【ハレの日の器のおもてなし】謳歌する「写し」の美

日本の伝統文化の特選サロンとして、絵画、陶磁器、竹・漆・木工、染織などを紹介してきた『銀座一穂堂』オーナーの青野惠子さんは、日々、人の心を鷲づかみにするような本物の作品を探し求めて、意欲的に活動している。そんな青野さんに、ハレの日にこそ使いたい上質な器を紹介していただいた。

主役になる琳派の大鉢


『銀座一穂堂』の青野惠子さんがギャラリーのオープンを決心したのは、「日本人を美しいモノで、文化で元気にしたい」と思ったからだという。「美しいモノには力がある」と信じて日本中に足を運び、自らの審美眼を頼りにアーティストや職人たちがつくりだす絵画、焼きもの、木工、漆、染織など発掘してきた。

そんな中で出会った一人が、陶芸家・田端志音(たばた・しおん)さんだ。田端さんは、日本一の茶道具商『谷松屋戸田商店』に勤め、最上級の名品に触れてエッセンスを学び、日本料理『吉兆』の創始者である湯木貞一美術館の立ち上げにも携わったという経歴の持ち主。45歳から独学で作陶を始め、江戸中期の陶工・尾形乾山、野々村仁清、北大路魯山人の写しにも精力的に取り組んでいる。

ギャラリーの床の間に無造作に置かれた、琳派の観世波を銀彩や金彩で描いた「銀彩観世波大鉢(ぎんさいかんぜなみおおばち)」はインパクトがあり、圧倒的な美しさで目を引く。氷を敷き詰めて小さなガラスのぐい吞みを挿して「寄せ盃」にしても、また、お菓子を盛り込んで取り鉢にするのも一興。大切なハレの日に、こんな大鉢がひとつあるだけで華やぎが生まれる。家族でさまざまなアイディアを出し合って、おもてなしの演出を考えるのも楽しいだろう。

奥:銀彩観世波大鉢/田端志音・作/79万2000円。手前:金彩観世波大鉢/田端志音・作/55万円。
水を張り、桜の花びらを浮かべる。華やかに、あでやかに。揺れて浮かび上がる観世波の織りなす世界に酔いしれる。

花びらを浮かべて、季節の彩りを

「日本独特の琳派の大鉢に水を張り、春は桜の花びら、秋には紅葉を浮かべて四季を楽しむのもいいものです。一見、お料理に使うにはもったいないような気がしますが、たとえば枇杷など季節の果物をコロコロと盛り込んで、パーティーのときにお出ししたら、ものすごく綺麗だと思います。海外の方にもきっと喜ばれるはずです」と青野さん。
 
日本特有の芸術「写し」を得意とする田端さんは、実際に対面した名品をスケッチし、手控え帖に写し取っていくことで、そのエッセンスを自分のものにしてきた。

2024年4月に刊行された田端志音『志音手控え――野村美術館館蔵名品』では、そんな作家の内側を垣間見ることができる。ひとつの器との出合いから、さらに豊かな美の世界が広がる。ハレの日のおもてなしの話題に華を添えてくれることだろう。

お話を聞いたのは●青野 惠子さん

あおの・けいこ/幼少の頃から日本舞踊をはじめ、日本文化に触れて育つ。物理学者と結婚し、アメリカに2年間滞在。海外から母国を見つめ直し、日本文化の素晴らしさを再発見する。1995年の阪神大震災、地下鉄サリン事件、日本の経済も安全神話まで無くしつつある中、翌年の96年に「日本には文化がある」と、新高輪プリンスホテル内に『ざくろ坂ギャラリー一穂堂』を開設。2001年に銀座、08年にはニューヨークで『一穂堂』をオープンした。才能ある現存作家を発掘し、国内外へと送り出している。

『銀座一穂堂』

東京都中央区銀座1-8-17 伊勢伊ビル3階
TEL:03-5199-0599
営業時間:11時~18時
休:月曜 ※予約制
https://www.ippodogallery.com/

取材・文●瀬川 慧 撮影●大山 裕平(2024年9月掲載)

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