ローンの種類と特徴

インフレ時代に備える!住宅ローンの賢い借り方

マンション価格が高騰しているうえに、金利もジワジワと上昇傾向にあり、マンション購入を検討している人は心配の種が増えているかもしれない。しかし、ライフスタイルを設計し、適切に購入すれば資産となることは変わらない。重要なのは住宅ローンの借り方だ。現状を踏まえ、気をつけたいポイントを住宅ジャーナリストの日下部理絵さんに伺った。

いまやバブル期超えにも…。高騰するマンション価格の背景

まず現在のマンション価格は「おそろしく上がっている状況」だと、日下部さんは指摘する。

「不動産経済研究所が発表している最新の情報(2022年2月)によると、都内23区の新築マンションの平均価格は9,685万円。首都圏1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で7,418万円です。また1年をまとめたものとして2021年は23区で8,293万円、1都3県で6,260万円と非常に高値になっています」

都内での新築マンションは1億円近く。これはバブル期の1990年の6,123万円をも上回る、1973年からの統計史上初の高数値だという。新築と連動して中古物件も同様に上昇傾向だ。このようなインフレにはいくつかの要因が見える。

「再開発が進んでいることが示すように、土地がありません。地価が上がることに加え、新型コロナウイルス感染症の影響によって海外からの労働者が減るなど人件費は高騰。さらに生コン、セメント、鋼材等の原価も上昇し、建築費も高騰しています。特にこの数年は東京オリンピック・パラリンピックを優先した結果、マンション建築が減少しました。実際、新築マンションの供給は、2007年の22.7万戸に対して2020年は半分以下の10万戸です」

すなわち需要(=買いたい人)に対して供給(=マンション)が追いついていない状況だ。少なくとも2~3年は高止まりが続き、価格の下がる要素が見当たらないのが現状だと話す。その上で日下部さんは「今後は二極化するのではないか」と予想する。

「立地のいい土地が足りていないため、現在高値のマンションはそのまま推移するでしょう。一方、大量相続などで土地価格が下がることがあれば、低価格マンションが出てくる可能性もあると思います」

今選ぶべきは「固定」か「変動」か。インフレに備えた住宅ローンの借り方

市場の金利は全世界的に上がっており、特に2022年2~3月には急激に上昇している。マンションの価格が上がっているうえに、金利も上昇しているいま、なるべくリスクを避けるには、住宅ローンの借り方がポイントになる。

大きく分けると金利には、原則完済まで変わらない「固定金利」と、情勢によって変わる「変動金利」がある。

「住宅金融支援機構の最新情報によると、固定で35年ローンを組んだ場合『フラット35』の金利は1.43%、20年で1.31%です。一方、変動金利は原則として半年で見直しが行われます。現在は変動金利が低いので、こちらを検討する方が多いようです」

今後の動向は読めないものの、当面はインフレが続きそうな気配だ。

「長期金利の上昇が続いているので、2022年3月では固定金利を中心に上昇しています。『フラット35』だと2018年11月の1.44%以来の高水準です。低金利とはいいながらも少しずつ上っているため、長期固定金利で住宅ローンを考えている方はなるべく早めに組むことをおすすめします。一方、変動金利は短期のため、今のところ3~5年は大きな影響はないと思われます」

購入できる物件価格の目安は

変動する時代、30~40年後の世の中の状況や自身の姿を明確に描くことは容易ではない。固定か、変動かと悩むなら、双方を組み合わせた「固定金利期間選択型」も1つの手段として日下部さんは挙げる。

「一定期間を同じ金利(固定金利)で返済した後、自動的に変動型に切り替わるものです。40年後はむずかしくても5~10年後のライフスタイルが想像できるのであれば、その間を固定金利で組むのもいいでしょう。共働きやDINKsなどの、当面は頑張って稼いだ後、繰り上げ返済を目指す方などにはおすすめの借り方です」

一般的にローンを組む際の安全な借入額は、年収の5倍。借り方にもよるが、最近は5~7倍が平均だ。都心のタワーマンションの新築では、住宅ローンの限界でる10倍もあるというが、実際にはどの程度を目安にすべきなのだろうか。たとえ高年収でも、まずは足元を見直したい。

「住宅ローンを組む際には、返済が家計の足を引っ張らないことが前提です。現在賃貸物件に暮している方は、賃料を返済額の目安にしてください。また、最初からボーナスをあてにして組むのはあまりおすすめしません。ボーナスは繰り上げ返済に充てるものと捉えるほうが賢明です。夫婦名義で借りるペアローンも、2人の収入の最大値で考えるのではなく、余裕を持って組むことをおすすめします。妊娠・出産や急な病気、万が一、離婚した際など支払えないリスクは避けるプラン設計を。その上で、現状用意できる頭金や毎月の返済額をもとに、一度仮審査すると借入可能額がわかり、購入可能な物件価格をイメージしやすいでしょう」

意外と見逃しがちなポイント

変動金利は定期的に見直されるが、5年の間は当初の金利の125%を超えない「5年ルール」が適用される。急激に金利が上がった場合にも大きく毎月の返済額は変わらないため、比較的安定したローンだ。しかし、気をつけたいのは「総返済額」。毎月の額は変わらずとも最終的に返済する金額が変わるわけではない。金利が上がった分にも返済義務は残っているため、安心していると予定外の返済が求められる。この点も踏まえて慎重に検討したい。

同じく5年ルールで注意したいのは「固定金利期間選択型」の場合。「固定から変動に切り替わった際、金融機関によっては5年ルールが適用にならないことがあります。契約内容を確認した上で選んでください」

住宅ローンの審査も意外と細かい。例えば、自動車などの大きなローンだけでなく、携帯電話の端末代金を分割で支払っている場合も対象となることがある。加えてクレジットカードのキャッシング利用枠を設定していると、実際はキャッシング(借入れ)していないにも関わらず、限度額を利用していると見なされ、希望額を借りられない可能性も。また、買った後は返済に加え、毎月の管理費や修繕積立金などがかかることを忘れず、計画に組み込んでほしい。

厳しい時代だからこそ“出口”を見据えた住宅購入を

「賃貸→分譲→戸建てといったかつての“住宅すごろく”の道すじは変わっています。より長生きする現代において、住宅の購入は必ずしもゴールではなく、むしろスタートです。何年住むのかを含めて、買った物件をその後どう活かすか。転居して売却する・貸し出すなど“出口”を見据えた物件選びが重要になってきます」

ライフプランをもとにした物件の使い方を軸に、都度“出口”を考えること。どう住みこなすかが賢い物件選びのヒントとなる。ライフスタイルが多様化している分、選択肢は広がっていると、日下部さんは言う。

「コロナウイルスの拡大により、リモートワークが増え、働き方も多様化しました。都心、駅近、特急停車駅など、以前の通勤ベースとは優先すべき項目が変わり、その分、選びやすくなったと思います。自分の生活に必要なものは何か。住まい選択の際の価値観が“ブランド”から“実質”に変わっているともいえるでしょう」

むずかしい時期ではあるからこそ、自分の希望を叶える「住みたい物件」を探すことも大切なポイント。希望を厳選し、最適なタイミングを逃さなければ、いい買い物となるはずだ。

お話を伺ったのは●日下部理絵さん(住宅ジャーナリスト・マンショントレンド評論家)

第1回マンション管理士・管理業務主任者試験に合格。管理会社勤務を経て「オフィス・日下部」を設立。管理組合の相談や顧問業務、数多くの調査から既存マンションの実態に精通する。また、穴場の街ランキングや新築マンション情報など、マンショントレンドにおいても見識が深い。ヤフーニュースへの記事掲載は300回以上。テレビ・ラジオなどのメディア、講演会・セミナーでも活躍中。
主な著書に『マイホームは価値ある中古マンションを買いなさい!』(ダイヤモンド社)、『60歳からのマンション学』(講談社)、『「負動産」マンションを「富動産」に変えるプロ技』(小学館)、『すみません、2DKってなんですか?』(共著/サンマーク出版)ほか多数。
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