デンマーク家具の黄金期から長く活躍したデザイナーの代表作
まるで美しい貝殻のような印象的なスリットが背もたれと座面に入っている「トリニダードチェア」。
「デンマーク家具界の黄金期である1940年代から、数少ない女性デザイナーとして輝きを放ったナナ・ディッツェルの作品です。ナナは家具のほかにもアクセサリーやテキスタイルを手がけ、色彩にも造詣が深いデザイナーでした。80歳近くまで現役として活動し、1995年にはデンマーク王室から勲章が与えられ、デンマークで女性デザイナーの地位向上に務めた人物でもあります」と椅子研究者の西川栄明さん。
世界各国にその名を轟かせ、地位も名誉も得た晩年のナナがデザインした椅子が「トリニダートチェア」だ。カリブにあるトリニダード・トバゴの伝統的な透かし彫りからインスピレーションを受けたとされるスリットの入れ方だけでなく、なだらかな曲線を描く背もたれの形も相まって、とても柔らかかつ繊細な印象を与える。
トリニダード・トバゴに生息する極楽鳥をイメージ

「トリニダードチェア」は、陽差しが当たれば、その影すらも美しく壁や床に映し出される。トリニダード・トバゴに生息する極楽鳥をイメージしてデザインされた造形は、まるで極楽鳥が求愛するときに広げた羽の形のよう。
西川さんの家でも、「トリニダートチェア」は活躍しているという。
「その美しい佇まいを妻が気に入って我が家でも10年以上愛用しています。アームレスタイプとアーム付きを2脚ずつダイニングに置いています。ただ、背もたれによくお手拭きをかけて、妻に怒られるんですよ」と西川さんは笑う。こんなに美しい椅子に何をしてくれるんだという思いに共感するが、「つまり、肩肘張らずに使える、生活に溶け込む椅子でもあるということ。それはとても素晴らしいことですよ」と西川さんは説明する。
「トリニダードチェア」の魅力は、デザイン性だけではない。背もたれが身体を優しく包み込むので、座っていて安心感を得られるということも、多くの人が評価するポイントだ。またアームレスタイプはスタッキングも可能で、片付けて空間を広々使うことも簡単。座ってよし、眺めてよし、片付けも簡単という、三方よしの椅子なのである。

お話を聞いたのは●西川 栄明さん
にしかわ・たかあき/編集者。椅子研究者。椅子や家具に関すること、森林や木材から木工芸に至るまでの木に関することなどを主なテーマにして、編集執筆活動を行っている。著書に「新版 名作椅子の由来図典」「樹木と木材の図鑑-日本の有用種101」など。共著に「名作椅子の解体新書」「Yチェアの秘密」がある。
【販売ストア】
H.L.D.ONLINE STORE
https://hld-os.com/shopdetail/000000000745/
文●柳澤 美帆 画像提供●H.L.D.ONLINE STORE(2024年11月掲載)
- 本記事の内容は掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。