月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

お話を聞いたのは●櫻井幸雄さん(住宅評論家)

さくらい・ゆきお/住宅評論家。人生相談家。1954年生まれ。2000年から住宅評論家としての活動をスタート。年間200物件以上の取材を行う現場主義で、首都圏だけでなく、近畿圏、中部圏、福岡、札幌など全国主要都市部の住宅事情に精通する。住宅評論の第一人者として、新聞、テレビ、雑誌など幅広いメディアで活躍している。Yahoo!ニュース「個人」オーサー。
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