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現代人の9割はうまくできていない! 心も身体も元気になる呼吸とは?

私たちが日々、無意識に行っている呼吸は、心身の健康と深く結びついている――。その事実が科学的に証明されて久しく経ち、今ではさまざまな呼吸のメソッドが存在します。ただ、それらに取り組む以前に「人間が本来行うべき呼吸ができずに、心身の不調を招いている人は多い」と、呼吸コンサルタントの大貫崇さんは話します。心身の健康に欠かせない「きほんの呼吸®」について教えていただきました。

“赤ちゃんの呼吸”を忘れてしまった現代人

現代人の9割は、呼吸がうまくできていない……。

そう聞くと、驚く人もいるかもしれません。私は10年以上、スポーツ選手から医療の専門家まで幅広い人々の呼吸をみてきましたが、そのほとんどが、赤ちゃんがするような人間にとっての自然な呼吸ができていませんでした。ある研究でも「日本のアスリート約1900人のうち、きちんとした呼吸ができている人は約1割にとどまった」とされています。もはや日本人にとって、呼吸がうまくできないのが当たり前となっているのです。

しかし、本当にそれでいいのでしょうか。人間は1日におよそ2万~2万5000回もの呼吸を行います。その質が、日々の健康に大きく影響するというのは想像に難くないはずです。

例えば、呼吸とメンタルとの間には深い関連があると科学的にも証明されており、ゆっくりとした呼吸はうつ病や不安、睡眠障害などに有意にポジティブな影響をもたらすといった報告もあります。フィジカル面で言っても、無理な呼吸をしていれば肩や腰など身体の各所に負担がかかり、呼吸を変えたらコリや痛みが和らいだという事例には事欠きません。また呼吸が整えば、体幹が整うので身体がよく動くようになり、パフォーマンスが上がる、怪我をしづらくなるなどのメリットもあります。

呼吸をただ本来のやり方に戻すだけで、心身が今よりもずっと元気になり、誰でも簡単に、道具に頼ることなく続けられる。これが私が「きほんの呼吸」をおすすめする大きな理由です。

息を吐き切る「きほんの呼吸」で、自律神経が整う

結論から先に言うと、現代人の呼吸におけるもっとも大きな問題点は「息をきちんと吐き切れていないこと」にあります。

呼吸の働きについて説明すると、息を吸う動作は、酸素を取り込んでその後の行動に備えるもの。それにより身体の自律神経は交感神経が優位の状態となり、緊張感が高まって活動的になります。したがってストレス下や緊張状態にあると、人の呼吸は自然に浅くなり、息を吸う回数が増えます。反対に息を吐く動作は、自律神経を副交感神経が優位の状態にして身体をリラックスさせるもの。深呼吸をすると気持ちが落ち着くのは、息を長く吐き出すことで副交感神経が優位となり、緊張が解けるからです。

こうして吸う・吐くのバランスが取れていると、自律神経もまた正常に機能します。それが本来の呼吸のあり方、つまり「きほんの呼吸」なのです。しかし先ほど述べた通り、現代人は息をきちんと吐き切れていないことがほとんど。その原因はさまざまですが、例えば1日中仕事でストレスに晒され、しかもパソコンやスマートフォンを見っぱなしで、神経が休まる暇がなく、常に身体が臨戦態勢を保とうとする結果、呼吸が浅くなっている可能性があります。

息を吐き切れないままだと、常に肺には空気が残った状態で、一度の呼吸で取り込める酸素量もおのずと限られます。そうして酸素が不足する分、身体はこまめに息を吸うようになり、結果として自律神経がさらに乱れ、心身の不調を引き起こすのです。

1分間に6回の呼吸数が理想?「きほんの呼吸」が身につく方法

「きほんの呼吸」の前提となるのが、息を吐く際にできるだけ空気を残さず吐き切ること。

きちんと息を吐き切るようになると、必然的に呼吸の回数が減ることがわかります。ある研究では1分間の呼吸数を6回まで減らすことで、血圧や心拍数が下がり、ストレスが減ると指摘されています。ただ人によっては難しいので、まずは1分間の呼吸数を日常的に10回以下にするのを目指したいところです。

また1回1回の呼吸では、できるだけ吐く時間を長くとるのがポイント。息を吸うのは鼻、吐くのは口で行うのを意識すれば、より長い時間をかけて息を吐くことができます。例えば、2秒で息を吸ったら、6秒かけて吐き出すなどゆっくりと行います。

このような「きほんの呼吸」を日常的に行えるようになる方法をお教えします。膝を立てて仰向けに寝転んだ状態で行うので、寝る前に実施するのがおすすめです。

■「きほんの呼吸」習慣化のための4ステップ

①自分の呼吸をチェック

まずは自分が「きほんの呼吸」ができているのかチェックしましょう。1分間の呼吸数を数えつつ、肋骨に手を添えてください。肋骨が飛び出て山のようになっていたり、みぞおちを頂点とする肋骨の左右の開きが90度以上になっている(肋骨の間に本のような直角になっているものを当てるとわかりやすい)と横隔膜が十分に動かない呼吸が習慣化し、呼吸が浅くなっている可能性があります。

②「きほんの呼吸」を行う

お腹と胸に手を当てて「きほんの呼吸」を意識して長く吐く呼吸をしましょう。お腹と胸どちらか一方ばかり動いている状態なら、息が吐き切れていないと言えます。しっかりと吐き切れていたら胸とお腹がシンクロしてくるので「きほんの呼吸」のための肺や横隔膜の使い方が実感できます。

③固まった筋肉をほぐす

おへそを凹ませることで息を吐こうとする人がいますが、これでは息は吐き切れません。胸が動かないので肺から空気が出ず、肋骨の間にある筋肉が収縮した状態が続いて固まりがちです。そんなときはみぞおちに両手の人差し指や中指をあて、肋骨をぐっと押し上げるようにぐりぐりとマッサージしてください。腹直筋が弛緩しやすくなって楽に息が吐きだせるようになります。

④エクササイズ


背中はつけたまま踵をぐっと下に引き込むよう力を入れます。両手を真上に伸ばしながら息を吐き切ります。踵は引き込んだまま鼻から息を吸って両手をさらに天井の方に伸ばしていきます。こうすると肋骨を下げながら息を吐きやすく、吸うときも下がったまま吸えるので、本来の呼吸で活用すべき筋肉がうまく使えるようになります。

このように①~④を繰り返してみてください。継続するうちに自然と「きほんの呼吸」が身につくでしょう。


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お話を聞いたのは●大貫 崇さん

おおぬき・たかし/呼吸コンサルタント・アスレティックトレーナー。フロリダ大学大学院で応用運動生理学を修了後、アスレティックトレーナーとしてMLBテキサスレンジャース、NBA D-Leagueやアリゾナ・ダイアモンドバックスを経て2013年に帰国。現在は、BP&CO.代表、大阪大学医学系研究科健康スポーツ科学講座スポーツ医学教室特任研究員。京都にて日本で唯一となる「呼吸専門サロン ぶりーずぷりーず」(www.bpand.co/breatheplease)を主宰している。著書として、『きほんの呼吸』(東洋出版)や『「呼吸力」こそが人生最強の武器である』(大和書房)などがある。
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