介護・暮らしジャーナリスト 太田差惠子(おおた・さえこ)
1993年頃より老親介護の問題を取材している。96年「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、現在、理事長を務める。ファイナンシャル・プランナーの資格も持つ。主な著書に『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)、『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本』(翔泳社)など多数。
介護が必要になったら、どこで暮らす?
親が“高齢者”と呼ばれる年齢にさしかかると、子どもとしてはあれこれ心配になるものだ。この先、もしも介護が必要になったら、どこでどのように暮らすのか。そして誰がケアするのか。実家が駅近のバリアフリー住宅で、スーパーも病院もスグ近く、というならまだしも、古い家屋で交通の便も悪いとなればなおさらだ。
これから紹介するリョウヘイさん(仮名50代)の実家も、バリアフリーとはほど遠く、車を運転しなければ生活できない立地だという。新型コロナウイルスの影響で盆も正月も帰省しておらず、会えないが故に心配が増幅している。昨秋、父親がケガをしたものだからますます悩みは尽きない。
リョウヘイさんの実家は東北地方にある。新幹線を使っても、片道4時間はかかる。リョウヘイさんが帰省するときは、80代の父親が車で駅まで迎えに来てくれていた。ところが、昨年10月、父親は階段を踏み外して転落してしまったのだ。幸い骨折しておらず自宅療養しているが、年齢のせいかなかなか治らない。
母親は70代だが、以前から足腰の調子が悪いらしく、電話を掛けると「あっちが痛い。こっちが痛い」とブツブツ言っていた。父親がけがをして以降、トイレや浴室に移動する際に倒れないように肩を貸すのが負担らしい。トイレの入り口の段差で、2人一緒に転びそうになったときには、父親から「しっかり支えろ」と怒鳴られたと、母親はぼやいていた。
何より先に、両親の共倒れを防ぐ
筆者はリョウヘイさんから相談を受け、取り急ぎ、父親に介護保険の認定を受けさせるように助言した。
何とか両親2人で生活していても、この先、母親も疲れやストレスから「フレイル」状態に陥り共倒れしかねない。
「フレイル」とは、わかりやすく言えば「加齢により心身が老い衰えた状態(虚弱)」のことだ。多くの高齢者は、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられている。早くフレイル状態であることに気づき、治療や予防をすることによって自立した生活を長期に続けることができる。
リョウヘイさんの両親も、2人だけで悶々としているのでなく、うまくサービスを利用すれば元の状態に戻れる可能性はある。少なくとも、両親の共倒れは避けたいところだ。
介護保険を「代行申請」する
本来、介護保険の申請は、本人や家族が行うが、「代行申請」という方法もある。地域には高齢者の総合相談窓口の役割を担う「地域包括支援センター」があり、依頼すれば無料で行ってくれる。だいたい中学校区に1カ所整備されており、住所地ごとに管轄のセンターが決まっている。所在地については、役所に聞けば教えてくれる。
早速、リョウヘイさんは「地域包括支援センター」に電話して、両親の事情を話した。職員が実家に行って様子を確認のうえ、介護保険の申請を行ってくれた。そして、父親は「要支援2」と認定されて、デイサービスに通うことになった。デイサービスセンターで入浴できるので、母親の負担はいくぶん軽減した。父親がデイサービスにいっている間、休息もできる。
最期まで、自宅で住まい続けられるのか
地域包括支援センターの職員の勧めもあり、介護保険の住宅改修を使って、トイレの段差撤去と、手すり設置を行うことになったという。しかし、当面はそれで乗り切れても、長期スパンで考えると、「不安が残る」とリョウヘイさんの表情は相変わらず冴えない。介護保険で利用できる住宅改修は20万円が上限だ。老朽化している住まい全体をリフォームできるわけではない。
リョウヘイさんの悩みをまとめると以下の通りだ。
- 住まい全体を本格的にリフォームするには、それなりに費用がかかる。
- 費用をかけても、生活の足(車)がなくなり、老々介護で住まい続けることができるのか。
- 住まい続けることが難しいなら、いつ、どのような段階で、どこに移るのか。
ずっと今の自宅で暮らし続けたいと考えているなら、安心、安全な住まいにリフォームすることも選択肢となるだろう。まだ70代の母親にとっては、余命は30年とも考えられる。思う以上に老後は長いのだ。
父親が車を運転できないのなら、宅配してくれるスーパーや、訪問診療をしてくれる診療所などの情報を集める必要もあるだろう。しかし、トイレに1人で行けなくなるくらい状態が悪化した場合は? 父親に限った話ではなく、母親が倒れることもないとは言えない。老いた親が老いた配偶者を看るには限界がある。
親と「同居」という選択肢はあるか
リョウヘイさん自身も両親と「同居」という選択肢があるのかどうか、を考えておく必要があるだろう。
しかし、これまで筆者は多くのケースを取材してきたが、「呼び寄せ」にしろ、「Uターン」にしろ、仕事や現在の家族の意見も考慮すると難しいケースが多い。親の多くも、住み慣れた土地を離れて子どもと同居することを望んでいない。
そう考えると、老々介護の限界が来たら、「施設」や「高齢者住宅」へ入居する確率が俄然高まる。いつか「入居」を検討するなら、いっそ身の回りのことができるうちに両親、揃って移るという選択肢も浮上する。
ただし、身の回りのことができるときに入居する施設や高齢者住宅は「住宅型」と呼ばれ、介護度が重くなると、住まい続けることが難しくなるところが多い。再度「移る」ことが億劫ならば、介護度が重くなっても住まい続けることができる施設や高齢者住宅を選ぶ必要があるだろう。このあたりのことは、物件ごとに対応が異なるので、見学時などに確認することが不可欠である。
今のうちに、親子の信頼関係を築いておく
将来のことをプランしておこうと考えても、実際に、親がどういう状態になるかを想定することは難しい。誰もが寝たきりになるわけでもなければ、認知症を患うわけではない。
しかし、その時は突然やってきて、考えるゆとりはない場合が多いのだ。だからこそ、親本人は将来のことをどのように考えているのか希望を聞いておきたい。とはいえ、聞いても、本音を話してくれるとは限らない。信頼関係があってこそ、本当の気持ちを口にしてくれるのではないだろうか。
本人の意向が分かっていれば、今から、少しずつ情報を集めることもできる。その時がきたら、その方向で介護の専門家や医師と相談して検討することも可能だ。見通しが立てば、リョウヘイさんの気持ちも軽くなるだろう。
また、リフォームにしろ、施設や高齢者住宅に移るにしろ、費用はかかる。親と話し合う中で、予算を聞くことも大切だ。月々の年金や預貯金がどれほどあるのか。突然、お金のことを切り出せば、「財産を狙っているのか」と怒り出す親もいる。
繰り返しになるが、「この子は、自分たちのことを心配して聞いてくれている」と思ってもらえるような信頼関係を築いておくことが重要なポイントとなる。親子の信頼関係を築くためにも、時には第三者を介した方が親子互いの本音を引き出せる場合もある。今後、どこでどのように暮らすのか、身近な相談サービスを上手に活用するのも一案だ。