子ども部屋には、いろいろな形があっていい
「リビング学習」という言葉が一般的になった昨今。子どもは、親の目が届くリビングやダイニングなどで勉強することが多くなっており、「子ども部屋」の在り方も変化してきている。そもそも、住宅における子ども部屋には、どのような役割があるのだろうか。
「住宅の中での物理的距離は、親子の心理的距離に影響を及ぼします。親子の物理的距離を調整し、適切な心理的距離を保つことができるのが、子ども部屋の役割と言えるでしょう。だから、その役割が全うできるのであれば、個室やリビングの一角など、子ども部屋はどんな形であってもよいのです」(早稲田大学教授 佐藤将之さん、以下同)
例えば、子どもは個室を欲しがっているけれど、親は個室だと様子がわからないから不安だという場合。個室を用意するか否かの2択に絞らなくとも、リビングにカーテンをつけて子ども用にスペースを区切るなど、ちょっとした工夫をすることで、互いにとって「ちょうどいい距離感」になることもある。
子ども部屋を作るときに考えたい、3つのポイント
子ども部屋や子ども用スペースを作る際に、佐藤さんは3つのポイントを挙げる。
①正解を決めつけず、その時々に合った形を模索する
子ども部屋について考えたとき、親はついつい「小学生になったら、個室で勉強させよう」「自分が子どもの頃と同じように、中学生になったら子ども部屋を与えよう」などと、自分の固定観念や経験で決めつけてしまうことが多い。しかし、我が子がそこに当てはまるとは限らない。
「家族で話し合いながら、さまざまな方法を試してみてください。そして、その度に子どもの様子をじっくりと観察すること。親の目がなくなって集中できなくなっていたり、親子の距離感がしっくりこなかったりと、うまくいっていない部分が見えてくるかもしれません。そうなったら、別の方法を試してみたり、元に戻したりと、失敗を恐れず柔軟に対応することが大切です」
②きょうだいがいる場合は、それぞれに合わせた環境作りをする
子どもが複数人いる家庭の場合、子ども部屋の形や与えるタイミングも悩みどころ。
「きょうだいであっても、性格や好みは違います。『お兄ちゃんがこうだったから、弟もこうしなさい』などと、同じフォーマットに当てはめようとせず、個々に合わせた環境を作っていくようにしましょう。カーテンなども活用しながら、きょうだいの距離感も調整していけると良いですね」
③ルールを決める
特に個室の子ども部屋を与えた場合、「寝ているはずの時間に、ゲームをしていた」「スマホに夢中になって、勉強していなかった」というトラブルが起きがちだ。
「子どもの性格や家庭の方針を踏まえて、スマートフォンやゲーム、漫画やおもちゃなど、子どもの娯楽につながるアイテムの置き場所や使うタイミングについては、きちんとルールを決めておきましょう。『ルールは一度決めたら変更しない』という考えではなく、子どもの成長に合わせて、定期的に見直すようにしてください」
子どもの成長に合わせて環境もアップデート
自身も2児の父親である佐藤さんは、我が子の成長や性格、その時々の状況を踏まえて、子どもが過ごす環境を作ってきた。
「長男が小学校に入ったタイミングで、それぞれの子ども部屋を作ったのですが、長男はリビングに小さな机を置いて宿題をしていました。キッチンにいる母親の顔が、いつでも見える位置で勉強したかったようです。当時、子ども部屋は寝室として使っていました。学年が上がるにつれて手狭になってきたので、リビングのソファを置いていた場所に学習机を2つ設置し、子ども用スペースとしました」
長男が中学1年生になったタイミングで、コロナ禍に。塾のオンライン授業が始まったのを機に、長男は子ども部屋で勉強するようになったそう。
「長男が個室に移っても、学習机で勉強し続けることを次男が選びました。個室に行くとだらけてしまうので、親の目があったほうがはかどるのだとか。長男が使っていた学習机は、今では母親の仕事場として活用しています。我が家は決して広いわけではなく、狭小住宅と呼べる東京都内の一戸建て。スペースに限りがあっても、工夫次第で子どもの環境をアップデートしていくことは可能です。みなさんも、試行錯誤しながら、自分の家庭、そして子どもに合った子ども部屋・スペースを作ってみてください」
お話を聞いたのは●佐藤将之さん
さとう・まさゆき/早稲田大学人間科学学術院教授。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。江戸東京博物館委嘱子ども居場所づくりコーディネーター等を経て現職。単著『思いと環境をつなぐ保育の空間デザイン-心を育てる保育環境』(小学館)で、2020年度(第16回)こども環境学会 論文・著作奨励賞を受賞。2男児の父。