そもそも「麹」とはなんなのか?
麹とは、米、麦、大豆などの穀物に「麹菌」という微生物を繁殖させたもので、日本の代表的な発酵食品である味噌や醤油、みりん、酢、日本酒、焼酎などに使われている。発酵によって保存性が高まるとともに、発酵する際に生まれる酵素によって、デンプンやたんぱく質が分解されアミノ酸などのうま味物質、ブドウ糖やオリゴ糖、ビタミン、ミネラルなどの栄養素が作られる。
さらに、オリゴ糖をエサに善玉菌が増えることで腸内環境が整い、免疫力アップや健康増進、抗酸化作用などが期待されている。美容と健康にいいとして、麹、そして発酵食品が注目されているのは、このためだ。
「物心つく前から麹が身近だった」料理家・真藤舞衣子さんと麹
真藤さんと麹の“出会い”は、物心がつくよりもずっと前。おばあさまと一緒に自宅で作っていた甘酒が始まりだとか。
「羽釜に米麹と炊いたおかゆを入れて毛布でくるみ、一晩こたつに入れておくと、翌朝には甘酒が出来上がっていました。甘酒は家で作るのが当たり前で、買ってくるものではなかったんです」
甘酒には米麹から作る甘酒と、日本酒を作るときに出る酒粕から作る甘酒の2種類がある。砂糖を加えて甘さを出す酒粕甘酒と違い、米麹甘酒の原料は麹と水のみ。発酵の段階で米のデンプンが糖化して自然の甘味が増していく。真藤さんは、甘酒の種類に違いがあることも知らなかった子どもの頃から、おばあさまが作った甘酒の優しい甘さが好きだったという。
麹が身近にある環境で育ったせいか、いつの頃からか、気づけばいろいろな料理に麹を使うようになっていた。
「味に深みが出るんですよね。例えば、大根を甘麹でもんでべったら漬けにしたり、ご飯と塩、麹を混ぜたものに野菜を漬けて三五八(さごはち)漬けにしたり。甘麹は砂糖代わり、塩麹は塩代わりの調味料として自然に使っていました」
ちなみに、甘麹は、米麹に水を加えて60度で6~8時間保温し、発酵により糖化させたもの。甘酒の素でもあり、ここにお好みで水を加えれば甘酒になる。塩麹は、麹に水と塩を加え、1日1回かき混ぜながら1週間ほどおくとできる。どちらもスーパーで売られている乾燥麹を使えば、簡単に作ることができる。
真藤さんの祖母が作っていたのは、お粥を炊いて米麹と合わせたものだったが、その手間を省いた甘麹の作り方を教えていただいた。
発酵研究家、料理家の真藤舞衣子さん。会社員を経て、京都の大徳寺塔頭(たっちゅう)にて1年間修業ののち、フランスへ料理留学。近著『つくりおき発酵野菜のアレンジごはん からだ整のう腸活レシピ』(主婦と生活社)ほか、著書多数。また、雑誌、料理教室、講習など多方面で活躍中。
乾燥麹の「みやここうじ」。スーパー等でも入手しやすく、使いやすいのでおすすめ。
甘麹の作り方
優しい甘さが魅力の甘麹は、乾燥麹と水さえあれば、家庭でも簡単に作ることができる。瓶詰めにして冷蔵庫で保管すれば、1週間は持つ。使いきれない場合には、冷凍しておけばいい。
【材料】
乾燥麹(みやここうじ)……200g
水……400㎖
① 乾燥麹を手のひらで揉み合わせたりしながらよくほぐす。
② これぐらい米粒状になるまでしっかりとほぐしておくことが大事。
③ 水を注ぎ入れる。麹がしっかり水に浸るように、水分量は加減する。
④ このように麹全体にまんべんなく水が行き渡ればOK。
⑤ 60℃で保温しながら、ひと晩(6~8時間)温める。途中で軽く混ぜよう。温度が低いと発酵が進まず、熱すぎると麹菌が死滅してしまうので、温度管理が一番のポイント。真藤さんは鋳鍋で作っているが、写真のように、④を炊飯器に入れて〈保温〉スイッチを押し、上に畳んだ布巾をかけて蓋を開けておくと、だいたい60℃がキープされる。蓋を閉めると60℃以上になってしまうので注意。ヨーグルトメーカーがあれば、温度管理がより簡単だ。
⑥ 甘麹の完成。
手軽に使うためのワンポイントアドバイス
ただ、これだけだと麹には、米粒が残っている。毎日の生活の中で麹を手軽に使うための工夫として、真藤さんがおすすめするのが、出来上がった甘麹をミキサーにかけてペースト状にしておくこと。
ペースト状にした甘麹は、瓶に詰めて冷蔵庫で保管しているが、使い切れないときにはジップロックに入れて冷凍しておく。
「こうしておくと、使うときにジップロックに入れたままパキッと折って必要な分量を出せるので便利なんです。お湯を注ぐか電子レンジで温めれば、すぐに使えます」
肉や魚は塩麹に漬け込んでから焼くとうまみが増し、ふっくら柔らかくジューシーに仕上がる。これも、たんぱく質を分解する酵素の力による。
「塩麹もペースト状にして使うのがおすすめです。肉や魚に浸透しやすいうえ、焼いたときに焦げにくくなります」
甘くなりすぎない! 甘麹の使い方いろいろ
甘麹は、下記レシピにあるスムージーやキャロットラペのほかにも使い方はさまざま。「ココアや抹茶、豆乳、アーモンドミルクなどに砂糖代わりに甘麹を入れたり、ジャムの代わりにヨーグルトにかけたりしてもおいしいですよ。夏には甘麹とフルーツをミキサーにかけて凍らせておき、アイスとして食べています。キムチの元となるヤンニョムを作るときには、砂糖の代わりに甘麹を使っています。そうすると上新粉と砂糖でキムチ糊を作らなくてもいいんです。甘麹がいいのは、分量が適当でいいところ。たくさん入れても砂糖のように甘くなり過ぎることがありません」
甘麹を使って①「小松菜とバナナの甘麹スムージー」
【材料と作り方(2人分)】
甘麹……100㎖ ※1人分=50㎖
小松菜……50g(ひと茎分)
バナナ……1/2本
水……大さじ2~3
小松菜とバナナはざく切りにし、甘麹、水と合わせて、ミキサーやブレンダーで滑らかになるまで攪拌する。
甘麹を使って②「甘麹のキャロットラペ」
【材料と作り方(2人分)】
にんじん……1本
甘麹……大さじ1.5
塩……小さじ1/2
酢……小さじ2
大葉……5枚
太白胡麻油……大さじ1
にんじん、大葉はせん切りにする。にんじんをさっと湯通しし(または600Wの電子レンジに1分でもいい)、水気をしっかり絞る。材料すべてを和えれば完成。
健康な暮らしのために! 発酵食品と上手に付き合おう
実は近年、健康と美容によい食品として、フランスでは日本の発酵食品がブームとなっている。スーパーでは味噌や醤油だけではなく米麹まで売られ、味噌屋を始めたフランス人までいるのだとか。真藤さんは昨年、パリで開かれたワークショップでひよこ豆の水煮を使った味噌作りや、発酵レモンなどの発酵調味料を紹介してきたが、その関心の高さにブームの一端を垣間見たという。
発酵食品への注目が高まることを歓迎する一方、真藤さんは、発酵食品を食べておけば健康になるという安易な考え方があることも気になっているとして、こう語った。
「健康な生活を送るためには、バランスのよい食事をよく噛んで食べること、適度な運動と睡眠が大切です。その中の一つとして、発酵食品を継続して楽しく食べてもらえたら」
とはいえ、子どもの頃から風邪知らず、花粉症知らずだという真藤さん。
「腸内環境が整っていると免疫力がアップするというから、これは子どもの頃から発酵食品を食べてきたおかげだと、密かに思っています」
取材・文●油科真弓 撮影●尾嶝 太(2024年5月31日掲載)