理想の住まいの選び方

これからの住宅は「断熱性能」で選ぼう! 補助金やローン減税増加も!

建築基準法や建築物省エネ法が改正され、2025年4月からすべての新築住宅に省エネ基準適合が義務づけられる。つまり、省エネ基準を満たしていない住宅は建築できなくなり、断熱性能の高い省エネ住宅が当たり前の時代になる。住宅ジャーナリストの山下和之さんが解説する。

健康でエコな「断熱新時代」へ

地球温暖化を抑制するため、全世界的にCO2の排出量削減が大きな課題となっているが、それは、政府、自治体だけではなく、一般消費者の間にも広く浸透している。

たとえば、図表1にあるように、リクルートSUUMOリサーチセンターの調査によると、注文住宅を建築する際に重視した項目としては、耐震性や耐久性に対する関心が高いものの、年次ごとにみると、その数値は多少低下傾向にあるのに対して、断熱性関連のテーマへの関心は年々高くなっている。

それを反映して、リクルートでは、「SUUMOトレンド発表会2024」のテーマとして「断熱新時代」を設定、健康でエコな新しい住まい水準への関心が高まっているとしている。

ヒートショックや熱中症が減少

なぜ、いま断熱性能なのか。それにはさまざまな要因が挙げられる。

第一には地球温暖化が急速に進行していることだ。2024年、世界ではインド、アメリカなどで40度以上の酷暑により死者が多数発生、わが国でも7月上旬に早くも猛暑日が出現しているが、その最大の要因がCO2排出量の増加にともなう温暖化といわれている。そのCO2排出量の削減が世界的に喫緊の課題で、なかでも産業分野に比べて住宅分野の取り組みが遅れているため、住まいのCO2排出を抑制する断熱性能への関心が高まっているのだ。

第二には、断熱性能の高い住宅は、快適で安全・安心という点が挙げられる。断熱性能の高い住まいは、夏は涼しく、冬は暖かく、健康に過ごせる。

日本の住まいの多くは、室内の温度差が大きく、それが冬のヒートショックや夏の熱中症の原因になっている。たとえば、居間の温度が18度以上の住まいと、12度未満の住まいを比較すると、室温の低い住まいは高い住まいに比べて、心電図異常の所見割合は2.2倍と高くなる。断熱性能の低い住まいは、ヒートショックなどのリスクが高まり、冬季死亡増加率が高くなるわけだ。

ヒートショックなどによって冬季死亡増加率が高いのは、北海道などの寒冷地と思いがちだが、実際には北海道は冬季死亡増加率が47都道府県のなかでも一番低く、2位が青森県となっている。寒冷地では断熱化の進んだ住まいが多いので、住まいのなかの温度差が小さく、ヒートショックが起こりにくいのだろう。

反対に冬季死亡増加率が最も高いのは栃木県で、次いで茨城県など比較的温暖な地域が多い。住まいの断熱化が進んでいないので、冬季のヒートショックが増えるわけだ。

年間の光熱費を削減できる

断熱化された住まいは、地球にやさしく、健康に良く、人にやさしいわけだが、それだけではなく、財布、家計にもやさしい。それが第三のメリットだ。

断熱化すれば、冷暖房費を削減できる。図表2にあるように、国土交通省の試算によると、年間の光熱費を数万円から10万円、20万円と削減できる。

通常の省エネ基準の住宅だと、北海道では年間の光熱費が34万円以上必要だが、太陽光パネルを搭載した省エネ住宅だと16万円ですみ、年間18万円以上の削減になる。これは、今後義務化される省エネ基準の住宅との比較だから、省エネ基準を満たしていない古い住宅と比べると、恐らく、20万円、30万円と差が出てくるのではないだろうか。


購入時の負担も大幅に軽減

家計にやさしいのは、光熱費などのランニング・コストだけではなく、購入、建設当初のイニシャル・コストの削減にもつながる。

最近は、子育てエコホーム事業として18歳未満の子どもがいる世帯、夫婦どちらかが39歳以下の若者夫婦世帯が注文住宅を建てる場合、長期優良住宅は100万円、ZEH水準住宅は80万円の補助金が出るようになっているし、子育て世帯以外にも、断熱性の高い住まいに対しては各種の補助金がある。

また、住宅ローンを利用してマイホームを取得すると、ローン減税として所得税・住民税が軽減されるが、省エネ性能の高い住宅の控除額が多くなるし、取得時に住宅金融支援機構の「フラット35」という住宅ローンを利用するときには、省エネ住宅なら金利が大幅に引き下げられる制度もある。国土交通省の試算によると、省エネ性能の高い住宅だと控除額が182万円アップ、フラット35の金利引き下げで280.3万円の負担軽減になる。

地球にやさしく、人にやさしく、家計にもやさしい断熱性能の高い住まい。これからのマイホーム選びは、断熱性能がキーワードになる。

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お話を聞いたのは●山下和之さん(住宅ジャーナリスト)

やました・かずゆき/1952年生まれ。住宅・不動産分野で新聞・雑誌・単行本などの取材・原稿制作、各種講演、メディア出演などを行う。『住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)、『はじめてのマンション購入成功させる完全ガイド』(講談社ムック)などの著書がある。
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