お話を聞いたのは●渡辺一也さん
バーテンダー/京王プラザホテル 料飲部 エグゼクティブアドバイザー
1961年生まれ。京王プラザホテルへ入社後バーテンダーとして働き始める。入社6年目に大手飲料メーカー主催のカクテルコンペティションに初出場で優勝し、その後もコンペティションで記録を残す。2005年に「東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞」を受賞、2006年に日本ホテルバーメンズ協会会長就任、2011年に厚生労働省「卓越した技能者(現代の名工)」受賞、2012年にシャンパーニュ騎士団シュヴァリエ認定、同年にバーテンダーとして初めて黄綬褒章を受章。監修本に『カクテル完全バイブル』(ナツメ社)など。
好みに合わせて無限に味を作り出せる。それが、カクテルの魅力
渡辺一也さんがカクテル作りで惹かれたのは、短い時間で自分の思いやこだわりをグラスの中で表現していくという点だった。
「きっかけがカクテルのコンペティションを見学したことだったので余計にそう感じられたのかもしれません。素材にこだわって、グラスにこだわって、演出にこだわって、トレンドなども取り入れながら創造性を追求することが、おもしろく感じられました」
渡辺さんの探究心を刺激したカクテルの世界。王道のカクテルレシピはあれど、その魅力は無限に好みを追求できることだという。
「カクテルは2つ以上の飲み物を混ぜたもの。そういう意味では、種類は無限にあると言えます。自分や相手の好みに合うものを見つけ出すのがカクテル作りの一番の醍醐味ではないでしょうか。また、カクテルにはそれぞれストーリーがあります。たとえば、夏に人気のモヒートは常夏のキューバでヘミングウェイが好んで飲んでいたものですが、彼はどんな気持ちで飲んでいたのだろうか、などとストーリーを想像しながら1杯を飲むと、味わいに深みが増す気がしますね」
雰囲気のよいバーでプロに作ってもらうカクテルは格別だが、自宅は自宅で、自分好みのカクテルを追求するにはもってこいの場所とも言える。
まずはベースのお酒を買って、自分の好みを追求しよう
まず初心者がそろえるべきは、素材だ。最低限ベースとなる酒に、水やソーダがあればカクテルは作れる。あとは飲みたいカクテルに合わせて素材を増やしていけばいい。
「ラム、ウォッカ、ウイスキー、ジンなどの蒸留酒は定番のベースです。お酒に強くない人は、カンパリやカシスなどのリキュールを用意するといいでしょう。先ほども言いましたが、2種類以上の飲み物を混ぜればカクテルです。最初は、ベースのお酒やリキュールを水やソーダで割るところから始めてみてください。そのうち、どんなウイスキーがいいとか、どんな配分がいいとか、グラスはどういう形がいいとか、どんな果汁を合わせるのが好きかとか、どんな雰囲気で飲みたいとか、自分なりのこだわりが出てくると、カクテルも個性的になっていくと思います。」
簡単に始められて、追求しがいのあるカクテル。時節柄、また生活環境の変化でなかなか外に飲みに行けずにいる人は、本格的に自宅でカクテル作りを始めてみてはどうだろうか。
直伝レシピ① シンプルだけに奥が深い王道「ギムレット」
レイモンド・チャンドラーの小説に出てくる主人公のセリフで有名なジンベースのカクテル。名前を聞いただけで、ダンディな探偵がバーで味わう姿が目に浮かぶ人も多いだろう。ギムレット(工具のキリ)の名前の通り、キリっと鋭い味わいが楽しめる。
<材料/1杯分>
ドライジン 45ml(大さじ3)
ライム果汁 15ml(大さじ1)
ロックアイス 適量
<手順>
- シェーカーによく冷えたドライジン、ライム果汁、ロックアイスを入れる。
- シェーカーを15回(往復)程度ふって、カクテルグラスにそそぐ。
ドライジンにしぼったライムを加えてシェイクするという、シンプルかつ深いカクテルだ。シンプルだけに、ちょっとした環境や素材の違いが、味わいに変化をもたらすという。
「振り方や素材だけでなく、湿気や気温の違いで味に変化が出るカクテルなので、それを楽しみに毎度注文するお客様もいらっしゃいます」
ポイントはシェーキング。シェーキングの役割は、混ざりにくい材料を混ぜたり、カクテルを冷やしたり、アルコールの角を取って味をまろやかにしたりすること。初心者には難しいシェーキングだが、コツを教えてもらった。
「ふたを押さえ両手でしっかり持って、シェイカーを手前から奥へ振るようにします。手首のスナップが自然とききますから、それで十分に混ざります。あとは、小さめのシェーカーを選ぶことですね。プロ用の大きなものだと振るのが難しくなると思います」
直伝レシピ② フルーティな「スイカのソルティドッグ」
ユニークな名称の由来は「船乗り」を指すスラングだという、塩みがポイントの人気カクテル。ウォッカにグレープフルーツの果汁を合わせたものが一般的だが、夏らしいスイカを使ったレシピを教えてもらった。塩×スイカの相性の良さが引き立つ1杯だ。
<材料/1杯分>
ウォッカ 45ml(大さじ3)
スイカ果汁 135〜180ml程度(ウォッカの3、4倍)
レモン(またはレモン果汁) 適量
塩 適量
ロックアイス 適量
<手順>
- グラスの縁をレモンでなぞってしめらせ、塩を付ける。塩は皿にならして、グラスを逆さまにして押し当てる。
- グラスにロックアイスを入れる。縁に当たらないように注意する。
- ウォッカを入れてから、スイカ果汁を入れる。
- 軽くかき混ぜる。
「甘みのあるおいしいスイカを選ぶことがポイントですが、甘みが少ないようならシロップなどで甘みを足してみてください」
スイカの果汁は、タネを取ってしぼり器でしぼる。ミキサーを使ってもいいが、その場合果肉が残らないようにこし器でこすようにすること。
「グラスはどんな形状でも大丈夫ですが、丸みのあるものだと香りも存分に楽しめます。氷はかたく、よく冷えたものを使うこと。水っぽくなる前に早めに飲みきるのがおすすめです」
直伝レシピ③ ヘミングウェイも愛飲した爽やかな「モヒート」
キューバ・ハバナ発祥のミントとライムの香りが爽やかなラムベースのカクテル。文豪のヘミングウェイがハバナのとあるバーのモヒートを好んで、店に通っていたのは有名な話だ。常夏の町に合う爽快感たっぷりのカクテルは、キューバ音楽をBGMに楽しみたい。
<材料/1杯分>
ホワイトラム 45ml(大さじ3)
ソーダ 少量
シュガーシロップ 10ml(小さじ2)
ライム 1/2個分
ミントリーフ 10〜15枚
クラッシュドアイス 適量
<手順>
- グラスにソーダを入れ、ミントリーフを2枚ほど残してペストル(なければ細めのすりこぎや柄の長いスプーン)で優しくつぶす。
- ライムの果汁としぼった果肉部分を皮ごとグラスに入れ、少しつぶす。
- ホワイトラム、シュガーシロップを加え、クラッシュドアイスをグラスの8割程度まで入れる。
- グラスの底から持ち上げるように10回ほど混ぜ、最後にミントの葉を飾る。
「ポイントは生ミントをたっぷり使用することと、すりつぶしすぎないことです。すりつぶしすぎると生ミントのえぐみが出てきてしまうので、優しく均等に押すイメージで、葉の形が残っている状態がベストです。ミントの種類によって味わいが変わるので、いろいろと試していただくのもいいと思います」
そのままグラスへ入れるライムにもこだわりたい。皮がゴツゴツしておらず、つやつやしたものは果汁が出やすくおすすめだ。
また、クラッシュドアイスを使うのもポイント。混ぜやすく、カクテルが冷える時間を短縮できるためだ。見た目にも涼しげな演出ができる。クラッシュドアイスは、製氷機で作った氷を布で巻いて叩いたり、市販の氷を袋ごとすりこぎなどで叩いたりして作ることができる。