土地の魅力を最大限に引き出した幸せな建築

設計を手掛けた三菱地所設計の石井邦彦さんと、施工を担った竹中工務店の西居昭彦さんの案内で〈ザ・パークハウス グラン 千鳥ヶ淵〉の見学をする前田紀貞さん。設備フロアを覗き込んだり、見過ごしてしまいそうなディテールについて質問を投げかけたりと、建築家ならではの鋭い視線が建物の内外に隈無く向けられた。同じプロとして、〈ザ・パークハウス グラン 千鳥ヶ淵〉をどのように捉えたのだろうか。

――見学を終えてみていかがでしたか。

前田紀貞(以下、前田) いわゆる高級マンションと呼ばれる建物は数々ありますが、実際にそう呼べるだけの空間の質を備えた建物は、とても少ないように思ってきました。でもこの〈ザ・パークハウス グラン 千鳥ヶ淵〉は、明らかに〝高級〟と呼ぶのにふさわしい空間の質を持っていました。とてもまっとうで、想像以上の出来栄えですね。細かなところまですごくよく吟味され、検証されているのがわかる。どこかツッコミを入れたかったのに、よくできているなあというのが正直な感想です(笑)。

石井邦彦(以下、石井) “まっとう”と言っていただけるのはとてもうれしいですね。この建築では、土地柄を踏まえた正統派のものを作りたいという気持ちが強かったんです。

前田 軸線を意識して、建物を敷地に対して斜めに振ったり、建物の外形が不定形になったりしたと、石井さんに見学中に聞きました。いくつもの軸線を意識するのは、ともすればデザイン上の制約になりかねないことですが、ここではそれがすごくいい方向に働いていましたね。たとえばエレベーターを降りて住戸へと至る廊下。ただまっすぐなのではなくて、少し折れ曲がっていたりして、奥へ奥へと歩きたくなる。歩いていて楽しい廊下というのは、そう作れるものじゃないですよ。

石井 それは意識していました。廊下にせよ、共用部にせよ、見え隠れするというか、少しずつシーンが変わっていくほうが魅力を感じるんです。

前田 そういう意味では、回遊式庭園のような感じもありますね。歩き回るにつれて、さまざまな場が現れる。その印象が積み重なって、全体の印象を形作っている。とても日本らしい美意識だと思います。

――ロビーから見える、水の流れる中庭では、ずいぶん長い時間見学をされていましたね。

前田 これもまた、建物を敷地に対して斜めに作ったことで生まれた余白を上手に利用した場所。外の景色とはまた異なるシーンが立ち現れて、建物の魅力が一段と深さを増しますね。音楽でいうならば、主旋律が複数存在するポリフォニーのような魅力です。

石井 施工上クリアすべき点も多かったのですが、日本建築で感じられる自然と室内との一体感を作り出したかったんです。周囲の自然の景色ももちろん素晴らしいけれど、滝の流れは一瞬で気分の変わるインパクトがある。

――共用部や住戸のインテリアにはどんな印象を持たれましたか。

前田 眺望のよさはもちろん、この場の大きな魅力。それが存分に生かされていましたね。敷地の条件がいいからといって、その魅力をきちんと引き出して建物を作るのは、実はけっこう難しいことです。バルコニーからの眺めは、森を見下ろす上層階もいいけれど、木々が目の前に来る低層階もまたいい。それぞれの高さでの楽しみが用意されていました。

――素材使いはどうでしょう?

前田 石にせよ木にせよ、とてもいい素材を使っているし、ごく細かなディテールまで全く手を抜いていない。さすが三菱地所さんだなあと。

石井 確かにディテールの作り方などは、社の伝統という側面もあると思います。基本をしっかりおさえていこうという意識はあります。

前田 建築の設計をしていると、デザイン上でやってみたいことがあっても、メンテナンスや安全性の観点から、やらないほうがベターというときがある。建築は、デザインの美しさだけをなぞってはいけない。もっというならば、デザインばかりを優先した建築には魅力がないと思うんです。この〈ザ・パークハウス グラン 千鳥ヶ淵〉は、表面のデザインを超えた、とても質のいい〝空気〟があると感じました。建築とは床・壁・天井を作るものですが、実際にはそれが囲む空気こそが何より大切なんです。

石井 空間の質ですね。言語化しづらい。でも、そこに思いを馳せることがとても大切だと思っています。

前田 それから、デザインはかっちりとしているのだけど、いい意味での“ボケ味”があるという印象です。たとえばドアの木枠や、バルコニーの庇など、線の重なっているディテール。重なりが陰影を生み、輪郭がにじんでいるような、かすんでいるような印象を受けました。ボケ、にじみ、かすれ。これらはすべて日本独特の感性ですね。

石井 線をずらすことで生まれる陰影のことは強く意識していましたが、そういうふうに言語化することはできませんでした。とても参考になります。

――それらを実現した施工についてはどうでしょう?

前田 本当に細かな作りですから、施工は相当大変だっただろうと思います。設計はもちろんですが、施工も優秀な方々の集まりだったということが、容易に想像できる。僕らが木造2、3階建てを作るくらいの期間で、これだけの規模の建物が、このクォリティで仕上がるんだから!(笑)

西居昭彦 確かに施工者泣かせの難しいディテールの連続でしたが、弊社としても、ほかではあまり使わないようないい素材を贅沢に使っているので、それを生かした作りにしたくなるんです。この現場には、述べ60万時間以上、職人さんの数でいうと述べ約8万人が入りました。その方たちの魂がこもった仕上がりになっていると思います。

石井 設計者、施工者、クライアントが、同じ目線でいいものを目指すことのできる現場でした。チームワークはとてもよかったと思います。

前田 海外で現場を経験するとよくわかるのですが、日本の施工の質の高さは、世界のトップレベル。職人さんの技術が本当に優れています。「日本らしい正統派の建築を」ということをコンセプトに据えたからといって、安易にいわゆる“和”に走ることなく、それが何を意味するのかを咀嚼し、考え方や手法によって表現している。とても幸福な建物ですね。

前田紀貞

建築家。1960年東京都生まれ。京都大学工学部建築学科を卒業後、大成建設設計本部を経て、1990年前田紀貞アトリエ一級建築士事務所を設立。

西居昭彦

株式会社竹中工務店 東京本店 作業所長。1964年大阪府生まれ。金沢大学大学院修了後、竹中工務店に入社。2011年〈ザ・パークハウス 六番町〉新築工事作業所長。

石井邦彦

株式会社三菱地所設計 建築設計住環境部 副部長。1967年神奈川県生まれ。1993年東京理科大学大学院修了後、三菱地所に入社。2001年三菱地所設計。

  • 本記事の内容は2018年6月掲載時の情報となります。情報が更新される場合もありますので、あらかじめご了承ください。

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