ローンの種類と特徴

マンション価格の高騰が続くなか……住宅ローンはできるだけ借りるのがトク?

マンション価格の高騰が続くなか、理想の物件を購入するハードルは高くなっている。住宅ローンの借入額を増やすことで購入できる可能性は上がるが、それだけ返済額も増えることになる。果たして借入額を増やすのはアリか、ナシか。ファイナンシャル・プランナーの蟹山淳子さんが解説する。

住宅ローンの借入額を増やす方法は?

まず、借入額を増やす方法から見ていきましょう。一般的に次のようなものが考えられます。

●返済期間を長く設定する

返済期間が長いほど、多くの金額を借りることができます。長期にわたって安定的に返済し続けられるか、冷静に判断することが重要です。

●その他のローンを完済する

車のローンやカードローン、奨学金の残債があると、住宅ローンの審査に影響し、借入額が少なくなる可能性が出てきます。すべて完済してから住宅ローンを組むと、借入額を増やしやすくなるでしょう。

●夫婦2人でローンを組む

夫婦ともに正社員であれば、2人でローンを組むという選択肢も出てきます。片方がローンを組み、もう片方が連帯保証または連帯債務の形をとる「収入合算」や、夫婦がそれぞれにローンを組む「ペアローン」という方法があります。

住宅ローンを多く借りるメリットとデメリットは?

実際には「借入額を増やせばおトクになる」とは言い切れません。

借入額を増やすと、理想の物件を手に入れやすくなることはたしかです。また、借入額を増やすことで、現金を手元に残せるメリットもあります。住宅ローンは月々の収入から返済し、手元にある現金は運用して、教育資金や老後資金に充てるという計画を立てられるでしょう。借入額が大きいと、住宅ローン控除の枠も大きくなるというメリットも挙げられます。

一方、借入額を増やすデメリットもあります。資金に余裕があり、十分に返済できる計画を立てられるのであれば、借入額を増やす選択もできますが、無理に増やすと次のような負の影響が及ぶと考えられます。

●諸費用も増える

金融機関の多くは、住宅ローンの事務手数料を「融資額の2.2%」としているため、借入額が増えた分だけ手数料も増えます。その他にも融資額に応じて変化する費用があるので、諸費用も加味して検討しましょう。

●将来返済できなくなる可能性がある

仮に30~40代で30~35年ローンを組むと、50~60代も返済し続けることになります。近年は50代で役職定年、60歳で再雇用となる方が多く、定年間近で収入が減る可能性が高いといえます。

●夫婦2人でローンを組むリスク

子どもが生まれたり、病気やケガで障害を負ったりするなどの理由で、どちらかが定年まで働き続けられない可能性もあります。収入が減ることも考え、無理せず返済できる金額で検討することが大切です。

ボーナス返済や繰り上げ返済の活用はアリ?

住宅ローン返済のテクニックはいくつかありますが、あまりあてにしないほうがいい方法もあります。

●頭金

あえて頭金を払わず、現金を手元に残し、その現金を運用する方法があります。運用が好調に推移すれば、そのお金で返済できる可能性も出てきます。ただし、「フラット35」のように頭金を多く支払うことで金利が下がるローンもあるので、条件に合わせて検討しましょう。

●ボーナス返済

ボーナスは必ず支給されるものではなく、コロナショックのようなことが起こると支払われない場合もあります。ボーナスを前提とした返済計画はリスクがあります。

●繰り上げ返済

繰り上げ返済は全額元本の返済としてカウントされるので、おトクな制度です。ただし、余裕資金がある場合に行うものと考えましょう。繰り上げ返済ありきでローンを組むと、万が一資金が足りなくなった時に返済できなくなってしまいます。

●退職金での返済

ボーナスと同様に退職金も必ず支払われるとは限らないので、将来を楽観視して、たくさん借りるのはリスクがあります。実際に定年を迎える際に退職金の支給が確定したら、退職金での返済を判断しましょう。

きちんと返済できる借入額の決め方

理想の物件の価格をもとにするのではなく、月々無理なく返済できる金額から借入額を導き出した上で、物件を探すことをおすすめします。

まずは、現状住宅費に充てている金額と貯蓄の中から住宅費に回せる金額を確認します。この金額の範囲内で、月々の返済額と定期的に発生するランニングコストを払うものと考えましょう。ランニングコストは、固定資産税や修繕積立金、管理費などを指します。

金融機関の返済シミュレーションを使うと、現実的な借入額が見えやすくなります。返済期間の理想は、65歳までの完済。65歳までだと期間が短い場合は、70歳くらいまでで設定しましょう。金利を全期間固定にして算出すると、最低限借りられる額を導き出せます。

「住宅購入は一生に一度」と思うと理想を追求したくなりますが、ライフスタイルによって理想の住宅は変わるので、将来的に住み替える可能性もあります。現時点での理想よりも、身の丈に合う家を探すことを重視しましょう。


(2024年2月13日掲載)

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お話を聞いたのは●蟹山 淳子さん

かにやま・じゅんこ/ファイナンシャルプランナー、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー。大学卒業後、銀行勤務を経て専業主婦となり、1997年に夫と死別。2人の子を持つシングルマザーとなり、自身の資産管理や義父の認知症介護、相続などを経験し、2004年にCFP®️を取得。2011年に慶應義塾大学経済学部(通信過程)を卒業。日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」相談員などを経て、現在は家計の見直しや住宅資金の相談などに応じている。
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