レストランのソムリエに導かれた、1杯のワイン
山がちでブドウ園の規模が小さいスイスのワインは地元消費されることが多く、輸出は1、2%ほど。しかし、世代交代した若手生産者らが世界市場を見据えたワインを生み出すようになってきたことでスイスワイン全体が活性化し、高品質スイスワインに世界の注目が集まっています。
そうしたスイスのトップクラスのワインにフォーカスして輸入しているのが、「やまきゅういちスイスワイン」の杉山明美さんです。日本でもだんだんと知られるようになってきたスイスワインの魅力について、杉山さんにお話を伺いました。「やまきゅういちスイスワイン」は、江戸時代天保年間創業の食品原材料商社、杉山商事株式会社(東京都中央区)が厳選した直輸入スイスワインブランドで、現在は13生産者、43アイテムを取り扱っています。
スイスワインを輸入するキッカケは?
実は、そもそもワインに興味がなく、ワインをおいしいと思ったことがありませんでした。まさか今の自分がワインを仕事にしているなんて驚きです(笑)。
結婚後、息子が生まれ、息子が小学校入学までは育児に専念していましたが(ちなみに、幼稚園入園まで住んでいたのが世田谷区のパークハウスでした)、息子の小学校入学を機に大学に復学し、学生生活を送っていました。
その息子が2009年にスイスの高校に入学し、翌2010年、学校のPTAの用事でスイスを訪れる機会がありました。用事まで時間が空いたので、近くのエーグル城(レマン湖東南部エーグルの町にある城)を見学し、ちょうど昼時だったので、城の近くのレストランに入り、本日の定食のスモークサーモンサラダを注文しました。すると、若いスタッフが、「なぜワインを飲まないの?とってもおいしいワインがあるのに」と熱心に勧めるので、じゃあ、1杯だけね、と出してもらったところ、それがあまりにもおいしくてショックを受けました。
それはどんなワインでしたか?
シャスラ種(※)の白ワインでした。こんなにおいしいワインなら日本に持って帰りたい!と思い、どこで買えるの?と尋ねると、「町の店では売っていないよ。生産者のところで直接買っている」と言うのです。どうしてもそのワインが欲しくて、店のストックを譲ってもらえないかとお願いしました。大学ではフランス語を専攻していたため、フランス語で交渉ができたことが幸いでした。OKというので、そのスタッフを信用し、日本に送ってもらうために、送料諸々で2万円渡しました。送ってもらえなくても仕方ないと思っていましたが、後日、本当に荷物が届き、生産者のパンフレットも同封されていました。
※シャスラ(Chasselas)は、長い歴史を持ち、世界中で栽培されているが、特にスイスでは最高の白ワイン用品種として各州で栽培されているブドウ品種。強い個性を持たない故に、それぞれの産地の個性が表現されたワインを造る品種で、特にヴォー州の特定区画で栽培されたシャスラは、最高に凝縮し、長期熟成が可能なワインになる。
それからすぐにスイスワインの輸入を始めたのでしょうか?
ワインに詳しくありませんでしたから、おいしいと思っても、ワインの輸入なんて考えもつきませんでした。それに、今から10年前は、スイスワインはまだまだ珍しかったですから。
でも、次のPTAでスイスに行く際、パンフレットの生産者のアドレスにメールを送ったところ、ウエルカムの返事があり、訪問が実現しました。シャスラのナンバーワンを決める会での講演会を聴く機会もあり、その時に、ワインの品評会に参加しない?と誘われ、品評会で色々な人と知り合うことができました。
この経験がワインの輸入を考える大きなキッカケとなりました。フランス語の文献やインターネット情報を読めたこと、また、食品原材料の会社を経営する夫の「やってみたら?」という後押しもあり、高品質スイスワインの直輸入ブランド「やまきゅういちスイスワイン」を立ち上げました。
スイスワインの魅力とは?
自己顕示欲がなく奥ゆかしい点です。奥ゆかしさは日本人の美意識にも通じる点があります。きちんと育てられたやまとなでしこのように、合わせる相手がきちんとしていれば、ちゃんと合わせてくれます。スイスワインは、静寂、空白の美、透明感があり、清らか、清涼感、そんな印象も感じます。
また、スイスワインはフードフレンドリーで、食中酒として本領を発揮してくれる点もおすすめです。シャスラは特に食材と和するワインで、ほかのワインではなかなか合わせにくい野菜料理にもよく合います。サラダにも寄り添い、白菜のクタクタ煮、寄せ鍋などの鍋物にもお勧めです。もちろん、魚介にも合います。
スイスといえばチーズです。どんなチーズでも合いますが、グリュイエールなどの地のもの同士で合わせるのが定番で、郷土料理のチーズフォンデュに使うのもグリュイエールなどのスイスチーズ。他の国のチーズは使わないのがスイス人のこだわりです。フォンデュのチーズはシャスラワインで溶かすんですよ。
杉山さんにとってシャスラのワインはどういう存在ですか?
シャスラはスイスを代表するブドウ品種です。スイスには「シャスラと恋に落ちた人」という表現があるのですが、私はまさにシャスラと恋に落ちた人です(笑)。シャスラには抗えない魅力があります。我が家のお正月は、シャスラをお屠蘇替わりに飲みます。
スイスでは白ブドウの耕作面積比率が43%、赤ワインが57%です。白ワインの57%がシャスラで、スイスワインの全体比では25%になります。
スイスワインを選ぶ際のポイントは?
スイスの国土は九州くらいの大きさで、ブドウ畑は南部のヴァレー州(アルプス山脈中)とヴォー州(レマン湖北岸)に集中しています。山だらけの国ですから、ワイン産地として秘めた可能性があります。栽培されているブドウ品種は約45あり、スイスにしかない品種も多くあって、大事にされています。
周囲をワイン大国に囲まれているスイスでは、言語や文化が違い、人もワインも食べ物も違います。ヴァレー州やヴォー州はフランス語圏ですが、ドイツ語圏、イタリア語圏のワインもそれぞれの個性があって面白いですよ。スイスワインには、飽きない魅力があります。
ちょっといいことがあった時に開けたいスイスワインを3本選んでいただけますか?
1本目はスパークリングワイン「アンリ・クルション・クール・ド・キュヴェ2013」(左/6,930円税込)です。アンリ・クルションはスイスワインのイコンにも選ばれた象徴的存在の造り手で、当店が扱うメイン生産者です。
2本目はシャスラの白ワイン「シャトー・ラ・バティ プルミエ・グラン・クリュ 2018」(中央/4,400円税込)。ヴォー州のシャスラ100%を使用した、稀少な最優秀格付けの1er Grand Cruワインで、2013年に世界最優秀ソムリエになったスイスのパオロ・バッソ氏が、ベストスイスワインに認定しました。シャスラなら、まずこちらを。
3本目はピノ・ノワール100%の赤ワイン「マリー・テレーズ・シャパ グラン・ピノ・レ・ゼセール 2018」(右/7,920円税込)。スイスでは黒ブドウの48%がピノ・ノワールで、全体の比率は27%。スイスを代表する赤ワイン、ピノ・ノワールの優秀な造り手です。
特にどんな方にスイスワインを楽しんでもらいたいですか?
前に百貨店で試飲販売をした時、シャスラを口にしたお客様が「これワインじゃないよね?なんていう飲み物?ワイン?いや、違うでしょ?」と仰ったんです。それこそ私がエーグルのレストランで初めてシャスラを飲んだ時に思ったことでした。
スイスワインは、色々なワインを飲んできて何でもわかっている方、自分が本当においしいと思うワインを飲みたい方、自分が気に入ったものを楽しめる方に、ぜひ飲んでいただきたいワインです。そう思って探し歩き、輸入し、販売しています。
※「やまきゅういちスイスワイン」のサイトのほか、都内では新宿伊勢丹、カーヴ・ド・リラックス、ヴァン・シュール・ヴァン、エノテカで、関西では京都伊勢丹などで販売
杉山さんのお話を聞き、今すぐにでもスイスワインが飲みたくなりました!
素敵なお話をありがとうございました。
聞き手:綿引まゆみ(ワインジャーナリスト)
写真:大村洋介
お話を聞いたのは●杉山明美さん
杉山商事株式会社取締役。やまきゅういちスイスワイン担当責任者。青山学院大学経営学部経営学科、同大復学後に文学部フランス文学科卒業。上智大学大学院 文学研究科フランス文学専攻修士。
杉山商事/やまきゅういちスイスワイン
https://yama91swisswine.com/