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伝説の生活評論家が実践!100歳でも脳がボケない生活術

2019年に101歳で亡くなった「生活評論家」の吉沢久子さんは、主婦としての視点から執筆活動を始め、90歳を過ぎてからも次々に著作を発表し「生活評論家」と称された。生前、交流のあった脳科学者・脳内科医の加藤俊徳さんは「五感をフルに使う、生活習慣にこそ脳を衰えさせない秘密があった」という。

MRI脳画像が証明!96歳でも脳機能は発達する

脳科学者・脳内科医の加藤俊徳さんは、生活評論家の吉沢久子さんが91歳と96歳のときに、脳のMRI画像を撮り、その脳の衰えのなさに驚いたという。

「91歳の時もすばらしい状態でしたが、96歳のときはさらに前頭葉にある思考系の機能が発達していました。その間、吉沢先生は本をたくさん出版されて、それらがベストセラーになっていたんですよね。もちろん、原稿の校正にもすべて目を通し、編集者が見つけられなかった箇所まで指摘していました。そういった脳の発達がMRI脳画像にはっきり表れていました。事実、96歳のときに、私が主催する講演会に出ていただいたら、打ち合わせもせずに2時間、フリートークでお話してくださったんです」(加藤さん)

加藤先生によれば、吉沢さんのような90代後半での脳機能の発達は「めったにない、すごく珍しいこと」ではあるものの、「ただ、脳の仕組みを考えれば、その年齢でも成長できるはずだと考えていたので、まさにその実例を吉沢先生が僕に示してくれた」と運命的なものを感じているという。

“脳を刺激する”8つの生活習慣

吉沢久子(よしざわ・ひさこ)
1918年生まれ。1951年に文芸評論家・古谷綱武と結婚し、その後、生活評論家として本を出す。夫の死後も2019年に101歳で亡くなるまで、老いやひとり暮らしをテーマにたくさんのエッセイを発表。著書に『あの頃のこと 吉沢久子、27歳。戦時下の日記』(清流出版)、『大切なことは時を経ても変わらない』(海竜社)など多数。

吉沢さんが最晩年まで頭脳明晰のまま活躍しつづけられたのは、「五感を使ってしっかりと生活されていたから。ひとりの主婦が一生、元気に生きるための最高の技術を持っておられました」と加藤先生。全身を使って毎日の暮らしを楽しんでいたからこそ、吉沢さんの脳は衰えることのないままだったという。そこで、脳のさまざまな機能を刺激していた吉沢さんの生活スタイルをピックアップしてもらった。

●吉沢久子さんが実践していた“脳を刺激する”生活習慣

1)冷蔵庫や冷凍庫の中身を記憶する
2)観察しながら野菜を育てる
3)面倒なことほど、あえてやる
4)「どんな料理を作ろうか?」とワクワクする
5)不便を感じた時こそチャンス! アイデアを絞り出す
6)人と集まって、様々な話をする
7)毎日、万年筆を使って手紙を書く
8)家事に疲れたら、小さな旅に出る

(加藤俊徳著『脳を鍛えれば、人生が変わる』海竜社 より)

脳の働きの中でも重要なのは「感覚」を司るところで、視覚や聴覚、運動に関わる部分が五感の基になってくるそうだ。

「脳が高度な機能を身につけていくために最初の情報を受け取る最も基本のところです。どの分野でも年齢を重ねてから能力を発揮している人たちの脳を見ると、感覚のインプットが非常に優れていますね。つまり、年を取っても、新しい情報をリフレッシュして入れられるということなんです。これがなくなると、人間は頭の中に入っている情報をいじくるしかなくなって、昔の記憶を思い出す傾向が強くなる。でも、新しい情報を入れられる人は、新しいアウトプットもできる」(加藤さん)

男性は老後に感覚系の刺激がなくなりがち

自宅で野菜を育てたり、花の種を植えたりして、その成長を日々、目で確認する。近所の人とおしゃべりしたり、友達と集まってよもやま話をする(コロナ禍の現在はネット回線越しでもOK)。そして、散歩を習慣にし、ときどきいつもと違うコースを歩いてみる。そうやって感覚を刺激すると、脳が成長し生き生きしていく。そのサイクルを続けることが何よりも重要だと加藤さんは言う。

吉沢さんの著作業の原点ともなった家庭料理も、心から楽しんでいたことのひとつ。誰かが自宅にやってくると、「さぁ何を作ってさしあげましょう」と脳が動き出していたのではと加藤さんは振り返る。

「アイデアがどんどん浮かんできて、料理を作ると思っただけで楽しくなるようでした。楽しくなるのは脳が動いているということで、何かをするとき、脳が動けば工夫もできて楽しめる。逆に言えば、面白くないと感じるなら、それは頭が止まっているからなんですよね。結果的に、吉沢先生のしていた工夫は脳が良く働く工夫で、そういった“楽しい行為”が積み重なり、脳の成長につながっていた」(加藤さん)

リタイア後の夫婦を比べてみると、仕事一筋でやってきた組織人の夫より、吉沢さんのように主婦として料理、洗濯、掃除、地域活動などをやってきた妻の方が生き生きとしているケースが多い。

「大抵の場合、家事を担っているのは女性ですから、仕事のバリエーションで、男性より、女性にはるかに多様性があるんですよね。そして、その多様性の下積みが長ければ長いほど、老後、そこに立ち上がるものも高くなる。私はそれを『脳貯金』と呼んでいますが、脳の中に認知機能の貯えができやすいということです。逆に男性の脳貯金は『仕事の内容や仕方』に偏っていることが多く、感覚系の刺激がノースイッチになってしまいがちです」(加藤さん)

やりたいことをできなかった思いをモチベーションに

老後を元気に過ごすには、男女問わず、やりたいこと、やるべきことを見つけておくことが大切だそうだ。

「家事や子育て、介護などで、やりたいことができなかったという思いをモチベーションにする」ことが肝要。吉沢さんが90代になってから精力的に本を出したのも、「文芸評論家の夫を支えてきたけれど、ご自分も文章で表現することをもっとやりたかったからでは」と加藤さんは言う。

「吉沢先生は僕のような知人、友人への気配りもすばらしく、やはり特別な方です。僕自身、90代になったとき、『あのように、なれるかな』と思うと自信が持てませんが、心がけしだいで近づくことは可能だと思います。しかし、1日ではなれないから、この人生100年時代、40、50、60代の頃から脳を動かすことを意識して、積み重ねていくことが大切だと思います。吉沢先生の生活術を学んで少しでも自分の毎日にとり入れてみてください。そういった先人の教えが一人ひとりの幸福に繋がっていくといいと思いますね」(加藤さん)

お話を聞いたのは●加藤俊徳 医師

かとう・としのり/脳科学者。脳内科医・医学博士。
「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。著書に『脳の強化書』(あさ出版)、『脳を鍛えれば、人生が変わる』(海竜社)、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『名医が実践する 脳が変わる超・瞑想』(サンマーク出版)など多数